週刊 視点旅行 第3号 科学と資本主義の未来、トランスサイエンス、居松さんがGS日本法人社長に就任!、ESG投資は正義か、量子コンピューティングがざわついている、IRを読もう!、他、2024/4/26
今週の格言
Breaking News:居松秀浩さんがGS日本法人社長に就任!
/居松秀浩さんがGoldman Sachs日本法人社長に就任/
22年に渡ってGSは本法人社長を務められた持田昌典前社長の退任後、空席となっていた日本法人社長に、居松秀浩さんが就任された。私が語るなどおこがましいが、佇まいからしてシビれるほどカッコイイ方。(語彙力、笑笑)
ビジネスや数字はもちろんだが、芸術・文化・哲学にも造詣が深い方。お話はほぼ哲学対話でとても楽しい。「Think out of the box」「Animal Spirits & Humbleness」「利己と利他」などのお話が特に印象に残っている。以下、居松さんのお考えが垣間見えるコンテンツたち。
Executive Summary
今回はESG投資!
・Breaking News:居松秀浩さんがGS日本法人社長に就任!
・科学と資本主義の未来:科学や資本主義は外部にあった新しい要素を内部に取り込んでいく性質を持つ、次のフロンティアがSustainability・Well-beingだったりする
・トランスサイエンス:トランスサイエンスとは「科学が問うことができるが、科学のみによっては答えることのできない問題群」(例:地球温暖化対策・核エネルギーの利用・AIと倫理)
・ESG投資は正義か:ESG投資は”べき論”としてはそうだが、株価パフォーマンスに効くかは雲行き怪しい/アメリカを中心とした反ESGの動き
・量子コンピューティングがざわついている:あるイノベーションをキッカケに、業界の今後のロードマップが大幅前倒しになり…
・IRを読もう!:GPTを活用するとIRに目を通すのにかかる時間は1/10にできる、GPTとIRは相性がよく既にSansanやExawizardsなどがサービスを提供
今週読んだ本
書籍
科学と資本主義の未来 広井良典著
ESG財務戦略 保田隆明・田中慎一・桑原著
論語と算盤と私 朝倉祐介著
ファイナンス思考 朝倉祐介著
CFO思考 徳成旨亮著
イシューからはじめよ 安宅和人著
★クリエイティブマインドセット トム ケリー・デイビットケリー著
雑誌
週刊東洋経済 2024/2/10 データ錬金術
Casa Brutus 2024年3月号 居心地のいい照明術
★Creative Confidence ― トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー
/「クリエイティブマインドセット(原題:Creative Confidence)」は居松秀浩さんがオススメするデザイン思考本、”Think out of the box”な1冊/
科学と資本主義の未来
先日参加した勉強会で扱った一冊。目の前のことについ気を取られがちな中で、高い視座からより長い時間軸で考える機会を得る良い回だった。この本は、これまでの歴史的な背景、各分野での知見の積み重ねをベースに、持続可能な社会や人々の幸福について論じられていて、私にとって要所要所でこれまで学んできたことの良い復習となった。この本で私が興味深いと感じたポイントは「科学や資本主義は外部にあった新しい要素を内部に取り込んでいく性質を持つ、次のフロンティアがSustainability・Well-beingだったりする」という話だ。この話はそのまま、次のESG投資の話に繋がっていく。
参考:トランスサイエンス
その前に、この本に興味をもった方には、ぜひオススメしたいコンセプトがある。それはトランスサイエンスだ。これは理論物理学者のスティーブン・ワインバーグによって提唱された概念であり、「科学が問うことができるが、科学のみによっては答えることのできない問題群」を指す。「科学と資本主義の未来」にて、資本主義からポスト資本主義への議論の流れがあったが、トランスサイエンスは科学バージョンのそれである。トランスサイエンスが扱う題材の典型例としては、地球温暖化対策や核エネルギーの利用などがある。地球温暖化のメカニズムに科学的にアプローチしていくことは可能だが、その対策には科学以外の政策的アプローチが必要になる。政策のアクターとしては当然、企業体の動きや消費者の行動も大きく影響する。
前回の第2号で扱った映画「オッペンハイマー」もこの題材を扱っていると言える。科学の叡智を結集し、オッペンハイマーたちはE=mc^2という理論上の数式を世界史上に名を残す大量殺戮兵器として形にした。しかし「それをどのように運用すべきか」という問いには科学は答えてくれない。物語後半、オッペンハイマーたちはそのことに向き合い、それにまつわるトラブルに巻き込まれ、悩み苦しむこととなる。 オッペンハイマーは極めてトランスサイエンス的な映画だ。
核エネルギーに関しては、核兵器の他に原子力発電所の話題がある。フクシマの一件以降、日本では原子力への風当たりが厳しい。一方で、首都圏を中心としてエネルギー需要は依然として高く、昨今のサステナビリティ・カーボンニュートラルの文脈では火力発電もよしとされない。このような状況の中で「原子力発電を再び使用するか否か」という問いにはScientificな一般解(絶対的に正しい唯一の正解)は存在せず、私たちが個別解(私たちの回答・スタンス)を出すしかない。
また2024年現在のトランスサイエンスとしては「AIと倫理」があるだろう。生成AI・自動運転・ヒューマノイドなどに関する人間社会とAIの関係性に関する問題群である。自動運転で事故が起こった場合責任の所在はどう扱うのか?AIやヒューマノイドに権利はあるのか?など枚挙にいとまがない。ここでもまた私たちの個別解が求められる。
このトランスサイエンスを理論物理ど真ん中のTop of topの研究者であるワインバーグが唱えたことは物理学世界内外に大きな影響を与えた。
スティーブン・ワインバーグ
・理論物理学者(素粒子物理学・宇宙論)
・2021年、電弱理論(静電気力と弱い核力をつなげる理論、統一理論へ大きく貢献)にてノーベル物理学賞を共同受賞
ESG投資は正義か
/ESG投資は”べき論”としてはそうだが、株価パフォーマンスに効くかは雲行き怪しい /
/ムーブメントは隆盛と衰退のサイクルを経て進化していくもの、仮にいま衰退してもまたいずれ来る/
ESG投資の概要
株式市場において2010年代後半から2020年代前半にかけて「ESG投資」というムーブメントが盛り上がってきた。ESG投資とは環境・社会・ガバナンスの三要素を重視する持続可能な投資戦略のことであり、金銭的なリターンのみを追求する従来型の株主資本主義からのオルタナティブとして立ち現れてきた。またそのESG投資の市場はコロナ禍を超えて確実に伸びてきた。
世界的にESG投資の額は拡大してきた背景がある
日本でも、世界有数の機関投資家でもあるGPIF*(日本の年金190兆円を運用する政府系運用機関)が元CIOの水野さんの主導のもと、ESG投資を行うと宣言して話題となった。
ESG投資への逆風、4つの論点
しかし最近は、ESG投資に対する風当たりは厳しくなってきている。そこでの話題を集約すると主に以下の4つになる。
①ESGは定量化できるのか?
②ESGは本当に株価パフォーマンスに効いているのか?
③世界的なエネルギー需給・地政学的状況
④アメリカでの反ESGの動き(政治マター)
①ESGは定量化できるのか?
・ESGデータの収集には、その指標が実態を表す代替変数として機能しているのかという”そもそも論”
・ESGの中で、E(環境)に関する定量的なデータは集まりやすい一方で、S(社会)やG(ガバナンス)はそもそも何を定量化しデータとするかが難しくデータの量も少ない。
・ESG Rating評価は浸透してきたが依然として各機関で評価手法や評価の結果がバラバラであり、基準が統一されてはいない
②ESGは本当に株価パフォーマンスに効いているのか?
・ESG投資が増加した背景には「企業がESGの考え方を経営に取り入れることが財務パフォーマンスに効く(個別企業視点)」「ESG投資はリターンが高い(機関投資家視点)」「ESG投資はリスクを抑えることにつながる」などの研究成果によるバックアップの影響も大きい。特にパフォームする/しない論は研究者の間で意見が真っ二つに割れていた。しかし最近、パフォームする側の最有力の研究に欠陥が見つかったという指摘が出た…。
・また「ESG投資はリターンが高い(機関投資家視点)」というのは、単純に財務パフォーマンスが良い優良企業がESGに配慮する余裕もあるというだけというスタンスもある。「ESG投資ファンドのポートフォリオの8割がS&P500 Indexの銘柄と同じだった」という話もある。そのファンドにLP出資した投資家は「ESGに投資したと思っていたが実はインデックスに順張りしていただけだったかもしれない」というような話だ。
③世界的なエネルギー需給・地政学的状況
・世界的にサステナビリティ志向が高まる一方で、世界人口の継続的な増加やAI・IoT等によりエネルギー消費は増える一方
・足りないエネルギーを補うために必要なので、ここ数年で石油などの旧来の資源価格は順調に高まっている(ウォーレン・バフェットも資源・エネルギー株を買い増し)
・ウクライナや中東などの戦争が、追い打ち(地政学的)
・ESG投資の有力なメソッドである”Dievestment”(ESG不適格な企業からの投資引き上げを行うことで企業(経営陣)に対して変革の圧をかける投資行動)が機能しなくなっている
④アメリカでの反ESGの動き(政治マター)
・大きな盛り上がりを見せていたアメリカ市場でESGへの逆風が!(政治文脈)
・フロリダ州では”反ESG法”(企業や金融機関によるESG投資行動への規制)が成立
反ESGの動きは必ずしもエモーショナルなものとは限らない
反ESG法はともかく、投資先から化石燃料産業を排除するべきではないという主張には一定の正統性があると考える。化石燃料産業にあえて投資し、経営陣にエンゲージメントを行う”ESGアクティビズム”こそ本質的かもしれない。環境負荷の大きい化石燃料産業大手の構造を変革してこそ本当に大きな環境インパクトが出せる。
別の視点:ヘッジファンド
▶ESGを考えることは投資プロセスの洗練につながる
ではESG投資をどう捉えればいいのか?
今回はESG投資・ESG経営まわりの2024年現状についての整理を行ったが、このままだとESG反対派みたいなので逆側から補足しておきたい。ちなみに私のスタンスは以下の通り。
・長期利益追求の過程でESGに資する行動をするのは当然、お客様への価値提供が商売の基本だから
・短期的には”べき論”でもやるべき(メリットが保証されなくても)
・ただ企業はNPOではないので、利潤の追求は外してはならない
その上で、企業経営にESGを組み込む効果に対する私の仮説を提示したい。主に6つある。ただ私自身①②③はかなり確度高く言えるが、④⑤⑥は優秀な経営者が上手く運用した場合に限られると考えている。
①プロダクト差別化*
②リスク軽減(レピュテーションリスク&訴訟リスク)*
③ESG Rating*
④事業ポートフォリオ組み換えの指針として
⑤サプライチェーン全体でのコスト軽減(バリューチェーンのデータ収集&プロセス見直しによる)
⑥ワーク・エンゲージメント向上
一部のみピックアップして事例を紹介する
①プロダクト差別化*
PatagoniaやAll Birdsなどが典型。ESGに資するプロダクトを提供していることが差別化要素となり、マーケティング・単価にプラスとなる。
④事業ポートフォリオ組み換えの指針として
▶企業経営における事業ポートフォリオ評価にESGの視点を追加する
/ESGを考慮した戦略的M&Aにより、事業ポートフォリオを効果的に組み換え、企業価値を高める/
シスコやネスレはESGに資する方向に事業ポートフォリオを組み換え、企業価値を高めてきた好例。より詳しく知りたい方は以下の記事や、私の師匠の著書「ESG財務戦略」(保田隆明・田中慎一・桑原著)をぜひ笑。
量子コンピューティングがざわついている
最近量子コンピューティング系の研究室にいる知人と話したのだが、どうやら量子コンピューティング世界がざわついているらしい。きいてみると、2023年にFTQCに関する技術的な進歩があったことで、「やるべきこと」や業界のロードマップが大きく変わったようだ。
・FTQCはまだ今すぐではないが思ったよりも20年くらい早く実現するかも→量子アニーリングはもとより、NISQもスジ悪くね
・「NISQをまず作ってFTQCにつなげる」って思ってたけど、「NISQ→FTQC」ってつながってなくね?アレ、これ直接FTQCアプローチしたほうがいいのかな
・NISQとFTQCではWebとアプリが違うみたいにハードもソフトも違うからどうしようかな状態
NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantum device
FTQC:Fault Tolerant Quantum Computer
NISQ vs FTQCの解説は以下より
何が起こって業界がどう変化したのかは以下の記事
ニッチ過ぎる気もするのでここではメモ程度に留める。場合によっては、また追記するかも。(量子力学についてはまた書きます)
今週の生成AI:IRを読もう!
今回はIR資料を生成AIを用いてサクッと読む方法についておさらいする。やるべきことは実にシンプルだ。(①②は浅すぎて心配になるレベルだが、それだけでワークしてしまう)
① 読みたいIRデータを用意(有価証券報告書・統合報告書・決算短信・決算説明資料)
② プロンプトとともにデータを入力→GO
③IR情報のまとめが完了したら、必要に応じて次のステップへ(例:想定問答の作成、仮想ディスカッションなど)
<ワンポイント> 事前に要件ごとにプロンプトを用意しておくとコピペで一発なのでラク
基本的にはこれだけなのだが、UI・UXを磨いてきちっとしたサービス感を出したり、”縛り”をかけて何らかの用途に特化させることで回答の精度を高めたり、APIを駆使してGPTに課金していない方でも使えるようにしたりすると以下のようなサービスとなる。
IR×生成AIのサービス事例
Sansanが「5分で読める有価証券報告書」というサービスを提供
企業側のIR業務効率化としてはExawizardsが開示情報から株主総会用の想定問答を生成するサービスを提供
○○IRくん:実は昨年の秋、ある企業に特化した「IR情報に関して質問すると、何でも回答してくれるGPT(個人投資家向け)」を作成した。(元データ著作権と守秘義務の関係で公開はできないけど)
ChatGPTを使ってIR資料を読んでみる
では早速、実験してみよう!対象企業は前回も扱った花王とする。
アウトプットが物足りなかったらこんな感じで補強します
ここから想定問答に入っていきます、まずはテーマの整理です。
<ワンポイント>下記のようにGPTに整理させた内容をもとに次のアウトプットを作成する指示を行うことで、PDFからの読み込みのプロセスやりなおしを牽制することができます。(時短&内容のブレ抑制)
このリストから3つのテーマを選び、想定問答を作成。
回答例
今回はいったんココで止めるが、ちなみにここから実際のオアシスの提案資料「A Better Kao」をぶち込んで質問・提案の傾向を分析し、仮想花王IR部 vs 仮想オアシスで「仮想株主総会」を開催するのも楽しい。
Key Takeaways
/GPTを効果的に活用することでIRをより手軽に読むことができ、仮想的に想定問答などを行うことさえ可能/
・1つのセッションで繋げて複数のファイルを1つずつ順番に紐解いていくことで、情報の厚みを持続することができる(例:決算説明資料まとめる→有価証券報告書まとめる→統合報告書まとめる→さらに加工)
・GPTによるアウトプットを次のアクションのデータ元に指定することで、時短&内容のブレ抑制ができる
・構造の指定(3つのテーマに関してそれぞれ3つずつ)やアウトプットの粒度に関する指示(数字や固有名詞)を行うことで、結果的に内容の具体性を高めることができる
質問コーナー
今後に乞うご期待!
今週もありがとうございました!
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