学生食堂 「うちのパパは医学生」第4話

新婚時代の話に戻ります。

新婚の頃、久美はまだ会社に勤めていた。
ボクは学生。
当然、ボクの授業が終わるのは、久美の退社時間より早いので、
授業が終わると、いつも久美の会社に向かった。

ふたりで家に帰る途中、夕食はいつも学生食堂。
その日の定食はカレーライスだった。

といっても、「ココイチ」のようなお洒落なものでなく、
小麦粉がたくさん入っているような、昔ながらのカレー。

そんなカレーに生卵を落とすと、すごくおいしいので、
ボクはいつもの癖で、カレーライスの真ん中に
生卵をポンと落とし、かき混ぜた。

久美はそれを見てびっくりしたらしく
じっとボクのカレーを見ていた。

「ねえ、どうして生卵を入れるの?」
「こうすると、まろやかになっておいしいんだよ」
ボクはそう言って、
久美のために卵をひとつ買ってきてあげた。

「ためしてごらん」と言って、
久美のカレーにも卵をポンと割ってあげた。
久美は、おそるおそる、
少量をスプーンで口に運んだ。

「おいしいー!」
久美が大きな目をさらに大きくして、微笑んだ。

「でしょ。それでね、
お醤油を垂らしたらもっとおいしいよ」
でも、久美はさすがにそこまではしなかった。

その時、背後から大きな声がした。
「おまえら、何してるんだ」
振り返ると、同級生の野口が立っていた。
「夕食を食べてるんだよ」
「だって、オマエら新婚だろ。家で食べろよ」
不思議そうな顔で、野口はボクたちを見下ろしていた。

そんな、学食での夕食が続いたけど、
ふたりとも幸せだった。

子供が生まれるまで、
そんな学生同士のような夕食が続いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?