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大切な作品「トーマの心臓」

ずっと昔の漫画。とても難解で大切な漫画。

何度も何度も記憶の中から取り出しては眺め仕舞うを繰り返している。

ひとことでなんて語れない。

萩尾望都 「トーマの心臓」

題名のトーマは登場した瞬間飛び降り自殺をしてしまう。(ネタバレと言えばネタバレだが仕方がない。Amazonの立ち読みでも既にそこは書かれているからいいか…)

本当の主人公は誰なのだろう。

トーマから最後の手紙を送られたユーリなのか。トーマとそっくりなエーリックなのか。ユーリを見守るオスカーなのか。

ギムナジウムの群像劇的なこの作品を初めて目にしたのはいつだったか。

私にはこの作品とジャン・コクトーの「恐るべき子供たち」が重なる部分がある。

どちらもおとなになる前の不安定な年齢の透明で残酷なこころのあり方が各所に点在している。生と死とあやふやな性と孤独とが。


トーマはユーリの為に死ぬ。

これが僕の愛だと伝えて。

トーマは人の死は二度あり、自分のことをユーリが死んだとしても忘れない。だから僕は永遠に死ぬことはないと言う。

初めて読んだ時はなぜ他者(たしゃ)の為に自分を殺すことができるのだろうかと考えた。

トーマは死ぬ瞬間まで一瞬のためらいもなく明るい瞳のまま飛び降りる。

トーマはギムナジウムの人気者であり、ユーリもトーマを愛していた。

愛していたことをトーマも知っていたろう。

トーマもユーリを愛していた。

ユーリは誰に対しても公平であり誰からも信頼されている存在であり慕われていた。だが彼のこころは重く閉ざされ死んだも同然だったから。だからユーリの為に飛んだのだ。

ユーリはギムナジウムの中で自分だけが飛べる羽根がなく神様の側にいる存在ではないと思っていた。彼は強く罪の意識を持っていたから。

トーマにはなぜユーリがこころを閉ざしているかは分からなかっただろうが、ユーリが苦しんでいるのは分かった。彼を解放するために飛んだとも言える。

ユーリはずっとトーマの死を自分のためだと理解出来ず悩んでいたがトーマにそっくりなエーリックの出現、その彼の言葉から気がつく。

エーリックもまたこの優等生のトーマに反発しながらも惹かれていく。苦しむトーマに

僕の羽根を君にあげる

と言う。

罪があるとこころを閉ざしたのは自分だけであり、トーマもエーリックも無償でユーリを愛していた。

どんな自分であっても愛されていたのだということを気がつかせる為に、トーマは飛んだのだと気がついた時にユーリは変わることが出来たろうし周囲を見渡して愛している人に囲まれていることに気がついたろう。周囲が愛で溢れていることに気がつけたのだろう。

罪と罰を自らに課して自分で自分をくるしめていたのだと気がつけた時ユーリは周囲にこころを開いて愛情をあらわすことが出来たのであろう。

「トーマの心臓」は長い作品ではない。だけどとても考えさせられる小説の様な作品だ。

ユーリ、ユーリスモール。これが僕の愛。


トーマの言葉が時々私の脳裏によみがえる。

何物にも変えられない愛を想う時私には「トーマの心臓」が浮かんでくる。


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