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第375回 考古学の旬

1、学恩に報いる

いつもお世話になっている学兄、

(と言っても30才ほど年上なので師匠みたいな存在ですが)

から近著をいただきました。

テーマは板碑。これは以前noteでも用語解説で取り上げました。

板碑の石材としての生産・流通について研究が進んだ現在、一旦その宗教的な性格について、改めて考えてみようというテーマの特集になっています。

板碑が数多く建てられた場の一例として松島が取り上げられ、霊場としての成立から、時代を経て板碑の役割がどう変化したのか、

そしてより北方の三陸沿岸の板碑群のあり方にどう影響していったのかが最新の調査成果から見通されています。

この地域が中世の信仰史を考える上でもっと注目されるきっかけになってくれるといいですね。

2、目次

季刊 考古学 第147号
「特集 板碑からみた神仏」

時枝務 板碑と宗教

【板碑を読む】
三宅宗議 面の構成
新井 端 図像―嘉禄・寛喜銘板碑の復元
三宅宗議 種子
村山卓 蓮座と仏具
諸岡勝 真言と偈頌
太田まり子 板碑の紀年銘

【板碑と宗教 】
菊地大樹 板碑と顕密仏教
野口達郎 専修念仏系の板碑
本間岳人 題目板碑
小田部家秀 禅宗
時枝務 修験道・神道
伊藤宏之 民間信仰

【板碑造立の場】
吉田義和 寺院と周辺
磯野治司 墓地に立つ板碑
野澤均 聖地
田中則和 「霊場」における板碑造立―松島
砂生智江 板碑の廃棄状況
磯野治司 宗教史と板碑研究

【最近の発掘から】
吉田博行 会津盆地西縁山地の山寺調査
佐藤春生 板碑を伴う中世の墓域

3、いまもっともホットな話題?

さて、板碑の話はこれ以上深掘りせずに、

今日は同じ雑誌の別な連載記事についてご紹介します。

【リレー連載 考古学の旬】第5回

小畑弘己 「古植物学からみた縄文文化観の変換」

まず、「古植物学」とは主に植物化石を通じて当時の植生、環境を考察する学問だと理解しています。

「縄文文化観」とは、現代の我々が縄文文化をどのように認識しているかということですよね。

まず象徴的に紹介されるのはこのニュース

※画像には虫の画像が含まれますので苦手な方は要注意。

とある土器のCTスキャン画像を撮ったら虫の死骸が400匹以上練りこまれていたことがわかったということ。

この昆虫はコクゾウムシといって、別名「米食い虫」と呼ばれるほど食料に対する害虫として知られています。

逆に言うとその餌となるモノが多量に貯蔵されていたことを間接的に示しています。

おそらくは栗だと考えられていますが、虫が大型化していることも分析から明らかになり、縄文人達が栗林を「管理」していたにとどまらず「栽培」していたとする説が補強された形になりました。

実はこのニュースは数の多さでショッキングでしたが、

以前から穀物や貯蔵食物を狙う害虫の痕跡が土器に見られることは知られており、着々とデータが蓄積されています。

著者は単に「栽培」されていただけではなく、例えば美味しい、大きな実をつける栗の優良種が交易によって拡散していた可能性も示唆しています。

イネ科の植物の栽培だけをみて縄文時代に農耕があったかどうか議論することはもはやできないというところまで研究は進んでいます。

狩猟採集だけに頼っている不安定な社会、という縄文時代観はすでに古く

有用植物の管理、栽培も含めた多様な食料戦略に基づいて暮らしていた安定的な社会、というのが現在の縄文時代観なのでしょう。

4、わかってはいても深入りできない理由

いかがだったでしょうか。

もっと詳しいことを知りたい方はこちらをどうぞ。

確かにすごく可能性がある学問分野だと思いますし、現代社会においても

食糧難の救世主として昆虫食が注目されていることはわかっているのですが、

お恥ずかしい話、私、虫があまり得意ではないのでして。

こちらの本は出前授業などで縄文時代の話をする際に大いに活用させていただいております。

この様に現在もっとも旬な考古学の話題が連載されているコーナーも貴重ですよね。

次号は瀬川拓郎「殯習俗からみた日本列島北辺地域の葬送史」と予告されています。

また次回も皆さまにご紹介できればと思います。

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