第445回 理想論では文化財は守れない
1、文化遺産の世界 その5
ネタに困った時はこのレビュー
December2004〜February2005 Vol.15
特集 日本の文化的景観
張り切って読んでいきましょう。
2、理想論ばかり
文化的景観とは平成17年の文化財保護法改正によって
新たに保護の枠組みとして明確化された概念ですので
比較的新しい文化財類型ということになります。
簡単に一言で言い表すのは難しいですが
あえていうと、人間の生活によって生み出された景観のうち優れて価値の高いもの
というところでしょうか。
金田章裕「文化的景観とは何か」
文化的景観を維持するのは非常に課題が多いですが、二つの観点が重要と筆者は指摘します。
その1つは構成要素がたとえ私有地であったとしても、外から見える部分、
景観を形成する部分は公共のものであるという認識。
二つ目は単に伝統的な景観を固定するのではなく、好ましいものを再形成するということ。
うーんとても理想論。
まず一つ目からして、特定の地域の景観を形成する構成員たち、
つまり住民たちが本当に景観を大事なものだと考え、
時には私的利益を損なってでも公共性を高く持とうという意思を持つことが不可欠です。
さらに「好ましい景観」ってなんなのか、ということについて、専門家も交え、構成員たちとの合意形成を図らなくてはいけないんです。
仮にわが町でできるかどうか考えてみたところで、
思い浮かぶ構成員たちの顔を眺めてもとても実現できる気がしません。
景観を守れるところと、そうでないところの差は住民の意識の差ということになってしまうのでしょうか。
つづく
千賀裕太郎「生業とのかかわりの中で生まれ育った景観を考える」
では「景観の健全性」こそが文化的景観の価値だと分析する。
まずは地域生態系が健全であること。
多様な生き物が生息し、生業がそれを破壊しない循環型のシステムが機能している、ということです。
次に地域文化が健全であること。
寺社の祭礼や農事行事が引き継がれていること、建造物が地場の材料を用い、職人も地元に受け継がれた伝統工法を用いるということ。
最後は地域社会が健全であること。
地域社会のコミュニティが活性化され、景観を維持するとともに、バイパス道路沿いに全国チェーンの量販店が立ち並ぶようなことがないこと。
うーんこれもまた理想論。
東日本大震災後には放置された農地のみならず、沿岸部をかさ上げされるための土砂を採取された跡地にまでソーラー発電が進出し、地域生態系が破壊されています。
地域内に仕事が減り、遠隔地に働きにでれば地域活動に時間を割けず、地域文化の担い手にもなれないということが見られます。
なんだか読んでて暗澹たる気持ちになってきました。
国は地域の関係者が集まって意見を交わして、より良いものを作り出していくためにも、協議会を立ち上げ、そこでの意見を取りまとめる保存活用計画を策定するよう促してきますが
少なくともわが町では行政内の偉い人にも、地域の有力者にもなかなか受け入れられず、足踏み状態が続いています。
3、スコップさばきの腰とヘソ
本題の特集記事はまだ続きますが、気分を変えるためにざっくり割愛して、
連載の「私が影響を受けた考古学者」に触れましょう。
今号では明治大学名誉教授の大塚初重氏が恩師の後藤守一氏を紹介しています。
学生時代に登呂遺跡の発掘現場でスコップさばきを褒められたことを
生涯忘れず、自身も大学の教員になって学生を褒めることを欠かさなくなったというエピソードは心温まるものです。
そして最後のオチに使われているのはなんとヘソの話。
同紙にも掲載している後藤氏の写真が62歳にはとても見えない引き締まった体をさらけ出したもので、ヘソが目立っています。
本気か冗談かヘソを褒められた後藤氏は「月齋翁」と号すほど喜んだと言います。
ぜひ気になった方は下記のバックナンバーをご参照ください。
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