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関西放浪記 その2(帰還までのお話)

2019.10.08 PM13:00 
前日の夜の行進もあり沈むほど深く眠りについた、この天満という街について初めての熟睡だった。疲れも眠ればとれていた、暗い窓のない部屋からでて歩いた。商店街には変わらず人々が行き来していた、それがなぜか心地よくて安心した。昨日4時間歩いたなんて苦労話にもなににもならないまさに醜態ではあるのだけど、少しだけ面白い体験をしたんだなと思えた。扇町para-diceの楽屋でなぜか眠っていた安井さん(ブッカー)からサバイブしてるなって言われたけどこんな元気な47歳みてたら人生まだまだやっていけるなって思った。沢山曲を作ろうと躍起になっていたけどどうやらツアー中に曲作りは向いてないなと思った。すべてが終わった後に丁寧に丁寧に当てはめて行こうと思ったメロディに。その為に今あるものを紡いで生きたい。もうすぐライブがはじまる、今日はなんだかすごくステージに立つ前から涙が溢れそうだ。なんでだろう理由なんてわからないけど素直に音楽を鳴らせる気がしてる。 


2019.10.11 AM0:30  10/10のこと
人に見つけてもらえるって幸せな事、口先だけの繋がりではなく愛情がある広がりにいつも救われている。淡路にあるcafe&bar アトリは音楽機材的環境もなく10人いれば満席になってしまう小さなcafeだ。電子機器を何も使わず、生身の声と生鳴りするギターの音だけ。それがいかに難しいのか僕は知っていた、なにも誤魔化せないからだ。本当に腹の底から出している透き通った声、ギターの繊細な音、それらはとても集中力のいる技術で要するにその人の音楽的技術力と表現力がまるっとわかってしまう状態でのライブになる。良いものは素直に伝わる、上手さがすべての世界じゃないからこそ核心に近くなるフィールドでの音楽。もっとも原始的でもっともアコースティックな環境。そんなアトリでは幸いな事に席はすべて埋まった。顔触れの殆どがこの関西という地で初めて出会った人々達だった。みんな喜んでくれていた、再会は自然と頬が綻ぶ。だから精一杯最小の音楽の世界で歌をうたった。自分の今日までの日々の事を聞いてもらった、それはこぼれ落ちるように今日までの事をみんなに聞いてもらった。それを踏まえてこんな歌ができたと話しをした。決して楽しい日々だけではなかった、どれくらいの夜を越えてきたか。そんなの今まであまりしたことがなくて自然と溢した自分が驚いた。あの時自分が見たかった世界を少しだけ見れた気がした。雲の隙間から少し光が溢れた時のような感じ、臆病になっていた心をほどいてくれたのは人だった。もう何万回もこの答えに辿り着いてるはずなのに始めて正解を見つけたような気持ちで一層集中力は増していった。冷静に、でもこの暖かな時間を手放さないように。終演後食べたご飯が久々に人が作ってくれた暖かいご飯でホッとした、その夜はその後も止むことがないほど話を続けた。今日は胸を張っていえる、今日まで歩いてきたから迎えることができた夜だと。

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2019.10.11 PM16:50 阪急電車内 ipadのメモ書き
世間は台風19号のことで慌ただしい、みんな身体に刻まれている恐怖や不安がある。それらは伝染する、前日に地下室扇町para-diceで安いさん達と飲んでいた時、僕が教科書でしか知らない阪神淡路大震災の話をしてくれて(安井さん当時21歳)三宮駅前には強姦なんて普通に起きていてパンクス達やヤクザがそれぞれ自警団を組んで国の権力より早くに対応、対処していたらしい。どさくさに紛れた人殺しだってあったはずで、どこからがデマでどこからが本当のことかわからなかったと当時を振り返っていた。ただ平穏と日常をすごしていた人でも天災は人を狂気に駆り立てる、自分を守る為だったりするのに狂気を受け入れてしまったり。それらから身を守るために暴力で自衛したり。なにが正しいとかは今を持ってしても言えない。東日本大震災の時僕は九州のただの高校生だった、新鳥栖駅開通の日であの時の混乱も恐ろしかった、好きだったラジオSOL(SCHOOL OF LOCK)で遠い東北の街で絞るかのように無事ですとか、助けが欲しいとか、messageが届いていてきっとリスナーのほとんどが年齢の変わらない子供だったはずで九州でのんびりとしていたことにすごくストレスやフラストレーションを感じてたし、もちろん大人達だってピリついていた。今回の台風だってそう、実際地元の九州でも甚大な被害がでている、当たり前だとおもっていた営みが強制終了される瞬間、思い出たちがすべて流されていくあの苦しさを目の当たりにしてきた。今一度思い出させてくれた、この日々も、この平日に当たり前のように集まれるということも言ってしまえば奇跡のようなことで。それを目の当たりにして僕はそこを担うステージに立つアーティスト側の人間なのであってうたうたいなのであるから。ただ自分満足なステージではなく人の心を揺れ動かすものを手渡したいと思った次第だった。今日はそれらの感情を持ってキチンとステージに上がれる。最終日にどんな景色をみれるだろう。


2019.10.12 AM18:00 
SNSでは12日にくる台風が地球観測史上最大の台風だと流れていた。外の天気は大雨でいたけど幸いなことにそこまで凄まじいものではなかった。昨日のライブの余韻に浸っていた、それと同時に本来今頃新幹線に身を任せ九州についているはずだったけどそうもいかなかった。計画運休、誰に文句も言えないししょうがないことでしかたなかった。京都nanoのまーこおばちゃん(nanoのオーナーさん)に明日帰れないと笑いのネタとして話をしていたら『それももしかしたら神様の巡り合わせかもしれないよ』と言われてその時は励ましてもらってるんだなってただ思っていただけだった。しかしやることがないので今日まで手帳やメモで書いていた日誌を文字おこししようと思う。というのも体調があまりよくない、低気圧のせいだとおもうし昨日のお酒も抜けない。para-diceでは今日のイベント関係の人が集まっていたから近くの喫茶店にはいった。幸いなことに前々日くらいからの収益のおかげで久々に昼食にありつける。

もうすっかりこの街の虜になってしまった。引っ越してきたいななんて思ったけど、改めて思う僕はぼくの町でやり残したことがまだある。すべてを終わらせてから身をどこに委ねるのか考えようと思った。すべての文章を文字おこしが終わって次に手帳に新譜の構想を書き始めた。色々なイメージが湧く、今日までの日々とこれからの話を考える時が楽しい、こんな先の見えない人生を自分が作り出していくみたいで。勿論工程や納期をいくら設けてもそれどうりにいかないことがほとんどで(とくに個人でやってる場合)それでもこうやって頭の中に沢山あったアイデアを集約して一つの設計図をおこすみたいに書いていくのは本当に面白い。これが次に世に発表する自分の作品たちだと思うとぞくぞくする。革命はいつも小さなノートの中から始まっている。でも書けば書くほど自分だけの力ではどうもできない部分があると思った、それはどこからどこまで人に頼ればいいのかわからなかった。構想も音のイメージもある、沢山あるけど誰かの意見をききたかった。
扇町para-diceにもどってきたら本当に偶然にもASAYAKE01さんが居た。

その話はまた違う記事で、台風で立ち往生した日の魔法のような出来事。


2019.10.13 PM19:00 (新幹線の車内)
いろいろな人の力を借りて、この街をでる。
行きの夜行バスに乗ってこれからのことが不安でしょうがなかった手持ち4,000円しかなかった自分が、なんとかなったのはたまたまではなくて本当にこの街で必要としてくれている人が対価を払ってくれたり、応援してくれる人々のおかげでなんとか死なずに済んだ、なんとかなってしまったわけではなく自分は繋いでもらったんだと実感した。歩けば歩くほど息苦しくて背負ってきているんだなと思っていた者たちと今はちゃんと真正面から向き合ってこれからどうしていきますと言えるような気がした。

帰りの新幹線の車内でふと友達が歌っていたうたが聴きたくなってYouTubeをひらいた。

かなしみのかわり / airlie
見慣れた街が
遠ざかる電車の窓に
いつか来るその時の君を見ている気がした
夕焼けの色がいつもより赤く燃えている
解けることのない強さを見ている気がした
これから長く続く険しい
道で迷わないように願っているよ
いつでも帰ってきて

ただ思っている
ただ伝えきれない
風の日も雨の日も晴れの日も
心の側で思っている
ただ思っている
ただ伝えきれない
かなしみのかわり
祈りある愛を

変わっていくことに
戸惑う姿も美しい
大丈夫いこう
いつでも信じてるほうへ

ただ思っている
ただ伝えきれない
風の日も雨の日も晴れの日も
心の側で思っている
ただ思っている
ただ伝えきれない
かなしみのかわり
祈りある愛を

手向けてもらった気がした、こんな満身創痍な日々の中で小さな花束を受け取ったような気持ちだった。たった2週間ほどの日々ではあったけどすごく長い旅路だったな、でもその終わりのエンドロールがこの曲であってほしいなと思った。長い映画をみているようだった、すべてがすべてうまくいったわけではなくそれでもそこにはまた人がいて、最後の最後に出会いもあって。夕刻の街に沈む夕日をながめながらこの曲をずっときいていた。

ぼくの旅路のエンドロール。

九州に帰ってきたらやることも向き合うことも終わらせることも沢山ある、少し気を休めることもできないけど、もっともっと忙しくなるけど乗り切らなくてはいけない。でもこの電車を降りるまでは少しゆっくり眠りたい。


▽前回の記事

今後のlive schedule.


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