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400年の時を超える愛を称えよ!『マガディーラ 勇者転生』

 2018年4月26日は、最初の奇跡が起きた日。映画『バーフバリ』シリーズの創造神、S.S.ラージャマウリ監督が来日し、舞台挨拶を行った記念すべき一夜。作品を愛する誰もが歓喜した、最高の瞬間だった。

 そんな日本でのバーフバリ旋風を目にした監督から、思いもよらぬプレゼントが舞い込んできた。監督の過去作である『Magadheera』を、日本のために特別編集した「世界初公開ディレクターズ・カット国際版」にて、民の元に届けてくれたのだ。偉大なる娯楽映画の王『バーフバリ』の、その原点を大スクリーンで観られる貴重な機会、これを見逃してはバチがあたる。

1609年のウダイガル王国。国王の娘ミトラ姫と愛しあっていた勇敢な戦士バイラヴァは、軍司令官ラナデーヴの陰謀により命を落とす。
400年後、ハルシャという青年に生まれ変わったバイラヴァに前世の記憶がよみがえり、ミトラ姫の生まれ変わりインドゥと運命の再会を果たした。だが、かつて二人の仲を裂いたラナデーヴの生まれ変わりラグヴィールが二人の仲を引き裂こうと、卑劣な罠を仕掛ける。

 筆者のように、『バーフバリ』⇒『マガディーラ』と製作年を遡って鑑賞した方も多いはず。すると、二作の共通点が自然に浮かび上がってくる。

 現在と過去、二つの時代を行き来するストーリーに、神的なカリスマを持ち合わせた主人公と、女性を巡って英雄と対立する悪役。『バーフバリ』の基本骨子は『マガディーラ』から受け継がれ、そして洗練されていったことが伝わってくる。時代を超えた生まれ変わりという「転生」は、輪廻はインド映画では多様されるモチーフだが、監督のフィルモグラフィーから辿るとするなら『マッキー(2012)』が思い起こされる。

 ウダイガル王国の気高き戦士バイラヴァとミトラ姫は相思相愛でありながら、身分の差やラナデーヴの妨害もあって、悲劇的な最期を迎えてしまう。その報われない思いの成就を、現代パートで達成する、というのがメインストーリー。二つの時代をリンクさせるモチーフとして白い布(ストール/ヴェール)と馬がたびたび登場するのも、『バーフバリ』における「火の儀式」「鎖」の扱い方を彷彿とさせ、演出としての巧みさはもちろん、異なる時代の想いが交差するアイテムを使ったアクションシーンは、観客の溜飲を下げるのにうってつけの手法だ。

 とはいえ、『バーフバリ』は25年の時を隔てた親子二世代の物語だったのに対し、本作はなんと400年である。冒頭、英雄と姫の悲劇が明かされた後、唐突に現れたバイクに乗ったサングラスの男!おおげさな爆発!駄目押しのタイトルロゴ!!と、とにかくテンションの落差が凄まじい。このインパクトについては、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。どれだけ言葉を尽くそうと伝えきることはできないオープニングシーンで、現代パートは幕を開ける。

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 このバイク男こそ、バイラヴァが転生した姿ハルシャ。彼はミトラ姫の生まれ変わりであるインドゥと出会い、お互いの手が触れ合うことで400年前の記憶を断片的に思い出してゆく。そこに運命を感じたハルシャはインドゥにアタックをかけるのだが、若干ストーカー風味な押しの手法も、『バーフバリ』におけるアヴァンティカに対するシヴドゥのようで、可笑しさがこみ上げる。そんなハルシャをからかいつつも少しずつ惹かれてゆくインドゥもとてもチャーミングで、彼女からは健康的なお色気要素が漂うのも、インド映画の特徴だろうか。

 そんな二人の距離が縮まったようで、でも決定打には至らない関係にヤキモキしていると、その中に割って入るのがラグヴィール。彼はミトラの従兄弟であり全ての元凶たるラナデーヴの転生であり、運命に導かれるようにインドゥに惹かれ、彼女を我が物にしようと悪事を働いていく。容赦なく邪魔者を殺し、欲しい者は何でも手に入れようとする、典型的な悪役タイプ。

 ついに揃った三人の転生者。ハルシャとインドゥの不仲が決定的になるタイミングで、物語は400年前に再び遡り、冒頭の悲劇の真実が明かされる。ここからは製作年度の都合もあり、現代の基準からすると拙く感じるクオリティの映像が目につくものの、豪華絢爛な舞台と、めくるめく踊りのシーンは、やはり観ていて楽しい。そしてクライマックスには、窮地に陥ったバイラヴァが挑む1対100の合戦シーンなど、盛り上がりも最高潮に。こと娯楽に特化したインド映画の真骨頂を浴びるほど堪能できるため、『バーフバリ』ファンでなくとも心地よく楽しめるはずだ。

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 本国インドとは異なる順番での鑑賞で、いかに『バーフバリ』という傑作が産まれていったのかを知ることができる、とても興味深い鑑賞体験が得られる。例えば、本作のダンスシーンはキャラクターのエモーショナルを伝播する役割を果たしつつも、序盤の「雌鶏」の件はその間物語が停滞してしまっている。そうした弱点を克服し、違和感を抱かせないよう洗練された構成で語られていくテンポの心地よさが、『バーフバリ』の魅力であると感じた次第である。

 最後にケチを付けるような物言いになってしまったが、本作『マガディーラ』もまた申し分ない娯楽大作であり、鑑賞後の満足度はとても高い。愛着を抱かずにはいられないキャラクターに、耳から離れない音楽など、鑑賞後も反芻しては楽しい気分になってしまう。どこまでも陽性で、突き抜けた映像表現に思わず吹き出してしまうかもしれない。観客を楽しませようというサービス精神はエンドロールまで続き、映画史上でもトップクラスの多幸感が得られるラストダンスを観て、ほっこりした気持ちで劇場を後にすることができる。1,800円で楽しめる、コスパ最良の娯楽である。

 『バーフバリ』の盛り上がりをきっかけに、過去の傑作が日の目を見るというのは、とても喜ばしい出来事だ。願わくば、カットされたシーンを復活させた「完全版」の上映も期待したいところだが、さすがにそれは贅沢が過ぎるだろうか。それでも、強欲は力なり、願えば、叶う―。たくさんの奇跡を見せてくれた『バーフバリ』界隈なら、有り得ない話でもないな、という期待を持たずにはいられないのだ。

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