第333回 たまには正義の話でもしようか

1、文化財専門職員が出土土器をヤフオクで売却

信じられないニュースが飛び込んできました。

報道によると山梨県埋蔵文化財センターの職員が倉庫から出土した文化財である縄文土器を持ち出し、個人のアカウントで開設しているヤフーオークションに出品、実際7万円で落札されていたとのことです。

本人は否認しているようですが、立場上容易に倉庫に出入りできたこと、実際に自ら担当した発掘調査で出土した土器であったこと、ヤフーのアカウントが本人のものということでなかなか言い逃れはできないように見えます。

現段階でこの問題に言及するのは時期尚早かと思いましたが、すでに報道されたことで十分に社会的な影響があったのでそれに関しては自分の考えを整理してまとめてみるのもいいかと思いました。

2、考える論点は2つ

①文化財行政への社会的信頼の失墜

まずは文化財を守る立場の専門職員による行為だという点が大きい問題です。文化財を調査・保存・活用する上で、信頼性の担保になるのは学問的専門性です。

小さな自治体では専門職として担当する職員は一人であることはよくあります。

大きな組織でもそれぞれの現場で直面する、判断しなければならない局面ではその担当者の知識・経験によって大きな責任が生じることがママあります。

発掘調査でどう掘り進めるかで、判断を誤ったために遺跡が壊されてしまうこともありますし、保存方法を誤ったがために資料の持つ情報が埋もれてしまうこともありますし、活用の場面で誤った説明をすれば間違った知識として定着してしまう危険性さえあります。

開発業者との協議で遺跡保護の重要性を説くときでも、職員の専門性に裏付けられた説明だからこそ響くのであって、ただ文化財だから守れといったところで耳を貸してはくれません。

手を抜けばどこまでも堕ちることもできますし、逆にやればやっただけ資料を残し、有益な情報を抽出し、地域の歴史を語ることができるのもこの仕事の醍醐味でもあります。

それゆえに全国の担当者の日々の努力さえも棄損してしまうような信用失墜行為は失望しかありません。

②考古資料の骨董品的価値の高騰による損失

資料を見せると「金銭的な価値」について問われることも多くあります。

実際にはオークションなどで値段がついていることも知りつつ、破片だからという理由ではぐらかしていたのが正直なところです。

それがこのニュースが報じられてしまうと、さらにその傾向に拍車がかかり、これまで以上に収蔵庫などでの警備に気を遣う必要が出てくるのでしょう。

いつまでも性善説ではいられない世情とは知りつつも業務上の負担が増えるのは勘弁ですね。

そして別な価値「歴史資料としての価値」との非対称性についてもこれまで以上に説明が求められてきます。

例えば今回の資料、縄文土器で言えば形や文様で作られた時代・地域はある程度特定することができます。

ですがそれはそこまでのこと。盗難によって売却され、出土地点との関係性が断たれてしまえば、大きく歴史的価値を下げることになりま
す。

本来の生産・使用範囲から遠く離れた遺跡からの出土であれば遠隔地との交流の証拠になったでしょうし、遺跡の中でどこから出土したかによって用途が推定できたかもしれません。

それらの可能性をすべて失ってしまうのが悲しいことです。

いくら骨董品として金銭的な価値が高まったとしても、歴史的価値は下がったとせざるを得ません。

逆に小さな破片で、金銭的な価値が低い資料でも、出土地点が正確に記録されていれば総合的なデータの一つとして大いに歴史的な価値を有することも少なくありません。

このことを今まで以上に丁寧に説明していく必要があるようです。

3、人の良心

全然話は変わりますが、小学生の娘が春休みなので一週間「少年の船」みたいな事業で旅に出ました。

親元をこれほど長く離れるのははじめての経験なので、出発の前の晩に何か気の利いた話をしようと思いました。

そこで話したのは「正義」の話。

親が見ていないからとか、学校の先生の目がないからといって、調子にのるなよ、と。

昔の日本人は誰も見ていなくてもお天道様が見ているからと身を律したものだと。

なにより自分の良心に照らして、それに反するようなことをすれば、心が汚れていくよ。

というような趣旨の話をしました。

どこまで伝わったのかわかりませんが、明後日帰ってきたら聞いてみようと思います。

60過ぎて、学問的な業績のある専門職員の方でも自分の良心に問うことを忘れてしまうのでしょうか。

はたから見て不正義に見えても、自分にとっては正義に基づく行動だったのでしょうか。

我が身も振り返って我が子らに恥じない行動をしていきたいものです。

#毎日更新 #歴史 #エッセイ

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