見出し画像

もはやDXに頼るより方法はない! 人口減少、人手不足時代の無人店舗の意義と可能性

スーパーやコンビニの数が減っている地方はもちろん、都市部でもちょっとした買い物がしたいときに、意外と近くにお店が見つからないことはありませんか?人口減少や人手不足が深刻化する中、買い物に利便性を求める消費者と、ビジネス採算性を求める小売企業、双方のニーズを満たす解決策が待ち望まれています。
その手段の一つとして注目を集めている無人店舗の可能性について、「販売革新」編集長 毛利英昭さんにレポート頂きました。

2016年12月にアメリカでオープンした無人店舗「Amazon Go」。ITを駆使した新しい店舗の在り方を見せ、流通業界の関係者だけでなく、生活者にも衝撃を与えました。
それから7年。日本にもさまざまな無人店舗が登場。人口減少と人手不足が深刻化する日本で、大きな期待がかかっています。
今回は、進化し続ける無人店舗の可能性について考えてみます。

あらゆる課題の原因は人口問題にある

近い将来、日本の政治の中心課題は人口問題に終始することになる」と語ったのは、日本の企業経営者に最も大きな影響を与えた経営学者P.F.ドラッカーです。かれこれ30年以上も前にアメリカの経営情報誌のインタビューに答えた時の言葉と記憶しています。
まさに、現在の社会保障制度などの問題は、人口問題そのものが原因といえるでしょう。
人口問題とは、申し上げるまでもなく、過去に例がないほど急激な人口の減少と高齢化です。政府は少子化対策などに力を入れていますが、正直、遅きに失した感があります。
日本の人口減少は改善するどころか拍車がかかっている状況で、日本人は将来レッドリストに記載されるのではといった悪いジョークが口に出るほど深刻な事態に向かっています。

(出典)総務省「我が国における総人口の長期的推移」(一部加筆)

地方の人口減少は本当に深刻です。2023年12月に国立社会保障・人口問題研究所は、「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」で、2050年の総人口は東京都を除いた全ての道府県で2020年を下回り、秋田県など11県では30%以上減少すると、衝撃的な推計結果を公表しました。
大都市で生活する人には実感が湧かないかもしれませんが、地方の企業経営者に将来について取材をすると「私の会社のことよりも、この地域の人口減少に歯止めをかけなければ町が消えてしまう」といった声をたびたび耳にするほどです。

人口減少が流通業界に与えるインパクト

人口減少は、あらゆる業界、さまざまな分野に影響を与えていますが、小売業、飲食業にとって最も深刻なのは、商圏人口の減少と人手不足でしょう。地方では、採算の取れないスーパーの閉店が続くなど社会問題化しています。
地域社会を支えるインフラともいえるスーパーは、都市部では新規出店が続いて店舗数は増加しているものの(一般社団法人全国スーパーマーケット協会調べ)、地方では閉店するスーパーが後を絶ちません。
高齢化も進み、25道県では2050年に65歳以上の人口割合が40%を超えると予想されており、生産年齢人口も減少し人手不足も加速しています。
閉店したスーパーに代わってコンビニがその役割を担っていますが、コンビニの規模でも営業がままならないというエリアも多くあり、以前からいわれている地方の買物難民問題はより深刻さを増しています。
食品をはじめとする生活必需品を提供する小売店は、電気やガス、水道そして交通と同じく、地域を支える社会インフラであり、地方住民の生活に与える影響は大きなものがあります。
しかし、これまでと同じ店舗スタイル、同じ運営方法では、採算が取れず存続が難しくなっており、ドラスティックに店舗の在り方を変える必要に迫られています。
例えば、ネットスーパー、移動販売、自動販売機そして無人販売店舗などによって、地域住民を支えるより方法はないといえるかもしれません。

(出典)総務省「国勢調査」/国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より作成

深刻化する人手不足 切り札はDX

人手不足は、小売業、飲食業、宿泊業などに大きな影響を与えています。
飲食店では、アフターコロナで客足が戻る中、人手不足を理由に閉店に追い込まれる店を目にします。
ホテルや旅館は、人流の復活で国内旅行客が急増し、訪日外国人客もコロナ禍前を上回る勢いがありますが、従業員が集まらず、中には客室稼働数を減らし、少ない従業員でも運営できるようにしながら、料理などを見直し客室料金を引き上げる傾向も見られます。
企業には雇用を創出する使命もあり、高齢者などでも働ける環境をつくり雇用を促進することは必要ですが、圧倒的な人手不足問題を解決するには、これまでの延長線上のシステム化では追い付きそうにありません。
トヨタ自動車の元社長で会長も務めた奥田碩氏は、日本経済団体連合会会長時代に、日本はもはや移民を受け入れるより方法はないと発言しましたが、その言葉を借りるなら「もはやDXに頼るより人手不足を補う方法はない」という事態になっているといえるでしょう。
小売業界では、コンタクトレス化(非接触)へのニーズと相まってセルフレジの導入が加速しました。
消費者にも浸透し、安心して便利に買物できる機能としてだけでなく、省人化、省力化に大きな貢献を果たしています。
今後は、人手不足に加え、賃金の引き上げや社会保険枠拡大等に伴う人件費のアップに対処するため、さらなる省力化、省人化による生産性向上が求められます。

可能性広がるマイクロマーケット

商圏人口の減少は続く一方ですが、未開拓な立地はまだあります。いわゆるマイクロマーケットです。
ルーラル(町村部商圏)だけでなく関東近郊の新興住宅地エリアでも、「近くにコンビニがなく不便だ」という“コンビニ難民”と呼ばれる人の声が聞かれますし、高層オフィスビルでは、昼食時間帯にエレベーター渋滞が発生し、昼食をゆっくり取ることができないといった声があり、福利厚生の一環でオフィスに弁当の宅配業者を招くなどの対応も取ってきました。
大きな敷地を持つ工場では、福利厚生の充実のために食堂や売店に注力するものの、それでも、離れた執務場所から10分以上かかってしまうようなところも少なくありません。大きな工場では、食堂に着いてすぐに食事をして慌ただしく職場に戻るといった光景が見られます。
また、病院にもコンビニが出店する時代になりましたが、さらに病棟ごとに自動販売機の設置や小さな売店を望む声もあります。自動販売機タイプの無人ストアを展開するベンチャー企業に続いて、大手コンビニも不動産会社と連携してマンションに設置するなど隙間市場を開拓しています。
そして政府は、高齢者が多く住みながらも、建築基準法によって、これまで出店できなかった住宅団地の敷地内での商業施設を認める方向で、これまで規制の壁に阻まれていた立地にも光が当たりそうです。

無人店舗は、地方の過疎地、マイクロマーケットの救世主になる

このように、人口減少でスーパーが閉店し買物難民が増えた過疎地や、未開拓なマイクロマーケットでは、人手不足や採算性の問題から出店が難しいのが実情です。
そこで、無人で運営できローコストで出店できるシステムがあれば、消費者にとっても販売する小売店にとってもメリットがあります。
今の無人店舗システムは、AIカメラやセルフ決済の技術によって無人で運営できる店作りを確立しました。まさにDXにより新しい店舗運営形態を実現しており、今後はITシステムよりも運営システム面での課題が今後の焦点になるでしょう。
例えば、商品や備品の補充や、売場のメンテナンス、盗難などの防犯対策、そして小さなスペースでの品揃えの工夫です。一般的なPOSデータ分析は通用しにくく、立地や季節に合わせるだけでなく、利用者の声を集めAIを活用するなどして品揃えを最適化する対応も必要です。
このように無人店舗には課題もありますが、それ以上に未来の小売業の在り方を考えていく上で、AIなどの技術を駆使したDX推進による業態革新は加速するに違いありません。

無人店舗の意義

最後に繰り返しになりますが、なぜ今、無人店舗に熱い視線が注がれているかについて考えてみたいと思います。
無人店舗の先駆けであるAmazon Goの閉店が報じられ、無人店舗にネガティブな意見もありますが、Amazonにとってはリアル店舗の売上はもともと眼中になく、新たなテクノロジーも実験的な意味合いが強かったと考えられます。
実際、手のひら認証で決済などを行うAmazon Oneは、導入店舗が急激に増えています。
また、中国では無人店舗Bingo BOXが撤退しましたが、現地の方の話しでは、上海などの大都市では、隣に有人のコンビニが建ち並んでいる状況で、そもそも無人店舗を選択する必要がないという声が多く聞かれます。
このような事情を考慮せずに、無人店舗はダメというのは早計すぎます。
これまでに述べてきたように、日本では事情が異なります。ではなぜ無人店舗なのかその意義を最後にまとめたいと思います。

(消費者側の視点)

  • 地方でスーパーなどの撤退が続き、買物できない住民が急増していて、日常生活に欠かせない必需品を買える場を作る必要性がある

  • 高齢化が進み行動範囲に制約が出たり、スーパーに行くにも交通手段がなかったりする地域が増えている

  • 都市部では、駅ナカなどでより簡単・便利に素早く買物を済ませたいというニーズがある

  • すぐ近くに買物の場があれば、もっと便利により時間を節約して仕事ができる

(無人店舗側の視点)

  • 買い物難民が増えていて社会インフラとして買物の場を提供したいが、既存の形態では採算が取れず継続的に事業を続けられない

  • 無人店舗であれば、最も割合の高い人件費を抑えることができ、小型にすることで初期費用も抑えられ、今までにない損益分岐点の低い店を開発できる

  • オーバーストアと言われて久しいが、小型無人店舗であれば新たな立地を開発でき、事業の幅が広がる

  • 無人店舗で活用しているテクノロジーを現有店舗に応用することで、既存店の生産性向上をさらに進めることができる

このようにDXによる革新的な新業態である無人店舗には、数々の意義があり、高度化するAIなどの技術によって課題を乗り越え、広がっていくと考えられます。

(取材・文:「販売革新」編集長 毛利英昭)

人口減少・人手不足の現状と課題、日本における無人店舗の意義と可能性についてレポートしていただきました。商圏人口が少ない地域やマイクロマーケットへの出店は、人手不足や採算性がボトルネックとなっているため、人員やコストを抑えながら運営できる無人店舗は消費者と小売企業の双方にメリットがある店舗形態といえるでしょう。その一方で、限られたスペースでの品揃えの最適化や、売場のメンテナンス、防犯対策などのさらなる向上も求められており、そこにはテクノロジーの活用が期待されています。

東芝テックもTOUCH TO GO社と連携し、無人決済店舗システム「TTG-SENSE SHELF」を開発するなど、マイクロマーケットのニーズに応える価値創出にチャレンジしています。これから無人店舗がどのように進化していくのか、世の中のトレンドや私たちの活動も含めて今後もお伝えしていきたいと思います。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!