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第461回 考古学と現代社会を考える

1、文化遺産の世界 その7

今回は『文化遺産の世界』Volume17 June-August2005

特集「発信する遺跡(1) 英国のパブリック・アーケオロジーの潮流から」

をご紹介します。

ちなみに前回のレビューはこちら

2、課題は教育かな

まずパブリック・アーケオロジーってなんだ?

ということから。

冒頭に挙げられているのはティム・シャドラホールというロンドン大学(執筆当時)の研究者で同分野を牽引する存在だそう。

初めて「パブリック・アーケオロジー」という言葉が使われたのは1972年にアメリカの研究者マックギムジーがその著書においてだったと紹介されています。

その中では遺跡を保護するための法制度の整備、考古学教育の必要性を西欧諸国との比較研究によって強調したとのこと。

そして現在著者が考古学者に求められていることとして列記しているのは

①考古学の研究成果が社会と密接に関連していることを意識する

②考古学の知識の教育発展のために多くの人々と接すること

③「文化遺産産業」の再検討

④事故のアイデンティティやルーツを知りたいという願望に応えること

どれも執筆段階から15年近く過ぎて、さらにプレッシャーが増したことは間違いありません。

社会の要請と無関係に自分の研究に没頭していられる考古学者なんてほとんどいないでしょうし、普及活動に積極的であることは行政はもとより大学ですら当たり前に求められています。

そして何度も本連載でも取り上げている「観光と文化遺産」問題。

一般社会がより多くの情報を求めているのに、これに応えられなければ考古学者以外の者が情報発信を始めるだろう、と手厳しく批評します。

まさに現在起こっている諸問題はこれに尽きるのではないでしょうか。

専門家が一般に届くような発信をできないと、エセ学説が信憑性があるかのように広がっていくのです。

つまり「パブリック・アーケオロジー」とは考古学研究と社会との関わりを考えること、と完結に言えるのではないかと思いました。

そして先進地ロンドン大学では必修科目として取り上げられ、政治やメディア、遺物の違法取引、教育との関わりなどを学ぶことが課せられているのです。

3、考古学者数を考える

翻って日本ではどうでしょうか。

2011〜14年には文科省の科学研究(基盤研究B)で採択された、「国際比較研究に基づく日本版パブリック・アーキオロジーの理論と方法の開拓」があります。

最終報告書がWebで公開されていますのでざっと拝読しますと

主に課題は考古学の持続可能性となっており、

担い手である考古学者の養成や資金調達をいかにするかという議論がなされたようです。

岡村勝行「欧州の考古学者の実態調査から—持続可能 な考古学の探索—」

に掲載されていた西欧諸国の考古学者数。

もちろん各国で「考古学者」の定義は異なりますが、

英国やドイツ、イタリア、ギリシャなどが多いのは頷けます。

人口比でいうとオーストリアがトップで、6750人に一人の割合で考古学者がいることになりますね。

我が国はどうかというと、ざっくりとした計算で7000人ほどいるとされ、人口比だと18000人に一人の割合と計算されています。

この数字をどう解釈するか。

さらに年齢構成では、平均年齢こそ日本が44歳で、英国が42歳とわずかに高いだけですが、

もっとも多い年齢層は日本では40代で、英国では30代という結果も提示されています。

考古学と社会を考える上でこの数字は大いに示唆に富むと思いますが、

皆さんはどう思いますか?

大学教育の危機については先日もシェアしたこの記事が大変リアルですし、

考古学や歴史に関心が高いと思われる高齢者層が人口に占める割合が高くなってきました。

まだまだ回答案は出せませんが、これからも常に考えていきたい課題です。



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