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図書館流通センター(TRC)に潜入! 中編

図書館流通センターTRCに潜入、中編です!

ちなみに、前編の終わりに内容目次班と分類件名班について書きましたが、もう少し詳しく知ってもらいたいので、ここで、担当さんとの会話を掲載したいと思います。


○内容目次班

さて、次の内容目次班は、タイトルや著者名以外にも、目次や内容のキーワードを登録する班だ。なるほど、部分的な記憶でも探し当てられるようになっているんだな。でも、私が書いた本にもたくさん目次があるというのに…こちらの担当さんは、中でも本好きらしかった。そうですよね、でないとこの作業はなかなかやれないかもしれない。一冊のために、目次スキャンの記述を駆使して、目次やキーワードでも検索できるようにする。また、漢字の「夕」とカタカナの「タ」や、平仮名の「へ」とカタカナの「ヘ」などの間違いがないかチェックも行う。確かに、ここまできて誤字で検索できないとなると、残念なので、念には念をなんですね。


○分類件名班

分類件名班は、その図書が何について書かれているかという内容をNDC(日本十進分類法)に則った「分類記号」を付与するところだ。図書館に行くと、よく背表紙の下に数字シールが貼られていますね。あれが分類記号です。また「件名」の付与も行っている。


『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』著:川邊 透 , 前畑 真実 /監修: 平井 規央 (ポプラ社)

伊藤さん「分類記号は、例えばこれは昆虫の本なので、486.1っていう記号になります。0が総記で1が哲学で、1桁目2桁目3桁目でちょっとずつ細かくなっていくというような。」

高橋「図書館司書の授業で大学のときにやった気がするなあ…。」

伊藤さん「件名の方は、言葉でその図書が何について書かれているかキーワードを付与する形で。これ『昆虫変態図鑑』だったら“昆虫”と“変態(生物学)”で。」

高橋「へえー。“変態”で調べても出てくるんですね。タイトル大事やね。」

伊藤さん「はい。仮にタイトルに“昆虫”となかったとしても昆虫の本だったら件名で“昆虫”ってつけますね。」

高橋「なるほど。でもタイトルに“変態”がなかったら“変態”はいれないですよね?」

伊藤さん「中身で思いっきり変態について書かれていたら“変態”も入れます。」

高橋「じゃあ中身もある程度読まれるんですか?」

伊藤さん「さすがに全部は読めないので、あとがきやまえがきや本文のポイントになりそうな部分を見ながらやります。パッと見て小説だったら小説ですが、日本の近代以後の小説は分類記号だと全部913.6になってしまうんですね、どういう小説でも。ですけど、中身がわかるものについてはファンタジーとか、ジャンルで表現しています。」
高橋「たしかに小説といっても多岐に渡りますね。」

伊藤さん「何系の小説っていうのがわかると便利ですよね。あと誰向けに書かれた本かっていうのを付与していて。もちろん児童書と一般書っていう大きな分け方もしますけれど、例えば児童書の中でも小学校高学年~中学生向けとか年齢分けをしていたり。あと一般書の中でも教員向けとか専門家向けとか。」

高橋「より自分に合ったものが読めるんだ。」

伊藤さん「TRCでは児童書に力を入れておりまして、〈学習件名〉というものがあります。1ページ以上まとまった説明があるものについて付与している細かい件名です。」

高橋「学習件名、初めて聞きました。」



カブトムシについて全方位で知りたいあなた!



伊藤さん「〈学習件名〉はTRCのオリジナルになります。例えば、カブトムシについて知りたい子が検索したとします。そうしたら1冊まるまるカブトムシについて書いていなくても、この図書のココに書かれているよ、というのがわかるようになっています。」

高橋「はー!」

伊藤さん「例えばこれだと、『日本のすごい生き物図鑑』の142頁に掲載されているというのがわかるようになっていて。」

高橋「はわー!」

伊藤さん「児童書ってけっこう大きい単位で『生き物図鑑』、『動物』とか出されることが多く、全体の件名が動物とか野生動物になってくると思うんですが、子どもがカブトムシについて知りたいとなった時にどこに書いてあるかがわかるように学習件名を付与しています。この本ですと、カブトムシが142ページにありますよと出る。」

高橋「これ一個一個、本の中を調べて手入力ですか?」

伊藤さん「はい、そうです。」

高橋「ウソだろ〜〜〜!!! めちゃくちゃ時間かかりますよね。」

伊藤さん「『昆虫変態図鑑』とかは……」

高橋「え? 何項目あります?」

伊藤さん「75あります。」

高橋「ウソじゃー!1冊の本にそんなに時間をかけてくれてるんですか!」

伊藤さん「そういうものもあります。」

高橋「これはみんなに知ってもらわないかんね。より子どもの探究心を伸ばしてあげられますね。」

伊藤さん「通常の図書のデータでは児童書はどうしても探しにくいという事情がありました。子どもが探したいものと図書のミスマッチをどうにか繋げたいと思い、こういったことをしています。児童書のノンフィクションに付与している学習件名になります。」

高橋「ノンフィクションのみですか?」

伊藤さん「ノンフィクションのみです。フィクションについては〈読み物キーワード〉というものを付与していて、例えば、クリスマスのお話を読みたいという時に、“クリスマス”、“物語”と入れるとクリスマスのテーマの本が探せます。件名班では子供が出会いたい本に出会えるようにしています。」



著者が忘れていた作品も見つかる典拠ファイル



さてさて、典拠班にお邪魔した私達。著者データの検索で私「高橋久美子」が9名いたんですよね。いやあ、高橋久美子って、全国に同姓同名がたくさんいらっしゃるんです。そんなときTRCではどんな工夫がされているんでしょうか?

木内さん「名前だけだと誰?となりますので、識別情報として著者紹介から主に情報を入れます。高橋さん、こちらで間違いないですか?」

高橋「はいはい、合ってます。」

木内さん「詳細のデータを見てみましょう。典拠IDがありまして、名称、読み方、著者の識別情報です。対象冊数27件がTRC MARC(図書館専用のデータベース)とリンクしています。」

高橋「27件もあるんですねぇ。」

木内さん「意外ですか?」

高橋「はい。そんなに出してないですよ。」

木内さん「単独著者として書かれたものもありますし、複数の著者でというのもあります。この本の詳細を見てみますと、一章ごとにタイトルと書かれた人がいます。そういったもの(オムニバス)もすべてリンクさせていますので、高橋さんの著書を全部読みたいとなった時に、章立てのものやインタビュー集などを全て読むことができます。」

高橋「はぁ~~~。なるほど、これはすごい!!」

木内さん「こちらにページ数もありますので、どのくらいのボリュームの文章が読めるのかなという確認もできます。もし、私書いてないわ、という本がありましたら私たちの仕事がミスっているということになります(笑)」

高橋「これはなんやろ?」

木内さん「ちょっと古いですね、いろんな方がいます。対談ですかね。」
高橋「ああ、たしかに、昔やりましたねえ。」


なんということでしょう!自分が忘れていた対談集なんかも出てきました。人名の典拠ファイルは今100万人分あるそう。「高橋徹さん」という名前が一番多く、なんと38名!これを同名異人と言う。同じ名前だけど別の人ということだ。逆に、異名同人もいる。別の人に見えるけど、実は同じ人というパターンだ。



西基斯比亜とシェイクスピア



木内さん「ロバート・ルイス・スティーヴンソン、『宝島』とか『ジキル博士とハイド氏』の小説家ですけれど、いろんな表記があり、そのバリエーションが今72件あります。姓と名を書いたり、イニシャル表記したり、もう間違い探しみたい。活動期間が長かったり人気のある著者、そして翻訳でこういうことが起きやすいです。」

高橋「ほんとだ!これはスティーブンスンになってる。発音でねぇ。」

木内さん「あっ、そうなんです。翻訳者の方の意図もあるでしょうし、時代的なものも影響しているのかなと思います。いろんな書かれ方をしていますが、ひとつのIDのもとにまとめているので、もれなく著者を検索することができます。極端な例をお見せすると、西基斯比亜という珍しい名前の著者の本を読みました。おもしろかったので、もっと本がないか典拠ファイルを使わずに検索。すると『人肉質入裁判』という自分の読んだタイトルだけが1冊ヒットしました。じゃあもうないんだな…と諦めちゃうと思うんですよね。でも典拠ファイルを使って検索するとシェイクスピアのことですよ、と。」

高橋「そうなん!シェ、イ、ク、ス、ピ、アが、西基斯比亜!」

木内さん「当て字ですね、すごく古い時代の本だとこういった当て字の本も出てきます。さっきは1冊しか出てこなかったですが、シェイクスピアだと1862件。1冊で諦めてしまったところを、典拠ファイルを利用することで実は1000冊以上の図書との出会いがあるんですね。」



やまざきとよこ? やまさきとよこ?

木内さん「次に関連性の高い名称同士をつなげるということをしています。小説家の長嶋有さん。この人はもう一つ名義をお持ちです。」

高橋「あ、ブルボン小林さんですね。」

木内さん「そうです。長嶋有の典拠ファイルを開けると、別名ブルボン小林となっているので相互に名称を参照させています。このように関連IDを持たせているので、長嶋有だけで検索していますが、別名もヒットして著作にたどり着ける。」

高橋「わー、これはありがたい!」

木内さん「他にも、一個人の名前に見えるけれども実際は二人で活動しているというのもあります。例えば藤子不二雄さん。はじめは共同ペンネームで、コンビを解消してからはF先生とA先生で別れましたが、F先生、A先生というのが関連する名称で出てきます。F先生の典拠IDで検索すると…1000件以上、A先生も500件以上ありますね。個人と団体というのもあります。例えば、今度お札になる渋沢栄一さん。名前はよく聞くけど実際に何をした方かわからないということで検索してみますと、創業した会社や学校と繋げてあったりします。渋沢栄一さんが創業した会社はすごくたくさんあって、帝国ホテルも関連で出ますね。お札つながりで言うと津田梅子さんは津田塾大学と繋げています。あとは個人と所属するグループ。QUEENは……。」

高橋「フレディ・マーキュリーもブライアン・メイも個人でも活動してますね。」

木内さん「はい。QUEENの曲から、さらにボーカルが気になるとなればフレディ・マーキュリーだけの著作にも行けます。逆に、いかりや長介さん。俳優のイメージが強いですけれども、ザ・ドリフターズに所属していたときも辿ることができる。個人の活動だけでなく、もう少し広がった作品や自分でも予測していなかった本に出会える可能性が出てきます。」

高橋「いかりや長介さんは私世代だと俳優になってからの方が近しい感じがしますけど、ドリフの時も大活躍されてますもんね。」

木内さん「典拠ファイルの関連によって、知らなかった世代の方にグループの活動があったんだと知られていきますよね。最後に、異形のガイドというものがあります。これは名前って割とゆらぎがあるというか、読み方・読み違いが出るんですね。やまざきさん、なのか、やまさきさん、なのか。」

高橋「“やまざきとよこ”か、“やまさきとよこ”か、みたいな?」

木内さん「はい。本によって書かれ方が違うんです。それらをどっちの読みでも検索できるというガイドをつけています。やまざきとよこ、やまさきとよこ、どちらでも検索できるようになっている。いま読み方の例をいくつか挙げましたけれど、通称もあります。『安藤百福発明記念館』というものがあります。」

高橋「ラーメン!日清の?」

木内さん「そうです。でも愛称は『カップヌードルミュージアム』。全く違う名称なんです。宣伝などの時はみんなが言いやすい愛称で通っていると思うんですけど、正式名称は『安藤百福発明記念館』で、典拠ファイルを作る時に調査をして判明することがあります。で、ガイドをつけた方がいいだろうということになります。」

高橋「一個一個、その時に直していく感じなんですか?」

木内さん「はい、社内のルールに沿って。(翻訳の英語表記などは作らない場合もある)」

高橋「一つ一つ、人がやってくれているんですね。」

木内さん「はい、人力です」



図書館は国際的にデータ作成のルールがある?


高橋「海外の図書館はここまで細かくはないんじゃないですか?」

木内さん「いえ、海外もこんな感じで作っていますね。私たちは日本のデータを作っていますが、翻訳本で海外の著者が出てくることがあります。そういった時に海外の図書館ではどんな名称を使っているのかな?と参考にして作っています。」


担当さんに、詳しく伺ったところ、日本人が生真面目だから細かく分類分けしているわけじゃなくて、目録規則という国際的な基準があり、その日本版の規則に則って作っているそうだ。著者データも、国際規則の作り方があり、その日本版に準拠して作っている。日本の目録規則を見せてもらうと、図鑑のように細分化されたルールが小さな字でびっしりと書かれている。図書にも長い歴史があり、一般の人たちがどこにいても平等に書籍にふれる機会を得られるように、図書に関わる人達が積み重ねてきた努力の集積なのだろうと思った。他国も目録規則に準じて作成している。ここまで私達の知りたいという欲求を全力で受け止める準備をしてくれている人がいると思ったら、図書館をもっと活用しなければという気持ちになる。小学生の頃は、お目当ての本が見つからなかったら、逆に別の本との出会いがあったりして、それはそれで良かったけど、今は、断片的な記憶だけで図書館を訪れても、本にたどり着けるようになっているんだな。ありがたい限りだ。



何を読んでいいかわからないまま図書館へ行け!

○内容紹介班

伊藤さん「図書の紹介文もTRCデータ部で105字以内で作成しています。さすがに全部読んでまとめるということができないので、前書きなど読みながら内容を紹介する文章を書いています。」

高橋「すごい。紹介文まで作ってたんですね」

伊藤さん「普通の内容紹介文に対し、子ども向けは易しい言い方をしていたり、読めない漢字にルビをふったりしています。学年によって読めない漢字がありますが、その対象学年に合わせて分かるように漢字チェックしています。」

高橋「至れり尽くせりや…。」

伊藤さん「長くなりましたが内容紹介はそのように図書がどういう本かっていうのを情報として入力しております。」

高橋「何読んだらいいか分からない!って人も、いきなり図書館に行ったらいいね。」

伊藤さん「そうですね。司書さんにこういう本読みたいんですけどって言ったらキーワードでうまく検索してくれるかもしれません。検索を手助けする仕組みと情報はこちらでそろえておりますので。」


未知を探求するサポートを全力でしてくれている人たちがいることを、とても心強いと思った。図書館には、いつも目的のものを探しに行っていたけれど、全く知らないジャンルを検索しに行ってみようかな。



最後は紙に印刷していろんな人の目で確かめる

一周してまた新刊登録班にもどってきた。なんて濃厚な一日。新刊登録班の最後の仕上げは、本の内容ではない部分の記入なんだそう。基本的なところだと、本のサイズ、ページ数、そして同じ出版社のものはまとめて検索できるようにしたりもする。

中村さん「あとは翻訳本の原書がこれまでに別のタイトルで出ていないか調べます。」

高橋「たしかに。ナルニア国物語とか相当数出てるでしょうからね。」

中村さん「書籍の大きさも測ります。」

高橋「え、単行本とか文庫本って規定サイズですが、実際に測るんですか?」

中村さん「はい。1冊1冊見本を見ながら直接測って入力します。で、色々入れますので人的なミスを防げるように機械的に色んなエラーの確認をしています。」


これまでは人力で打ち込んできたわけですが、最後に今まで入れてきたデータを紙に出力して、色んな人の目で最終確認をしてもらうのだとか。また、壊れてしまうような細かい仕掛け絵本などは、仕掛け付きだよというのが見てすぐわかるようにするそう。

中村さん「あと、よくあるのが手芸の本で型紙付きのものがありますよね。」

高橋「はい。型紙を封筒に入れてくれていますね。」

中村さん「そうですよね、図書館って。その処理が必要になるので型紙付きだよっていうのがこちらに。」

高橋「なるほど。それは図書館さんがするんですよね?」

中村さん「いえ装備のところでやっています。」

高橋「それも、TRCでしてるのですか!」

中村さん「で、型紙が付いてるよっていう補足資料の情報と共に、コードとしてもすぐわかるように『型紙付き』って書いたり。そんなこともやりつつ入力確認しています。」

高橋「これ毎日やってるなんて!クラクラするー。」

中村さん「それでこんな風に赤が入ってきたりする。」

高橋「校閲さんのようなこともされてるってことですね。」

中村さん「TRCが出している『週刊新刊全点案内』の校正作業もしていて書影とタイトルがあってるかもう一回ここでも見ます。」

高橋「本当に大忙しですね。」

『週刊新刊全点案内』では、先程写真のブースで撮った書影に、データ部で影をつけより本らしく掲載される工夫もしていたり、本を作っている側としては、大変に嬉しくありがたい橋渡しをしてくれていた。年々増えていく書籍の刊行数。図書館司書が全て把握して選書するのは不可能に近い。より客観的な視点で、新刊の概要を伝えてくれる専門誌作りも、典拠データ作成と並んでTRCの重要な任務なんだなと思った。静かなオフィスは、図書への情熱がメラメラと燃える現場だった。


中村さん「まだ、三階もありますが見学しますか?」

高橋「へ! まだあるんですか!!」


ということで、次回、TRCの後編は雑誌班です。確かに、図書館って最近は雑誌とか新聞も充実してますよね。お楽しみに!


潜入の前編をまだお読みでない方はこちらからご覧ください!

図書館流通センター(TRC)に潜入! 前編

https://note.com/twovirgins/n/ncbf49d47b1f2




高橋久美子
1982年、愛媛県生まれ。
作家・作詞家。 エッセイ、詩、小説の執筆から翻訳、アーティストへの歌詞提供など幅広く活躍。 主な著書に小説集『ぐるり』(筑摩書房)、エッセイ集『暮らしっく』(扶桑社)、『その農地、私が買います』(ミシマ社)、『旅を栖とす』(KADOKAWA)、『一生のお願い』(筑摩書房)など。
弊社から出版された絵本『パパといっしょ』、『にんぎょのルーシー』では翻訳を担当している。
公式HP「んふふのふ」:http://takahashikumiko.com/top



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