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貧困旅行記 つげ義春

世の中の尺度で、ダメな人間ていますよね。働けるのに働かないやつ。才能あるのに努力しないやつ。"向上心のないやつは馬鹿だ"とか、"努力しても成功しないかもしれない。しかし、努力しなければ成功することはない"とか、よく聞きます。ずっと聞いてました。ああ、頑張んなきゃとか思いました。けど、いっぱいいっぱいなんですよね、いつでも、生きることって。だから、私はつげ義春が好きなんです。この旅行記の冒頭の一編なんて、人としてダメダメです。でも、読むとええんですなあ。勿論つげ義春さんは天才です。でも自分は"無能の人"と思っている。かっこつけじゃなくて、ほんとにそう思ってて、自ら吸い寄せられるように、限界集落の廃墟同然の温泉宿に行ってしまう。周りがどんなに評価しても、そういうことじゃなく、自分のダメさ加減に、卑下することなく、素直に向き合っている。その様が愛しいのです。稀有の人です。なんか最近フランスで表彰されたとか、フランス人、さすがわかってる。ですがフランス人、できればそっとしといて欲しいです。もう、たぶん漫画も文章も書かないでしょう。でもいいんです。生きてるだけでつげ義春はいいんです。そっとしといてあげましょう、みなさん。
(「貧困旅行記」つげ義春 晶文社)

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