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MOONLIGHTに照らされて〈冬ピリカグランプリ参加作品〉


 

「月がきれいだね」
君が言った

僕はどういう意味で言っているのだろうと
ドキドキしながらなんて返したら良いのか迷った
頭の中ではいろんな言葉がグルグルと回っているのに​
僕の口からはどうしても飛び出しては来てくれなかった

月の冷ややかな明かりに照らされたまま
僕は君の手に触れたがっている自分の手を
上着のポケットの中でギュッと握りしめた


年末を迎えた浜辺は強く冷たい風が吹いていて

君が寒そうに自分の身体を抱いていたから

僕たちはバスに乗って帰ることにした


タイミングよくやって来たバスの車内はいていて

先に座った僕の前の席へと何故だか君は座った

君の隣はすっきりといていて

僕の隣はぽっかりといていた


君の求める答えを返せなくて

君は怒ってしまったのか

寂しげな君のうしろ姿を見ていられず

視線のやり場に彷徨ったあげく

窓の外に落ちついた


車のライトが照らすあかりが次々と流れ去り

まるでさっき僕の頭に浮かび上がった

君に伝えようとした言葉たちが

逃げていくさまを見ているようだった


バスを降り君と並んで夜の街を歩く

君の横顔をそーっと横目で盗み見る

僕の視線を感じたはずなのに

君は僕の存在など気にしていないフリをして

まっすぐに正面だけを向いて歩いている


お祭り騒ぎのクリスマスを経て

より親密になったのであろう

初々しいカップルが手を繋ぎ

幸せオーラを振り撒きながら通り過ぎる


つまらなさそうに黙ったままの

はたから見たら不自然な僕たちに

酒で上機嫌になったサラリーマンが

ひやかすような視線を浴びせかける


このままじゃ君を返せない

このままの気持ちで僕は帰れない

赤や緑や紫やオレンジ色の

様々な店のネオンの灯りが

へこんだ僕の気持ちを奮い立たせる


「月、きれいだったね」

君が頷き僕の上着の袖を掴む

僕はその彼女の手を握り

上着のポケットに招き入れる


「あったかーい」

と君が言う

「あったかいね」

と僕も言う


街を抜けて君の家の前まで辿り着いた

君と向かい合って両手を繋ぐ

「今度は初日の出、一緒に見たいな」

今度は僕が笑顔で頷く


家に帰る君の背中を見送ったあと

ホッとした気持ちで空を見上げると

さっきは冷ややかに見えた月の明かりが

温かく僕を見守ってくれているようだった





〈本文894文字〉

#冬ピリカ応募






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