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『シュガー・ラッシュ:オンライン』が大人向けすぎた

レースゲーム「シュガー・ラッシュ」のキャラクターである天才レーサーのヴァネロペと、アクションゲーム「フィックス・イット・フェリックス」の悪役ラルフは大親友。ある日、ゲーム機のハンドルが壊れてしまい、シュガー・ラッシュはゲームセンターから撤去されることに。起死回生を図る二人は、新しいハンドルを手に入れるためインターネットの世界へと向かう。ヴァネロペは新たなレースゲーム「スローターレース」に参戦。そこで凄腕レーサーのシャンクと出会い、新たな世界に夢中になるが、早く元の世界に帰りたいと願うラルフのある行動が、インターネット全体を崩壊の危機に晒してしまう。

 アーケードゲームのキャラクターたちの知られざる裏側を描いたディズニー映画『シュガー・ラッシュ』の続編。今作はインターネットを題材としており、おなじみのSNSや通販サイトが実名で登場する世界観が話題となっている。果ての見えない広大すぎるインターネット空間にそびえ立つ「Facebook」「Google」の塔につぶやきを運ぶ青い鳥たち、「e-bay」の落札から決済へのプロセスの可視化など、現代人が行う何気ないネットサーフィンの光景がイマジネーション豊かに映像化されている。

 インターネットはどこにでも行けるし、誰とでも繋がれる。その最大の利点をどのように描くのかと言えば、実在するWebサイト「OH MY DISNEY」を映像化し歴代のディズニープリンセスを集結させる、というもの。その上、「プリンセス」なる存在の在り方に対する強烈な皮肉を、彼女たちの口から語らせるという自己言及に至る。王子様に選ばれ幸せを手にする者から、自分の力で運命を切り開く者へ。時代の変遷と共に大きく様変わりしてきた価値観を一手に背負ってきたプリンセスたちが一堂に会し、自分たちの役割を茶化しながらもヴァネロペを勇気づけるシーンは、本作のシニカルなテイストを裏付ける名場面だ。

 このシーンが印象付けるように、本作はいつものディズニー映画以上に大人向けな、毒っ気の強い刺激的な一作だ。便利なテクノロジーが社会を豊かにする一方で、人間の醜さを垂れ流す掃き溜めとしての一面を逃げずに描いた点で、本作そのものがインターネットとの付き合い方を描く寓話とも言える。誰かを非難したり、他者に付きまとったりする行為の醜さを、肥大化したエゴの集合体としての怪獣に投影させるなど、メタファーの解釈には年代やネットとの親しみによって差が現れそうだ。また、笑いを誘う小ネタにも皮肉が詰まっていて、迷惑極まりないポップアップ広告がいかに下世話な内容に満ちていることもまっすぐ描く。天下のディズニーここまでやるかと、笑いながらもスリリングな描写に目が離せない。

 そもそも、ディズニー映画の過去作がそれぞれ現代でも通じる不朽の価値を持つがゆえに名作と呼ばれてきた中で、今作は現代のネット事情を色濃く反映しすぎたため、いつかは古臭く感じられ、忘れ去られてしまうかもしれない。そのため、今映画館で観なくてはその価値が色あせてしまいかねない、賞味期限の短い一本だ。とくに、一つでもSNSアカウントを持っている方なら共感できるため、これを読んでいる人はみんな今すぐ映画館に行ってほしい。

※以下、ネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。

 何もかもが揃う無限のインターネット世界が浮き彫りにしたのが、ヴァネロペとラルフのすれ違い。新しいもの、先が読めないものを求めるヴァネロペにとってインターネットは天国。一方、ヴァネロペとの変わらない日常が続くことを願うラルフにとって、彼女が新しい世界に魅了されていく様子は、脅威でしかなかった。ゲームの悪役として27年間忌み嫌われてきたラルフは、自分の孤独を救ってくれたヴァネロペを再び失ってしまうのではないかと悩み、そして許されない行為を働いてしまう。

 自分とは違う世界、知らない人たちとつながっていく、大切な友達。それに対する嫉妬や寂しさに囚われていたラルフの姿は、とても痛々しく映る。それゆえに、観客の中にはラルフへの苛立ちが募り、事態を最悪な方へ招いていく姿に呆れた方もいるかもしれない。同時に、彼の焦りに共感した人もいるだろう。本作は、ラルフが自分の居場所や価値を他者に委ねていたことを悟り、その依存から解き放つための物語だ。それに伴う痛みも受け入れて、ラルフはある成長を遂げる。

 そうした騒動を経て、「友情は変化することはあっても、無くならない」ことを、ラルフは学ぶことになる。少しビターだが、自分の孤独を埋めることよりも相手のやりたいことを応援するという決断の、なんと大人な着地だろうか。大事に想っていたはずの相手の足を引っ張っていた自分を自覚し、そこから抜け出したラルフの決断は、暖かい慈愛に満ちていた。

 そしてヴァネロペも、男性に庇護されるのではなく、自分の意思で道を切り開く「現代のディズニープリンセス」として、堂々と肩を並べる存在に登りつめた。お菓子で彩られた世界から、荒廃した略奪と暴力の世界へ。それでも、新しいものとの出会いを求めて止まない彼女の旅立ちを、本作は祝福する。それはきっと、新たな世界へ旅立とうとする者たちを鼓舞するように。

 作中に散りばめられたインターネットネタ、例えば動画サイトでバズるコツやパロディの質など、そのどれもがシニカルで笑いを誘いつつ、切なくも応援したくなるキャラクターの決断に泣かされる。歪な点があれど、現代人なら誰もが刺さる、普遍的な物語が興味深い。今回は対象年齢がやや高いものの、ディズニーブランドにハズレ無しを証明した、またしても傑作の誕生だ。あと、吹替え版のシャンク(声:菜々緒)がとにかく最高。スピンオフ待ってます。

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