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Fat Tower of the Sun

JR大阪駅で電車から降りた時、
どよんとした空気を感じませんか?

僕は、実家のある大阪への帰省たびに、
どよんとしいて、ねちょっとした空気を毎回感じる。

異様ではあるが、なつかしさも感じる。

おそらく、
大阪市民が発した関西弁の音波が、
大気圏にぶつかり、乱反射して、
空から複雑な波動となり降り注いでいるのだろう!

やけに近代化された大阪駅は、
なじまない感じがいつもする。

この年末の時期になると、
帰省時にショックを受けたある事件
を思い出す。

それは、
大阪から名古屋へ転勤した年の
年末の出来事で、

実家へ帰省する途中の大阪環状線の電車の中で、
人の会話が聞き取れなくなっていた。

はじめは皆、外国人かと思ったが、
傾聴すると、日本語であることはわかった。

男子たちの会話は、なんとか聞き取れた。

A:「おまえ、アホやろ?」
B:「おまえこそ、アホや!」
A:「なにいっとんねん。アホはお前や!」

と、お互いにアホアホ言い合い、
じゃれあっているだけで、
関西の高校男子では、よくある会話だ。

難易度は、TOEIC PART1の写真問題レベル。

高校男子が2名がじゃれ合っている写真。
写真の背景には通天閣が映っている。

選択肢は4つ

(A)ハイスクールボーイズが、アホアホと言いっている。
(B)ハイスクールボーイズが、バカバカと言い合っている。
(C)ハイスクールボーイズが、コイバナで盛り上がっている。
(D)ハイスクールボーイズが、カラオケで盛り上がっている。

正解はA。
通天閣が映っているので場所は、大阪。
大阪でバカは、一般庶民は使わない。
男子のアホな表情から、コイバナを話し合っているようには見えないし、写真からは、話がコイバナかどうかの確証が得られない。

誤解のないようにしておきたいが、
関西でのアホは、
かわいいとかの親しみのニュアンスも含まれ、
決して侮辱用語ではない。

問題なのは、女子高生の3人組の会話。
ちょいヤンキー風で、ギャル風ではない。

A:「□○▽~。。。」
B:「昨日、◎▶□×~。。。」
C:「●□×~。。。」
A:「おかん□×~。。。」

単に音声の塊。
単語が1つか2つわかるぐらいだった。

とにかく話のテンポが速い。

TOEIC PART3の会話問題ならば、
設問に会話のテーマのヒントがあるが、
リアル女子高生の会話にヒントはない。

たった1年間、中部圏で生活しただけで
関西弁のヒアリング能力を喪失したのだろうか?

関西弁というものは、
冷静に分析すると実にけったいな言語で、
名古屋で使うと、ぽかんという顔をされる。

仕事の場では、
語尾が誤解されることが多かったので、
標準語に矯正するしかなかった。

そうすると、たまに東京の方ですか?
と聞かれることもあり、
東京コンプレックスをもつ関西人として、
何とも言えない優越感を感じることもあった。

そもそも関西と中部では、人の気質が違う。
中部圏は、ひとことでいって「まじめ」

同僚のお土産のお菓子に、
マズイ

というと、
もらったものにそんなこと言ってはダメ!と、お叱りを受ける。
関西では、皆でマズイ、マズイとブーブーいうだろう。

京都人の平安時代からの婉曲表現なら、
面白い味やね

だけど、関西人は何でも笑いに変えたがる。

この近代国家日本で、
名古屋ー大阪間は、
新幹線で1時間、近鉄で2時間、
こんなに近いのに、これほど違うことには驚愕した。

名古屋で関西弁を捨てた罪と罰を背負い、
関西弁のヒアリング能力に自信喪失した僕は、
幼なじみのユウコに電話で相談した。

「そんな、あほなことある?小学校からやりなおしたら??」
と軽く笑い飛ばされたものの、

関西女子の特徴として、
口は悪いが根は優しい。

バリバリ関西女子のユウコに会って、
ネイティブ関西弁のヒアリング能力を
ほんとうに失ったのかどうかを、
テストしてもらうことにした。

ユウコが、
国立民族学博物館へ行きたいというので、
万博記念公園駅で待ち合わせた。

駅から、国立民族学博物館を目指し歩いていると、

ユウコが、
太陽の塔の全身が見えてきた頃、
ボケをかましてきた。

「太陽さん、少し太りはったんとちゃう?」

「そんなわけないやろ!」
ボケには、間髪を入れずに突っ込まないと、
関西では会話が成り立たない。

「そうかなあ、太陽さん、なんか腰回りに貫禄ついてんで~」

塔のどこからが腰なのか、ツッコみどころ満載だけど、
中部では、これで会話が終わっても問題ないだろう。

関西では、そう簡単には終われない。
なぜなら、まだ話が落ちていないからだ。

万一、落ちない時は、最終手段として、
朝日放送の超長寿番組『探偵ナイトスクープ』へ
調査依頼すればよいので安心だ。

真偽は専門家に確かめるしかない。

太陽の塔の内部は、見学できるようになったので、
受付で聞けば何かわかるだろう。

「太陽さんを近くで見るのん10年ぶりなんやけど、少し太りはったんちゃいますか?」
と、ユウコが太陽の塔を指さしながら、
タカラジェンヌ風の受付嬢に真正面から疑問を投げかけた。

ユウコは、外資系コンサル企業で働いている。
外資系でのコミュニケーションは、直球勝負が推奨されていた。
意見が対立する時、自分の立ち位置を明確にした上で、意見を言う。
それが問題解決の早道だと新人研修で学んだらしい。

「えーそうですか?太陽の塔がですか?」
と受付嬢は、かわいらしく右10度に首をかしげて、
隣の厚化粧の受付嬢と視線を合わせて、少し考えた後、

「もしかしたら、耐震工事で20センチほど内部の厚みを補強したので、
どっしり感がでたかもしれませんねえ」

と笑顔で答えた。

「ほらな。そうやろ!」
ユウコは、振り返って勝ち誇ったドヤ顔を僕に向けた。
「ウエスト20センチって相当やで!」

隣の厚化粧の受付嬢も、首を上下に動かして、
ソヤソヤ、と完全同意している。

そうだ、これだ!
思い出した。

絶え間なくダイナミックに展開し、
川の流れような自然な会話こそ、関西弁の極致。

「そんなわけないやろ!」
と盲目的になっていた自分を恥じた。

このリズム、このスッキリ感。

これこそが、
大阪駅で感じる得体のしれない空気感の正体だ。

太った太陽の塔を見上げると、

太陽さんも、ウンウンと

わかるわー
と共感しているように見えた。

ユウコからのリハビリ治療を受けて、

再び、漫才のようなおもしろい会話を、
街中で無料で聞けるようになった。

めでたし、めでたし。







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