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補助線は語るVol.1 「衛星都市の子どもたち」


0.過去を見せ合うということ

みなさんには、目を背けたいような過去はあるだろうか?もしくは今の自分が、「どうしてこうなってしまったのだろうか?」と後ろ向きな自問自答に襲われることはあるだろうか?

ひとつやふたつはそんな経験がある人も、きっといるのではないかと思う。むしろ僕はそういう人の方が信頼できる。

決してひけらかすのではなく、
話していくうちにふとその人の核心に触れた時、少し嬉しくなると同時に、ちゃんと向き合わなくてはと背筋を正す。そんな深いコミュニケーションの果てに、信頼や愛情が生まれるのだと思ったり。

1.ビハインド・ザ・衛星都市の子どもたち

閑話休題。

この「衛星都市の子どもたち」という作品は、
自分を含めた、過去や今に違和感や後悔を持つ人への讃歌であり、無理に前は向かずに、でもたしかに一歩ずつ歩いていくポーズをともにとろう、と連帯を呼びかけているような1枚になった。

人間生活は、
いやでも「選択」という行為を避けられない。

今日の夜、何を食べるか。
相手に対してAと言うべきか、Bと言うべきか。

僕たちは時に意識的に、
時に無意識のうちに選択している。

どうしても、でかくてドラマチックな選択の方が周りの目を惹く。でも本当は、小さな選択の積み重ねによってこそ生活はできていると感じる。
だから実際は、小さな選択の積み重ねの方が僕たちにとって、リアルなもののように思う。

小さな選択の積み重ねが、僕たちの今を作る。
そして「今」は1秒後に「過去」になるのだ。
つまり僕たちは日々(無)意識的に今を選びながら、
「過去」をつくり出しているのだと思う。

そんな決して大きくない日々の選択の積み重ねの中に、いやその中にこそ後悔や今の自分への違和感の根源があり、解放のヒントがあるのではないかと思う。

この作品は、ドラマチックなことには一旦背を向け、ほんの些細なことの中にある根源的なことを、極力コンパクトな言葉と音で、かつ丁寧に表現する方向に舵を切った。

6曲の楽曲は、2018年から2021年の4年間の間にわたって作られた曲たちだ。
だから何を言わずとも、20代前半の僕のちっぽけな自意識と、葛藤の歴史そのものが映されている。

つまり、これは単純明快なドキュメンタリーだ。

僕は人生をかけて、というより、
“人生そのもの”を、音楽を通して表現している。
だからもしこの音楽をあなたが愛してくれるなら、少しは僕の過去も報われるのかもしれない。

作り手も受け手もみな人間なのだから、
色々な面があって、違っていて当然だ。
でもこの音楽を通して、ほんの一部分でも分かり合えたなら、それほど嬉しいことはない。

2.楽曲別ひと口メモ

1.シングル・ユース
これは一見希望を歌っているように見えるが、
すごく残酷な歌だと思う。僕たちはこの世にいる限り、何かを追い求めてしまう。
曲の着想は、尊敬しているBase Ball Bearの中期の楽曲群から得ているので、かなりギターロック然とした仕上がり。

2.退屈の街
ユーヤさんにデモを聞いてもらった時、
明らかにテンションが上がっていたのがこの曲。
「新呼吸」というワードはまたもや小出祐介リスペクト。彼の書く歌詞をいつか超えたいと思っている。「新呼吸」と「(What is the)Love&Pop?」はバイブルであり、Turns blueに大きな影響を与えている。さらにこの曲の歌詞を書くにあたって、「暇と退屈の倫理学」という本も少し読んだりした。

3.雨の花束
ビートとテンポ感は今の流行曲を参考に、フレーズでギターロックのエッセンスを足していった。

鮮明でなくて言葉にできずとも、あの頃の切なさとか、苦しさがグッと込み上げてくる瞬間がある。それは大体、景色や風景がきっかけになることが多い。あの時と同じ景色に不意に出会うと、過去の記憶や想いが蘇る。でも過去を思い出したとて、あの頃にひたれるけれど、時間は待ってくれない。ならどうする?
わかっていてもどうしようもなく過去が襲ってくる、このもどかしさ。

4.朝陽
僕はいわゆる衛星都市で生まれ、育った。
一昨年かなり追い込まれていた時に、朝よく街を散歩をしていた。頭を無にして、ただひたすら見慣れた街を歩いているうちに今作のテーマが浮かんだ。僕もすっかり青年の域だ。そう遠くないうちに、この街を離れてひとり立ちするだろう。
でも、人生の残酷さと素晴らしさを教えてくれたのは、紛れもなくこの街での日々なのだ。
結局僕らは、何度でも歩き出してしまう。

5.ラプソディー
今年、新たなメンバーとしてマツバラユーヤが加入した。僕にとってはメンバーであり、友人である、そんな存在だ。このアルバムを作るにあたり、ユーヤさんにも曲をいくつか書いてもらった。この曲はそのうちのひとつだ。
結果としてはじめての共作楽曲となった。
大胆で懐かしさを感じる、今までとは少し違う楽曲になった。

Turns blueの楽曲は作家性が強いのかもしれないが、それは不本意だ。一つの幹に対して、色んな人の思考や表現が混ざる方がリアルだ。
そういう意味では、Turns blueはいろんな人の創作やアイデアが飛び交う場所にしていきたいと、最近より強く思う。

6.キャピタル
この曲は特に、エンジニア上田さんとのやりとりでもう一段化けた記憶がある。要素としては、今まで影響を受けてきた00年代初頭から中盤のバンドたちのエッセンスがごちゃ混ぜになっている。これらはもちろんこれからも帰ってくる大切な故郷ではあるが、次の作品はもう少し今に適応したサウンドで届けたいと思う。

僕が大学時代お世話になった教授が祝辞で使っていた「サスペンス」という言葉の使い方が好きで、歌詞に用いた。

資本主義の中で葛藤しながら生きる、全ての伏兵たちに捧げる。少しずつ、少しずつ。

3.さいごに

この作品は自分の力では何もできなかった。
さまざまな人に支えられ、ここまできたのは何よりの事実だ。

今回僕たちを助けてくれた、
仲間たちを改めて紹介する。

<supports>
Bass 黒川明希
Guitar 佐久間智也

<artwork>
pei

この作品が売れることは、決して目的にはなく、
同じような気持ちを抱えている人たちが、この音楽のもとに集ってくれたら、その輪っかが新たな未来が生むと信じている。そんなハブのような作品になってくれたら、と切に願っている。

タカハシナオキ

この文章が気に入っていただければ、ぜひ。 創作活動(執筆・音楽)のために、使わせていただき、それをまたみなさまにお披露目できればと思っています。