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一年限定のお試しひとり暮らし(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1578日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。




おはようございます。
山田ゆりです。

今回は
一年限定のお試しひとり暮らし(ショートショート)
をお伝えいたします。




えっ、どうしよう。
味噌が無い。
野菜を入れて後はみそを入れるだけなのに。
スーパーはもう閉まっている。

ガスコンロの前でどうしようかとのり子は
考えた挙句、昆布だしをもう少し入れて塩味のお吸い物にした。
野菜に塩味は合っていた。小皿からズズッとすすりながら舌に感じるうまみに一人悦に入っていた。



のり子は家から駅まで徒歩6分、電車に6分乗り、徒歩5分で勤務先に着くという、好条件の実家暮らしだった。


このまま、ずっと実家暮らしでいても良かったが、跡継ぎの兄がその内結婚したら私は家を出た方がいいだろう。
独身の私が家にいたら、お嫁さんが居づらいだろうから。


でも、私は自分のお給料だけで暮らしていけるか。また、きちんと部屋を片付けて綺麗に暮らせるだろうか。のり子は一人暮らしが不安だった。



のり子にお付き合いをしている人はいなかった。もともと結婚願望が無い。
そこでのり子はひとり暮らしを試してみようと思った。期限は一年。
「1年間だけひとり暮らしをテストしてみる」と決めた。


のり子は早速、住むところを探し始めた。数か所、内覧し、学生街にある、2か月後に完成予定のワンルームマンションに決めた。
そこは会社まではバスかまたは徒歩30分位のところで、東と南に窓がある明るい部屋だった。


住む場所が決まったところで、可愛い食器や使いやすそうな鍋などがいっぱい飾られている夢がいっぱいの売り場を見て回った。

あれもこれもと買い物かごに入れ長財布の中を覗きながらレジに向かう途中、ふと、冷静になった。


何もかも新しいもので始めるのは嬉しい。でも、それはどうしても買わなければいけないものなのか。
実家にあるもので足りるのなら、買わずにいよう。そう思い直し、一つずつ商品を売り場に戻した。
お茶碗と汁椀、そして箸、その3点だけ購入した。


寝具類は実家のいただきものの中から分けてもらった。
テレビは見ないから要らない。
冷蔵庫と洗濯機は1年契約でレンタルし
あとは自分のPCを持ち込んだ。

ベッドは置かず、布団を上げ下げした。食事兼勉強用の机は、PCを使うため、しっかりしたものが必要だった。
このテーブルは実家には無かったので家具屋さんから購入した。


のり子は毎朝、1合のご飯を炊いた。それを一日で食べきって夜にお米を研いでセットする。この何気ないことでも、「自分の生活を自分でしている」という実感が湧いてきて、嬉しかった。

玉ねぎはスライスして冷凍庫へ。ほうれん草も湯がいて小分けにして冷凍庫へ。お味噌汁は日高昆布で出汁をとり、その使い切った昆布も軟らかく煮ていただいた。

ひとり分の食事はおままごとをしているようで楽しかった。


ある日、珍しくチャイムが鳴りドアを開けたら女性二人が立っていた。それは宗教団体の方だった。

悩みはありませんかと聞かれた。
のり子は特定の宗教に偏る気持ちはなかったのでやんわりとお断りした。


しかし、数日後、また勧誘に来た。
要らぬ勧誘を断るにはどうしたらいいのかと同僚に相談したら、「そんな時は男性の靴を玄関の見えるところに置けばいいのよ。女性の一人暮らしだと思って相手は強気に出てくるんだから」

なるほど。

のり子は早速、兄にその話をした。兄は喜んでビジネス用の革靴を貸してくれた。
その大きな革靴をピカピカに磨いて玄関の見えるところに置いた。



すると、それを見られてからは勧誘がぱたりとなくなった。効果てきめんである。
ただ、何も知らずに突然訪問してきた母に信じてもらうには時間がかかり冷や汗をかいた。





せみ時雨が終わり
庭の木々が綿帽子をかぶり
そしてまた新しい年を迎えた。


今年も早咲きの桜はすでに散ってしまい
リンゴの白い花が満開になった。




ひとり暮らしを始めて一年になろうとしていた。



小鳥のさえずり。
軽トラでシジミ貝売りの声がのんびり走り去る。
東側の窓から朝日がふわりと入ってくる。



のり子はこの一年でいろいろな事を学んだ。
そして、自信が無かったひとり暮らしにも慣れた。
自信がないからできないと足踏みしているよりも、まずは行動をしてみる。
自信は最初からあるのではなく、行動することで自信が生まれるということをのり子は知った。


人と比べず、自分の判断で生きていく。
この一年、たくさんの選択する場面に遭遇し、その都度、落胆したり、自己嫌悪に陥ったり、迷い、惑い、どうすればいいのか悩んだ。
相談できる人もできた。葛藤は大きいほどそれを乗り越えた時の自信は大きかった。

そして、結婚観も大きく変わった。



ワンルームマンションののり子の部屋はお味噌汁の匂いに包まれていた。

のり子は今朝も朝ごはんの支度をしていた。
お米は2合。

テーブルには大小2つの茶碗と汁椀、そしてお箸。



「おはよう。ご飯できたよー。」

「ウーン」

布団の中から大きく伸びをした腕が飛び出た。




一年限定のお試しひとり暮らし。


のり子はその自分との約束を守った。

「ひとり暮らし」は一年だけという約束を^^






今回は
一年限定のお試しひとり暮らし(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。








◆◆ アファメーション ◆◆
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私は愛されています
大きな愛で包まれています

失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています

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