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日陰から始まったバレンタイン  #1

 あれは中学2年生の時だった。そう、思春期真っ只中である。少しは恋の一つもしたいなんて思ってしまう年頃であった。「恋仲」なんて流行ってたかな。みんなが恋愛というものに憧れを抱き始め、学年でもちらほらそんな話が出てくる頃だった。私はもちろん、そんな話はまるでなかった。部活動も忙しいし!なんて心の中で言い訳をして自分を正当化しながらも、自分自身のスキルの無さに劣等感を抱きながら日々の学校生活を送っていた。

 私の学校では半年に一回しか掃除場所が変わらないという鬼ルールが設定されていた。教室掃除になれば毎日雑巾掛けをさせられ、廊下掃除になれば寒い廊下に隔離され、校舎周り掃除になれば極寒の外に出されるというこの鬼畜っぷりだ。しかし、1つだけ回避ルートがあった。
 そう、「校長室掃除」だ。

 まず、なんといっても先生からの監視下から逃れることが出来る。校長先生は基本的に席を外していることが多く、無人の状態の校長室の清掃をすることになる。さらに、暖を取ることができる。普段教室で使用するようなストーブとは違い、エアコンの恩恵を受けられるという充実っぷりだ。しかし、このあたりくじを引けるのはクラス35人のうちわずか3人。掃除場所の振り分けは完全にランダムである。私は合格発表のような緊張感を持ち、後期スタートと同時に発表される掃除場所発表に臨んだ。

 教室の掃除用具入れに貼られている一覧票を友達と確認しにいく。周りも気持ちは同じだ。皆が3つの枠入りを願い神妙な面持ちで掃除用具入れの前に溜まる異様な光景。先陣を切った一部の男子は早くも自身の落選を知ったのだろう。落胆する者、怒り狂う者、現実を受け止めて前に進もうとする者。掃除場所一つでさまざまな感情が生まれるこの状況に若干の違和感を感じつつ、私も一覧表を確認した。

 するとどうしたことだろうか!なんと!私の名前が校長室掃除にあるではないか!私は3つの枠の1つを勝ち取ったのだ!周りから祝福の嵐。学業の成績が伸び、努力していることが先生サイドに伝わったのか、部活動での頑張りが評価されたのか。掃除場所ごときに会議を開くようなアホなことはしていないだろう。しかし、この時ばかりは自分の頑張りを褒め称えた。

 残り2枠は純朴な心を持った男の子と、肌白の女の子だった。
 まさかこの時、校長室で心臓が高鳴ることになることになるとは・・・。

#2に続く


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