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【前編】教育とAI:求められるのは「情報活用能力」ですらないのでは

今週、ChatGPTを初めとした生成型AIを学校教育でどう取り扱うのか、文部科学省が指針を検討している報道があり、官房長官が会見で取り上げるような事態にもなり、なかなかの話題になっています。

上記記事では、読書感想文の作文指導への影響として単純化されてなんだかなぁ、という感じで、SNSやニュースコメントでの反応も「規制しても無駄だと分からないのか文科省」みたいな投稿が多かったように見えます
一方で、文部科学省の動きも単に規制や制限ではないことは永岡文部科学大臣の発言からも分かります。

学習指導要領では、学習の基盤となる資質・能力と致しまして、情報および情報技術を適切かつ効果的に活用して問題を発見したり、自分の考えを形成したりしていくために必要な能力であります『情報活用能力』を位置付けております。このような観点から、新たな技術であります生成AIをどのように使いこなすかという視点とか、また生成AIの回答を批判的に吟味したりですね、自分の考えを形成するのに生かしたりといった視点も重要でございます。

永岡文部科学大臣会見(令和5年4月7日):文部科学省 - YouTube

文部科学省も単なる規制ではなく、どう活用するのか、活用にあたっての留意点などを含めてまとめていくということなので、教育とAIの共生に向けた流れなのだと理解しています(読書感想文で規制せよ、みたいな単純な話ではなく)。

ということで、最近自分も考えることが多くなった「教育とAI」について、つらつら書いてみたいと思います。

学習指導要領に対する安宅さんの提言

教育とAIの話をするならば、先月行われた文部科学省の「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」に安宅和人さんが呼ばれ、説明と委員との意見交換が行われたことに触れたいと思います。

この有識者検討会は、今後の教育課程、学習指導及び学習評価の在り方について検討を行う会であり、次の学習指導要領改訂議論の前段となるかなり重要な会議です。
そこに安宅さんを呼ぶあたり、しかも本人の弁では準備する間もなく無理やりブッキングされたとのこと。
やるな、文科省・・・!」(自分も逆シャアでかなり好きなシーン)

安宅さんの資料は、直近の政府検討会で使っている資料に教育観点のエッセンスを加えたもので、現時点でAIやデータで劇的に変わりつつある社会の俯瞰と具象を凝縮した内容になっています。ご覧いただいていない方は見ておいて損はないと思います。

【資料2】安宅和人氏提出資料 (mext.go.jp)

WhatからWhyへ

当日の模様は以下で記事化されています。

当日の議論模様は記事よりかなりエキサイトした質疑があったりするので、議事録を見ていただくと良いのでは、と思います。記事では読み取れない臨場感が把握できるのでは、と。

記事にもある通り、AIの発展やデータ活用により、社会はシンギュラリティ真っ只中の劇的な変化の時であり、「答え(What)から問い(Why)の教育に」という提言になっています。その中で、自ら価値を見出し問いを立てる力が重要、と。

プロンプトエンジニアリングの必要性

会議の中では、問いを立てるうえで、その前提となる「言語化」が重要だとも述べています。感じたことを言語化しないとAIを使い倒すことも、人と協働することもできない。
そしてAIを使い倒すには、AIを理解したうえでの言語化=プロンプトエンジニアリングが必要になっている。この数か月でプロンプトエンジニアという職種が誕生し、既に数千万円プレイヤーの高給取りになっている、と。
そういったことに対応していくには、高等教育などではなく、初等中等教育の段階からAIと嗜むべきではないか、とも。
※プロンプトエンジニアリングの詳細は以下辺りででも

個人的には、大規模言語モデル(LLMs)もインターフェースがどんどん改善されていくと思うので、プロンプトエンジニアの寿命ってあと1-2年の気もします。
会議がエキサイトして売り言葉に買い言葉的にプロンプトエンジニアが出た感があるので本意ではなさそうですが、プロンプトエンジニアリングのようなAIと対話していく力は、悪い言い方になってしまいますが過渡期の小手先の技術のように見えており、どんどん不要になっていきそうに感じています。

逆に言えば、鮮度がある内(まさに今は)とてつもなく求められている力で、そういうものを嗅ぎつけて飛びつく力こそ、今後のAI時代にこそ必要なのかも、と。

情報活用能力、問いを立てる力、言語化する力

最初に引用した文部科学大臣の言葉からは、AIやデータの活用についても『情報活用能力』の一部であると捉えていると読み取れます。

情報活用と言っても当然ながら単にGIGAスクールの1人1台での活用ではなく、もっと抽象化すると情報を取得し、解釈し、適切に出力する力、と言えそうです。
前段の安宅さんの資料でいうと以下の入力・処理・出力の3つを総合する力と言えそうです。

図らずも先日のnoteで「全ての業務は入力・処理・出力で成り立つ」と書いたのも同じ意味合いです。

記事にある「問いを立てる力」やその前段となる「言語化する力」も、処理・出力よりの力で、大きくは『情報活用能力』とも言えそうです。
つまりはAIとの共生時代の教育として、育成すべきなのは『情報活用能力』なのか。

自分の中の答えは「Yes」です。
が、それもプロンプトエンジニアリングと類似で賞味期限があるのかも、とも思い始めています。

情報活用能力のモデル化

以下は持論なので、そんなことねーよってツッコミきそうですが、情報活用能力を抽象化して雑にモデル化すると、以下のような感じなのだと理解しています。

何らかの情報を入力(知覚し認知)した後に、それを抽象と具象で行き来させ、抽象のレイヤで類似を見つけて行き来する。上下左右を探索して、その時求められ、適切だと思われる抽象か具象で出力する。
具象⇔抽象の抽象化・具象化の行き来と、抽象⇔抽象の類似の行き来が「処理」を分解したモデルだと捉えています。
自分はこれを常に認知しながら仕事することで、これらのパターンの選択肢と処理の速度を増やすように心がけていたりします。

AIが自分を代替する時

膨大な知識から、抽象レベルでの類似を探し、具象化と抽象化を繰り返す。でもこれって、そもそもAIが得意としている領域では。
GPT-4はパラメータ数が100兆個とも言われており、直近で信じがたいレベルの進展があり、自分には全く先が読めないような状況です。

今現在のAIの進展は、ここ半年で、近代や古代に相当すると100年とか1000年とか進むぐらいの社会変化の萌芽なのではと思えています。
結局のところ、自分がやっていることってこの抽象⇔具象と抽象の類似探索だけなので、あと数年で自分の仕事はほとんどがAIに取って変わられそうな気がしています。

既に、自分がやっている新しいプロダクトのデータ要件の洗い出しも、今度予定されているプレスリリースの下書きも、採用したいデータサイエンティストの募集要項も、このnoteを書くうえでの下調べも、ChatGPTを使ってやっています。
今は問いの立て方=プロンプトの工夫で独自色がある気になっていますが(必要な要素を洗い出してマインドマップを描画するコードにしてもらう、とかメチャクチャ便利)、それもすぐに学習・改善されていき、拙い言葉だとしても目的や方向性を示すだけで、望む情報が得られるようになりそうです。

それってつまりは、言語化も本質ではなく、情報活用能力ですら近い将来で重要視されなくなるのでは、と。

寿命と身体の制約

人生100年時代と言われるようになりましたが、それでも人は100年で寿命になり、その人が得られた情報は引き継げたとしても欠損や稀釈が必ず生じます。
(国家公務員なんて2年で異動して引き継ぎも満足できず、情報が欠損し続けています…。いくら中の人そのものが優秀でも、これでは効率が悪すぎです(愚痴))
そして人には身体があるため、その制約から分裂もできず、同時に多拠点で情報を得ることもできません。

一方で、AIには寿命なく、理論的には半永久的に欠損しない情報を保持できてしまう。あらゆる場所で情報を取得するセンサーを無限に近く配置することができる。
これでは今後、差が開く一方です。

では何が求められるのか、は後編で

ではAIと共生していく時代に何が求められてくるのか。
既に大分長くなってきているので、続きは後編で書きたいと思います。

書いてみて思ったのですが、タイトル的に「情報活用能力が不要」であるようになってしまっていたら、ミスリードです。
中期的にはむしろ最重要な能力だと感じています。
一方で、長期的にはそれよりも重要視すべき力があるのかも、とここ数か月で知覚した違和感を表すために、あえてそのままにしてみます。
不快になられた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

それぐらい、自分にとってはここ数か月のAIによる変化が、色んな前提が崩れ、頭を勝ち割るぐらい衝撃的だったとも言えます。
勝手な憶測ですが、安宅さんがあの場でエキサイトしていたのも、この指数関数的・加速度的な社会の変化への強烈な焦りからなのでは、と。そして今後の教育の在り方を考える会の中で、自分と同じような「強烈な焦り」を感じ取れなかったことにあるのかも、とか思ってしまいました。

とか書いているのも、急激な社会変化に対し、自分が強烈な焦りを感じているので、それを勝手に投影しているだけかも、とも。
焦って書いているので、まとまりが無いことや、誤りがあったりすることは生暖かい目で見ていただき、ご容赦いただけたらと。でも異論・反論も大歓迎です。

とりあえずもう4,000字になってしまったのでこの辺で。
前後編にしてしまったので、後編は待たせることなく、明日にでも書いてUPしちゃいたいと思います。

ではまたー。

追記:後編は公開しています。こちらもよろしくお願いします。


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