【短編小説】電子の海に溺れている
電子の海に溺れている
苦しいだけだと聞かされていたのに、その心地よさから離れられない。
どうが、しょうせつ、いらすと、ついーと、
深く、深く溺れるほど居心地がよくて。
『……、……、…………!』
気が付けば、深海に住み着いていた。
『……! ……!!』
曰く、深海魚は独特な生態をしている。
深海は、川や浅瀬と環境が違う。
ならば、ここでしか生きられない自分という生き物は、
ようやく、ようやく生きるべき場所を、見つけられた。
『……! ……!! ……!!』
――バリン!
…………?
いきなり、がらすのわれる、おとがした?
おかしい、ここはしんかいなのに。
「いい加減にしなさい、この親不孝者!」
水槽が割れて、水が流れ出して、快楽に満ちた水圧が失せる。
地上に放り出されて、途端に息苦しくて仕方がない。
あぁ、浅瀬を謳歌する魚ども。
太陽こそが至高だと疑わない魚ども。
日の光など必要ない。
そのように生まれたのだから、深海でしか生きられない。
どうか、電子の海で溺れさせてはくれまいか。
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