ハンドメイド作品には著作権はない!?(前編)

こんにちは、TT CRAFTです。

僕は趣味でレザークラフトを楽しんでいて、長く楽しく続けたいと考えています。

ハンドメイドをしていると、人の作品に知らずしらずのうちに似てしまったり、逆に自分の作品の名前や、デザインが勝手に使われたりするということが、あり得ると思います。

さらに自分の作品を販売している場合は、そういった「パクッた・パクられた」というトラブルになると、楽しくハンドメイドが続けられなくなるでしょう。

そこで、法律が許せば何をしてもいいわけではありませんが、まずは基本知識として、知的財産について知ろうと思い、本などで調べてみました。

PART1では、特許権、実用新案、意匠権について、PART2では商標権について調べています。

僕もそうですが、仕事と創作活動で忙しいハンドメイド作家さんに、サクッと読んでもらえるよう、調べたことをハンドメイドに絞ってまとめています。
(もっと詳しく知りたい方は、巻末の参考文献を読んでください)

そして今回はハンドメイドと一番関係が深そうな著作権について調べました。

また、今回は、本などで著作権法について調べただけでは納得できる答えが見つからなかったので、過去の判例やネット上で公開されている弁護士の見解や、知財ニュースといった業界誌も参考にしています。

ボリュームが大きくなったので前半・後半に分け、前半は、そもそもハンドメイド作品に著作権があるのか?について、後半は、著作権の侵害にあたること、侵害にあたらないことについて説明したいと思います。

1. ハンドメイドには著作権はない!?


結論から言うと、基本的にはハンドメイド作品には、著作権が認められないものが多いはずです。

実際に使うことが目的のハンドメイド作品(財布・バッグ・ケース・アクセサリー・衣服など)は、基本的に著作物として認められないからです。

では、そもそも著作物とは何かについて調べてみました。

著作権法では、著作物とは、

「思想または感情を創作的に表現したものであって、文学・芸術・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」

と決められています。

一つ一つ分解してみます。

「思想または感情」…人間が考えたもの、思ったこと、こんなものを作りたい、表現したい、という気持ちがあることです。

動物が書いた絵や、AIが作った文章などは、思想または感情はないということになります。

もちろんハンドメイド作品には「思想または感情」があると言えます。

「創作的」…作った人の個性があること、オリジナルであることです。

個性さえあれば、技術のレベルや独創性の高さは関係なく、ピカソレベルの絵でなくても、小学生が描いた絵も著作権法上は保護されます。

ハンドメイド作品も「創作的」であると言えます。

「表現したもの」…絵や文章、音楽、彫刻など、何か形にする必要があります。

つまり、アイデアレベルのものは著作権法では守れず、なんらかのもの(表現)にする必要があります。

少し乱暴な例えですが、アンパンマンも水戸黄門も、「悪党にいじめられている弱い者を助ける」というアイデアレベルでは共通していますが、出来あがったもの(表現)が異なるのであれば、別のものとして両方とも著作権では保護されます。

当たり前ですが、ハンドメイド作品も「表現したもの」です。

「文芸・学術・美術または音楽の範囲」…アイデアを表現したものが、この中に入っていなければ、著作権法上の著作物と認められないということになります。

ハンドメイド作品は「美術の範囲」に入りそうですが、美術の範囲とは、例えば、絵画・彫刻等のアート作品・各種イラストとなっています。

著作権法上の美術とは、床の間に飾られて、鑑賞することしかできないようなものが美術の範囲に入ります。(『純粋美術』と呼ぶそうです)

インスタグラムで『#ハンドメイド』と検索してみると、財布やバッグ、ブックカバー、アクセサリー、人形など、「使う」ことが大きな目的になっている実用的な作品がほとんどです。

このような「使う」ことが大きな目的となっている作品(『応用美術』と呼ぶそうです)や、大量生産することが目的の作品は、日本の著作権法上、基本的に著作権は認められません。

なぜなら、『応用美術』は、美術の技術や、思想・考え方を実用品に応用していますが、どんなに芸術的で創作的なバッグを作ったとしても、バッグとして使う為にデザインの制約を受けてしまう為(大きさや、ポケット、持ち手がないといけない)、『純粋美術』と区別されているのです。

(ただし、壺、茶碗、仏壇の彫刻、刀剣など、実用性があっても鑑賞用の一品制作品は美術工芸品として著作物として認められています)

この背景としては、「使う」ことが目的のもの、大量生産することが目的のものは、工業的、産業的なデザインなので、意匠法で守るべきという考えがあるからです。

ドイツ・フランス・イギリス・アメリカなどの海外でも、基本的にはこのような考え方となっているようです。(ただし意匠法がない国は著作権で保護することになっているようです)

※手作業で時間をかけて作るハンドメイド作品は、意匠法での保護はなじまない気がしますが、今回調べた結果、ハンドメイド作品やデザイン・模様は意匠法による保護が可能とする見解の記事もありましたので、後日専門家に確認します。

2. ハンドメイド作品にも著作権が認められることもある

「基本的には」という書き方をしているのは、ハンドメイド作品の中には、認められるものがあり得るということです。

実は、著作権法上は鑑賞して楽しむだけの『純粋美術』と、使うことができる実用性も兼ね備えた『応用美術』の境界線は決められてなく、法律の解釈に任されています。

過去の判例では、実用品であっても著作物と認められた例があるので、ハンドメイド作品でも著作権が認められるものがあると思われます。

3. 著作権が認められる可能性があるハンドメイド作品

使い勝手より美の追求に重点が置かれていたり、『純粋美術』と同程度の高度芸術性を備えていたりする場合には、実用品であっても著作物として認められることがあるようです。

過去の判例をもとにハンドメイド作品が保護される可能性がある作品を考えてみました。

(1) バッグなどに施したカービングや刺繍など
バッグや財布に、オリジナルの図案でカービングや刺繍などを施した場合、その図案は著作権として認められる可能性があります。

ティーシャツ事件(昭和56年4月20日東京地裁判)では、Tシャツに描かれた模様が著作物として認められています。

(2)飾ることが目的のハンドメイド作品
一点制作でなくても、例えば手作りのリースだとか、飾ることが目的のものは著作物として認められる可能性があります。

博多人形事件(昭和48年2月7日長崎佐世保支決)では、量産品である博多人形が、美術性も備わっていることから著作物として認められる決定が下されています。

(3)(芸術的すぎて)実用できないレベルのハンドメイド作品、とんでもなく創作的なハンドメイド作品

過去の判例を調べてみると、実用品が著作物と認められるには、高度の美術性を備え、純粋な「美術作品」や「美術工芸品」と同視できる場合には著作権が発生するという解釈が多数です。

ほとんどないと思いますが、財布であっても、あまりにも高度な技術や、創作性にあふれていて、普段使いできなくて床の間に飾っておくようなレベルのものだと、著作権が認められると思います。

4.作者の個性さえ発揮できていれば、著作権が認められることもある

財布やバッグなど、実用品が著作権を認められるには、長い間、高いレベルの技術や創作性が必要という解釈になっていましたが、最近この解釈を覆す判決が出ています。

TRIPP TRRAP事件(平成27年4月14日知財高判)では、量産される幼児用の椅子について、高度の創作性がなくても、デザイナーの個性が表現されているとして、この椅子の一部分に著作物性を認めています。(一部のみのため、TRIPP TRAPP企業側の著作権を根拠にした訴えは棄却されています)

つまり、この解釈が一般化するかはまだまだわかりませんが、ハンドメイド作品も、自由にデザインを選択できて(バッグや財布として使う為にデザインに制約を受けず)、今までにない新しいデザインといった作成者の個性が発揮されている部分があれば、著作権が保護される可能性もあります。

5. まとめ

このようにハンドメイド作品は、実用品な作品であることが多く、著作権のあるなしは、個別的な判断が必要となってきます。

著作権が認められることもあれば、著作権が認められないことがあります。

僕個人の意見としては、ハンドメイド作品は、実用品ですが、ハンドメイド作家の方の作品を見ていると、それぞれ個性が表れたものですし、著作権法の目的である「文化の発展」を十分促すものだと思います。

モラルの面からも、著作権がないから何をしてもいいわけではなく、僕自身としてはハンドメイド作品に著作権が認められる可能性があるものとして、行動しようと思います。

そして後半では、著作権の侵害にあたること、侵害にあたらないことについて説明したいと思います。
話は変わりますが、ハンドメイド作品を意匠権で保護できる可能性や、不正競争防止法を根拠に模倣を差し止めることも可能です。

それらについても、今後調べていくつもりです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献

・『知的財産管理技能検定3級公式テキスト改訂10版』 
著:知的財産教育協会 出版:アップロード

・『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』
著:新井信昭 出版:新潮社

・『パクリ商標』
 著:新井信昭 出版:日本経済新聞出版社

・『著作権トラブル解決のバイブル!クリエイターのための権利の本』
 著:大串肇/北村崇 出版:ボーンデジタル

・『はじめての著作権法』
 著:池村聡 出版:日本経済新聞出版社

・『これだけは知っておきたい「著作権」の基本と常識』
 著:宮本督 出版:フォレスト出版

・『知的財産管理技能検定2級と3級を一気に学ぶ本』
著:塩島武徳/スタディング 出版:中央経済社

・『手芸作品及び手芸レシピの法的保護』
引地 麻由子 パテント2017 p.70
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2775

・朝日新聞デジタル 法と経済のジャーナル
『家具は美術の著作物となり得るか』
西村あさひ法律事務所 弁護士・弁理士 宍戸 充
https://judiciary.asahi.com/outlook/2016030100001.html

・『著作物性 - 著作権法による保護の客体』
岡村久道
https://www.law.co.jp/okamura/copylaw/chyo06.htm

・『応用美術の著作物性』
特許ニュース 平成29年2月8日 林いずみ
http://www.chosakai.or.jp/intell/pat/contents17/201702/201702_8.pdf

・『応用美術の著作権(TRIPP TRAPP事件)』
創英国際特許法律事務所HPより
https://www.soei.com/blog/2015/05/29/%E5%BF%9C%E7%94%A8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%81%AE%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%EF%BC%88tripp-trapp%E4%BA%8B%E4%BB%B6%EF%BC%89/

・『応用美術の著作物性を否定した「エジソンのお箸」事件東京地裁判決について』
著者:藤田 知美 弁護士法人イノベンティアHPより
https://innoventier.com/archives/2016/07/1396

・『応用美術と著作権 知財高裁平成27年4月14日判決を題材に』
弁護士 草地 邦晴 Oike Library No.42 2015/10
http://www.oike-law.gr.jp/wp-content/uploads/OL42-12_kusachi.pdf

・『応用美術-最近の動向のまとめ』
聖法律事務所HPより
http://shou-law.com/?p=857

・『応用美術と問題点』
知財の知識HPより
https://iphappy.com/applied-arts

・『応用美術の著作物性に関する 判断基準の提言』
中川 信治 パテント2015 vol.68 No.10より
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201510/jpaapatent201510_076-084.pdf

・『応用美術の著作物性』
I2練馬斉藤法律事務所 IC法務サイトより
https://con10ts.com/2018/07/29/%E5%BF%9C%E7%94%A8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%81%AE%E8%91%97%E4%BD%9C%E7%89%A9%E6%80%A7/

・『デザイン保護と著作権法』
スター綜合法律事務所HPより
https://www.star-law.jp/news/post-1081.html

・『著作権 25 美術(純粋美術・美術工芸品・応用美術)』
菊池捷男 マイベストプロ岡山HPより
https://mbp-japan.com/okayama/kikuchi/column/3304997/

・『実用品に付されるデザインの美術著作物該当性(二・完)
劉 暁倩 知的財産法政策研究所 vol.7(2005)
https://lex.juris.hokudai.ac.jp/coe/pressinfo/journal/vol_7/7_8.pdf

・『応用美術とは?』
社内弁護士森田の訴訟奮戦記blogより
http://www.seirogan.co.jp/blog/2012/10/post-43.html


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