まうまう

まうまう

マガジン

最近の記事

足を病む 汝(な)が三輪車の 影曳きて  かく美しき 落日に遭う 島田修二

島田先生の息子さんは足に病気があり、 おそらくこの短歌の時は入院生活 だったのかもしれません。 「汝(な)」というのは、「you」、 「影曳きて」は「影が長く伸びる」 という意味です。 不自由で可哀想なわが子。 親なら、胸がしめつけられる思いでしょう。 その三輪車の後ろに付き添っていたら、 夕刻になり三輪車は長く影を曳いている。 (私はおそらく丘か高台の上にいると 想像していますが) 目の前で、夕日が今沈むところだ。 なんて美しい落日なんだろう。 長患いの病気を持って

    • 老い母が 独力で書きし 封筒の 歪んだ英字に 感極まりぬ  郷隼人

      これも同じ天声人語の中に載っていた短歌です。 内容 ある日、アメリカ西海岸の刑務所にいる 私に届けられた母からの手紙。 おそらく、母はアルファベットなどを書いたことなど なかったはずです。 かなり悪戦苦闘して書いたであろう封筒の歪んだ アルファベットの宛名と住所を見て、 年老いた母がいじらしく、おもわず涙があふれてきた。 これも、一読してドラマティックなシーンが目に浮かびますよね。 教科書に載っているのは、技巧を凝らした大家の作品が多く、 短歌の良さに気付かぬまま

      • 口笛でクリスマス・キャロルを奏ずれば 更に寂しき聖夜のプリズン  郷隼人

        私が短歌を始めるきっかけになった短歌です。 朝日新聞の天声人語にこの短歌が載っていて、 とても感激しました。 郷隼人という人は、アメリカで終身刑の判決を受け、 アメリカ西海岸の刑務所に服役中という簡単な解説が あっただけですが、次の歌も含め、 短歌とはなんと素晴らしいものかと思いました。 詳しいことは知りませんでしたが、一読するだけで、 ドラマティックなシーンが目の前にはっきりと 浮かんできます。 次の日からさっそく自己流で短歌を作り始め、 分からないことは短歌の本を

        • 短歌あれこれ 1

          私は短歌にはまっていますが、 以前は嫌いでした。 高校の古文で習う短歌が 面白くなかったんでしょう。 例えば、 瓶にさす 藤の花ぶさみじかければ   たたみの上に とどかざりけり           正岡 子規 (現代語訳) 花瓶にさしてある藤の花の 花ぶさが短いので、畳の上に届かないなあ 高校生の頃、この短歌のどこがいいんだ! と思い、短歌嫌いになりました。 ですから、パロディーも作りました。 ぬばたまの 汝(な)が黒髪の 長ければ  たたみの上に とどきおりけり

        足を病む 汝(な)が三輪車の 影曳きて  かく美しき 落日に遭う 島田修二

        マガジン

        • まうまう
          28本
        • maumau
          28本

        記事

          赤き灯の ふたつ鼓動す  タワーは闇の 一部となりて           maumau

          「わたしの好きなうたといっしょに」シリーズより 「タワー」は、高層ビルのこと。 「赤き灯」は、夜間その上で規則的に 点滅している「航空障害灯」のことです。 私は、短歌を故島田修二先生に師事しました。 島田先生は北原白秋の孫弟子です。 宮中歌会始めの選者、朝日新聞の 朝日歌壇の選者をされていた戦後の 短歌界の第一人者です。 その授業の二回目でした。 私はおそるおそるこの歌を発表しました。 ぼろくそに批判されるだろうな。 そう思っていましたが、 意に反して、先生は手放し

          赤き灯の ふたつ鼓動す  タワーは闇の 一部となりて           maumau

          トマトさんとニンニク君 どっちが偉い?

          同じくらいの大きさのトマトさんとニンニク君が、 台所のまな板の上に並んでいました。 「あんた、臭いから離れてくれない?」 「そんなこと言ったって、手も足もないんだから 動けるわけないじゃん。 それに、オレは焼肉に入れると絶品なんだぜ」 「でも、臭いが残るって、 あんたを食べた後にみんな臭い消しを使っているわよ。 それよりも私のこの艶やかな赤い色見てよ。 あんたみたいな、 ささくれた灰色の肌なんて、気持ち悪いわよ」  「うるせえ、この水太り。 ブチュッとしてるから、子供の

          トマトさんとニンニク君 どっちが偉い?

          試験まで時間がないのにぃ―!!

          高校2年生が2人、歩道を歩いていました。右が純一、左が晴彦。 2人は同級生で、しかも家が近いので、朝はいつも二人で歩いて 通学しています。片道15分ほどです。 今日は、2学期の中間テスト。2人は英単語やイディオムを、 歩きながら一生懸命暗記しています。 純一は、前の方から絶世の美女が、 しゃなりしゃなりと歩いてくるのに気がつきました。 「おい、見ろよ。すごい美人だぜ」 純一は晴彦の肩をたたきますが、晴彦は暗記を続けたまま、 振り向きもしません。 「わあっ。近づいてきた」

          試験まで時間がないのにぃ―!!

          留学生Mさんの思い出 その4

          覚めてのち 重たく沈む 街の灯や  儚(はかな)き夢に いかで戻らむ                               maumau 故郷にいた頃の楽しかった夢を見た。両親と兄弟、そして友人たちとにぎやかに食事をしている夢。 夜中、目が覚めた時、それが夢だったことが分かり、そして辛い現実を思い知らされ、心は、鉛の塊が入ったように重く沈んだ。 宿舎の窓から外を眺めると、街の灯もまた、重たく沈んでいた。

          留学生Mさんの思い出 その4

          留学生Mさんの思い出 その3

          懐かしき 夢なる君と とこしえに            ともにはばたき 彼(か)の地に帰らむ                           maumau ある日、Mさんから電話がありました。 「すみません、なんだかさみしくて」 「いいえ、僕の方はいいんですよ。どうかしましたか」 「日本には、自分の気持ちを話せる人がいないので、電話させて頂きました」 「なんでも、話してください」 「昨日、夢を見ました。私の初恋の人です。彼は、『国境なき医師団』にいましたので、戦地に

          留学生Mさんの思い出 その3

          留学生Mさんの思い出 その2

          今日の短歌も、Mさんの英詩をもとに「万葉集風」に詠んだものです。 たまゆらの いのち愁ふな 散りゆくも                いざ流離(さすら)はむ ゆくえ定めず                             maumau 解説 人間の一生は短いものだ。まだ若いけれど、自分もいつ死ぬか、なんて分からない。 そんなことを心配するより、とにかくするべきことをしなくちゃ。私には、これからアメリカやヨーロッパの研究所でしなければならない実験がたくさん残っているの

          留学生Mさんの思い出 その2

          留学生Mさんの思い出 その1

          以前、ある知人の紹介で、アジアの発展途上国からの留学生と交流をしたことがありました。国立感染症研究所に派遣された女性でした。 とても聡明な方でしたが、生活費に困っていました。できるだけの援助はしたつもりでしたが、私も当時はお金がなかったので、満足のいくほどでまでは手助けできませんでした。 これは、その人が書いた英語の詩をもとに万葉集風に書き直したものです。 たちまちに 春は過ぎゆき 桜花(さくらばな) 散りにけらしも 香(か)のみ残して                ma

          留学生Mさんの思い出 その1

          一房のブドウ

          二学期の中間テストの、初日の朝だった。 僕は眠い目を擦りながら、憂鬱な気持ちで、一階のリビングに降りて行った。テーブルには、母親が準備しておいてくれた朝食が並んでいた。 「しっかりと食べないと元気が出ないからね」 とキッチンの方から、母親の声がした。 ロールパン三つ、ハムエッグ、パンプキンスープ、そしてオレンジジュース。いつものメニューだ。 ところが、いちばん右側に、一房のブドウが、白いお皿に乗っていた。 「ねえ、お母さん、このブドウどうしたの?」 「昨日、田舎から送っ

          一房のブドウ

          佐々木君の思い出

          ボクは小学校二年生の時に、急性腎炎で緊急入院した。一ヶ月ほど入院しただろうか。毎日、塩気のない食事ばかりなので、うんざりとした。 そのあとは、また学校に行き始めたんだけれど、体に負担をかけることは止められてしまった。体育の授業も、いつも校庭の隅で、膝を抱きながら座って、見学していた。 性格もすっかり内向的になり、下校して家に帰ると、漫画をみたり、本ばかり読んだりしていた。 どうせ、これからも、みんなのように普通に暮らすのは無理なんだ、と何となくそう感じていた。だから、ボ

          佐々木君の思い出

          キラキラと 輝く沖に 一点の 孤舟ありけり 茅ヶ崎の海 maumau

                   ~「わたしの好きな歌といっしょに」シリーズより 昨年十月に茅ヶ崎に転勤して、一か月がたった頃のうたです。 一か月間、休みの日といえば引っ越しの片付けに追われていました。ようやく一段落がついた日曜日に、サザンビーチを散策しました。 茅ヶ崎駅から浜辺に行くには2つの道があり、サザンオールスターズの「サザン通り」と加山雄三の「雄三通り」。そして浜辺の名は「サザンビーチ」です。 右手には、秋の日差しをうけてキラキラと光る海。左手には、遠く江の島が見えました。

          キラキラと 輝く沖に 一点の 孤舟ありけり 茅ヶ崎の海 maumau

          ノンステップバス

          S市の駅を出ると、目の前にバスセンターがあった。六月なので夕方でもまだ明るい。友人の家に行くのは、十番乗り場だったな。そう思いベンチに座って待っていると、ほどなくバスが到着した。 バスに乗り込んで手帳を取り出した。七つ目のバス停で降りればいいことを確認したあと、外の景色をぼんやりと見ていると、まもなくバスが発車した。 僕のほかに乗客は一人もいなかったが、田舎のバスなんてこんなものだろうと思いながら、窓に顔を付けて、窓外ののどかな景色を眺めていた。 少し飲んでいたせいか、

          ノンステップバス

          学生食堂 「うちのパパは医学生」第4話

          新婚時代の話に戻ります。 新婚の頃、久美はまだ会社に勤めていた。 ボクは学生。 当然、ボクの授業が終わるのは、久美の退社時間より早いので、 授業が終わると、いつも久美の会社に向かった。 ふたりで家に帰る途中、夕食はいつも学生食堂。 その日の定食はカレーライスだった。 といっても、「ココイチ」のようなお洒落なものでなく、 小麦粉がたくさん入っているような、昔ながらのカレー。 そんなカレーに生卵を落とすと、すごくおいしいので、 ボクはいつもの癖で、カレーライスの真ん中に

          学生食堂 「うちのパパは医学生」第4話