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編集者の「職人技」が光る!奥深き翻訳書の世界

翻訳書ときどき洋書「エージェントが語る!翻訳出版」第1回
担当:neko

本記事をお読みくださっている皆さま、はじめまして。タトル・モリ エイジェンシーの中堅(?)翻訳権エージェント、nekoと申します。このたびスタートした弊社オウンドメディア「翻訳書ときどき洋書」内で、唯一の弊社スタッフによるコーナー「エージェントが語る!翻訳出版」にて、栄えある初回記事を書くことになりました。いささか緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

そもそも「翻訳権エージェントって何者?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますので、まずはごく簡単に弊社のご紹介からはじめましょう。

タトル・モリ エイジェンシーは翻訳権等の仲介業務を営む代理店で、前身のチャールズ・イー・タトル商会を含めると今年で創業70年を迎える、日本最古で最大規模の代理店です。海外で出版された著作物を日本語に翻訳する権利を日本の出版社へ、また日本で出版された著作物を海外で翻訳する権利を海外の出版社へ仲介する、という翻訳権仲介業務を中心として、映像化、舞台化、講演、キャラクター商品化など、本を起点とした多様なビジネスを展開しております。

古くは『アンネの日記』(文藝春秋)から『はらぺこあおむし』(偕成社)、『チーズはどこに消えた?』(扶桑社)、『ダ・ヴィンチ・コード』(角川書店)、最近では『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)、『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(小学館)、『えがないえほん』(早川書房)など、バラエティに富んだ著作物を扱ってきています。

その中で私nekoは、海外からのノンフィクション作品を日本に紹介・仲介する任務に就いて8年目。弊社は20年以上のキャリアをもつ先輩が多いため、まだまだ修行中の身ですが、これまでの笑いあり涙あり、冷や汗あり(?)の日々をさっと振り返って、我々エージェントだけが知っている(かもしれない)翻訳出版の面白みを広くお伝えできればと思います。

翻訳書とはご存知のとおり、日本語以外の言語で出版された原書を日本語に翻訳して出版されるもの。言語の違いはもちろん、異なる文化背景や社会状況を背負っています。それらの違いは、読者にとって魅力となることもあれば、理解しがたいハードルとなってしまう場合もあるのですが、特にノンフィクション作品ではその違いを巧みに“料理”することで、多くの読者を獲得できることもあるのです。いくつか例をご紹介しましょう。

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編・マクロ編』(かんき出版)

原書は1冊のペーパーバック版、頁数は約250で厚みは1.5cm程度と薄いものでした。それを「ミクロ」と「マクロ」という経済学上の分類にそって、二分冊にするだけでなく、分かりやすい解説でお馴染みの池上彰さんを監訳者として選ばれた編集者さんのアイデアはお見事! 日本での実績に原書出版社も注目するほどです。また、原題は“INSTANT ECONOMIST(即席経済学者)”と、シンプルなものですが、邦題には原著者プロフィールから日本市場で売りになる点を引用しているのも目を引きます。

レディ・レッスン』(大和書房)

こちらもタイトルづけ(原題は“ADULTING”、「大人」という意味の英単語ADULTからの造語で、決まった訳語がありません)から装丁、イラスト、帯のコピー(著者が「住みたい街全米No.1ポートランド」在住であることをさりげなく忍ばせてくださいました)など、編集者さんの技が光る日本語版です。

このように原書とは一味違う、日本語版ならではの作品の新しい姿を見せてもらえること、何よりそれを実現した編集者さん、出版社さんの創意工夫や職人技を間近で見られること、それがエージェントという仕事の醍醐味のひとつだと、私は思っています。
(※原書からの変更には所定の手続きが必要になり、そのために出版社さんのお手伝いをするのも弊社の大切な仕事です)

この他に翻訳出版の魅力として思いつくのは、過去に例のない新しい市場、読者を開拓できることです。

翻訳できない世界のことば』(創元社)

こちらは「英語に翻訳することができない外国語の言葉」を著者独自の解釈とイラストで紹介する、という本で、まさに世界でオンリーワン。日本で刊行後すぐに増刷を重ねて、約10万部に達しただけでなく、特別サイト開設、紀伊國屋書店スタッフさんがおすすめする 「キノベス!2017」第1位に選ばれるなど、大いに注目されました。日本では比較的珍しく「ギフトブック」としても選ばれているようです。

一方で、すでに人気のあるジャンルの中でも独特の存在感を示し、書評で取り上げられたり、増刷を重ねたりする翻訳書もあります。今や飼育数では犬を抜き「ネコノミクス」なる新造語も作られるほど、猫の人気は高まっています。出版界でも多数の書籍、雑誌が刊行されていますが、翻訳書でも読み物から、猫と一緒に暮らすための部屋づくりの実用書など、健闘しているものが複数出ています。
ネコ学入門』(築地書館)
猫はこうして地球を征服した』(インターシフト)
猫のための部屋づくり』(エクスナレッジ) 

今回はnekoエージェント視点で、翻訳書ならではの特徴と面白さを挙げてみました。今後もこの連載では交代で、「エージェントならでは!」の記事を掲載させていただく予定です。ぜひ継続して読んでいただければ幸いです。ありがとうございました!

(※もしも(弊社の)エージェントの仕事についてもうちょっと具体的に知りたいなあと思った方には『「本をつくる」という仕事』稲泉蓮著(筑摩書房)をおすすめいたします。本づくりに携わる方々への取材記録で、20年以上ノンフィクション一筋のキャリアを歩んできた弊社部長のインタビューを元にしたエージェントの仕事ぶりが記されています)

タトル・モリエイジェンシー発!エージェントの視点で、翻訳出版についてご紹介します。1年目のフレッシュ新人から、20年以上のキャリアを持つトップエージェントまで。さまざまなバックグランドのメンバーが交代で執筆します。


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