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認知症になっても、生きるためのモチベーションはある

相変わらず季節感のない母身辺

体調不良から回復してからは再々母のところへ行っている。
そうこうしている内に季節はすっかり秋になっているじゃないか。
居室に入ると、母はまるで季節感のない格好でゴロンと横になっていた。やはり窓もしめきったまま。

あぁぁ…と、上げたテンションが急降下してくる。
しかし辛うじて壁に飾った絵てぬぐいだけが、季節感をあらわしていた。居室=賃貸なので、剥がしやすいよう簡易にはりつけてあるだけなのだから少々味気ないけど仕方ない。

中秋、新年、コスモスにスイカ…なかなかのカオスである

自分の誕生日は覚えている

『特にしんどくないけど横になったら寝ていただけ』
という母を起こして一緒に座って話をした。外はキンモクセイの香りが良いよ、とかお互いの日常や母がどう過ごしていたかを探りながら。

すると突然母が『私、来月誕生日なのよね』と言い出した。
『昭和10年11月10日生まれよ。いくつになるのかしら?』
素晴らしいねえ!よく覚えてるやん。

…てことは1935年生まれでしょ?いくつになるか見てみよう。
と、スマホで2023−1935としてみると88と出た。

その数字を見ると、母はまじまじと私を見つめ
ええ?あんた88なの?と言ってくる。

………。
いいえ?私は53。
お母さんが今88歳。

母は再び私を見て、あなた良いわね〜お肌がきれいね〜
いや、88歳より綺麗じゃなければ私の中では問題だ。特に綺麗だとは言われない。

母は綺麗なものが好き、いや自分が綺麗でいることが好き

とにかく、そんな流れでお顔お手入れ系の話にシフトしてきた。
そう、母は表面が美しいことが大好き。
それこそが母の生きるモチベーションなのだ。

しかし私はある忘れ物をしてきたことに気がついた。
母が欲しがっていた顔に塗るクリームを実家に忘れてきたのだ。

「クリームが欲しい」と聞いて適当に用意したものだが、どのクリームなのか、ご指定があるとも思っていない。

母の使っていたのはお高級なくりーーむ?

ごめんね今日持ってくるの忘れちゃったよ、と母にそう告げると

『あれよ。先生に作ってもらった特別なクリームよ。先生は4人だけに特別なクリームを作ってくださってたの』
と、さも何かを指で練っているような動作をしながらそう言ったのだ。

それにしてもなぜ母は特別が大好きなのか

施設にいても『あの人とあの人は仲良しだけど、私とは少し違うわ。 あの方は社長令嬢だから仲良くなれる』などと自分の中で勝手なカーストを作り上げる。まるで女子同士の古くさいグループいじめを仕切っている人みたいだ。
大映ドラマか!?母と同じクラスには絶対なりたくない。

おっと話が大きく脱線したので戻そう。

クリームの話だった。
実家に戻り調べると母の化粧箱の中にそれはあった。

緑のクリーム、ドラッグストアで見たことあるぞ?

えっと…私の記憶に間違いがなければこれは
ドラッグストアでかごに大盛りになってるアレではないだろうか
緑色の蓋の付いた大きめのアロエのクリームだ。

父曰く、それだよ○ソ高くて美容院で買わされてたやつだ、と言う。
蓋の裏がもう汚れていたが、中身がほんのちょっと残っており香りやテクスチャーも確認できた。

念のためAmazonで調べたら1280円だった。
容量からすると、ものすごいお得なクリームじゃないだろうか。
(ふむ。父の言う通り、あそこはぼった◯り美容院で間違いない)

ちなみに私がその日母に渡そうとしていたのはドラッグストアのPB商品であるオールインワンゲルだった。これは500円。
母に高級なと言われた時には「今日は忘れてきてよかったかもしれない」と思ったが、そうでもなかったかもしれん。

今母に合うのは安全安心なものだと思う

ともかく高級、安価は別として今の母にとって必要なのは程よく保湿できて、なんなら美白もできて、何より扱いやすいものだと思う。
いや私達にとっては安価も最重要ポイントに位置する。

そこでMUJIで蓋一体型の詰替え用チューブを買ってきて、それに私が購入してきた500円のゲルを入れた。
これなら蓋を落下させることもないだろう。
今週それを持っていくつもりだ。
母が愛用していたクリームの名前をチューブに書いておこうと思う。
これは母の安全のため、嘘も方便ということで良いだろう。


まじまじと母を見つめていたら、肌自慢だった母の頬に大きなシミができあがっていた。

確かに母は若い頃から綺麗な人だった。
しかし今に至る前の30年弱は外へ出ることはほとんどなく、ストレスを抱える日々。その中で美容院で買えるパッケージの綺麗な化粧品は母をウキウキさせてくれたのかもしれない。
母の化粧箱にはたくさんのブランド化粧品が入っていた。

認知症になっても尚、美しくありたいと思う気持ちがモチベーションになっているのは確かだ。


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