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1LDK

素直に思ったことを口にしていれば許されたのは子供の頃だけ。なんかそんなことを最近思った。本音と建前を使い分けて生きているつもりはそんなにないのだけれど、知らず知らずのうちに僕らの言葉は裏腹になってしまったりする。いつからか「じゃあね」は「おつかれさま」になっていたし、公園のブランコよりもマッサージ機に座りたいし、タピオカよりもビールが飲みたい。各々それぞれを嫌いなわけでもないのに、知らないうちに「大人のテンプレート」みたいなものをなぞっていたりする。

言いたいことを我慢したり飲み込まなきゃいけないと、誰に言われたわけでもないのにそうやっている自分がいるときに、なんだかひどくつまんねえな。とか、くだらねえな。と思うことも多い。けれど、いつまでもネバーランドにはいられない。現実はいつだって最終的には自分自身に突き付けられるのだ。

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Reolの曲がもう5年くらい好きなんだけれど、彼女の詞はそんな気持ちになったときになんだかこう、その悔しさや憤りやもどかしさをすごく代弁してくれていたりする。ただの歌い手だった彼女が深夜のアニメのCMで出てきたとき、ひどく衝撃を受けたのを覚えている。あの頃はDAOKOとか米津も出てきた、いわば新時代の幕開け的な時期でもあった気がするよね。

音楽に求めるものは人それぞれでいいと思う。大きな意味でのカタルシスもあるし、イデオロギーが込められていることも悪くない。甘酸っぱい青春ソングだってある種のそこにはカタルシスがあるでしょう?それはそれでいいのよ。ただ、単なる「同情」や「共感」で終わってしまうのは音楽に対して失礼だなというのが自分の考えで、そこに自分の咀嚼が必要だよな。っていうのはいつも言ってることなんだけれど。いつだったか、細美さんが「俺は常に何かに対して憤っている、その衝動が強い。」みたいなことを言っていて、そうだよなって漠然と思ったりもしたんだよね。結局のところ、誰かに話して昇華される話だったり自己完結できるものはそれで終わるんだけれど、そういうところから溢れたものがどうしようもなく音楽というシンクロニシティでしか埋め合わせできなかったりする、そういう人間の脆さみたいなものを、いわば自分の恥部を見せあえる度胸みたいなところが音楽の強さみたいな気がしている。

プロローグが長い。

今日は氏の”1LDK”って曲を紹介したいなあっていう話だったんだ。

セブンス的なピアノとともに始まるダイレクトな歌詞が、普段のビッグマウス的ライムとはかけ離れた物憂げさを醸し出していて、Σのときの"RE"を彷彿とさせるのだけれど、どことなく投げやりというか。

面倒事にノックダウン 一人暮らしはまあキツいです
表参道から松濤 僕はダンサーインザダーク
安月給で惨敗 まだ工事終わんないし 
好き嫌い 大都会

ここのライムがすごく好きなんだよね、どうにもならない現実っていう心象を表現するのにすごく前ノリで歌いたくなるリリック。

イヤフォンの向こうで 歌う声に焦がれている
劣等感、厭世的な気分で朝を待って
こんな思いを知っても 鼓膜の上であなたが
クソみたいな現実を一瞬光らせるから、超越した

厭世的とクソみたいで韻踏むか?普通。ってすら思ってしまうんだけれど、メタいAメロとは変わってストレートな心象表現で一気にやられる。こういう歌詞を書いてしまうんだから強い。

ねぇ、表は危ないよ
センセーションなんざくそ喰らえだろ
あんたの卓越は若さやお金じゃはかれないのに
名声を強請って 無いもの見栄張ってる
着飾るばかり 都会

さらに畳みかけるライム、本音との裏腹、表裏一体のビッグマウス。惚れるようなカッコよさ。

イヤフォンの向こうで 叫ぶ声に正されている
嫌悪感、肯定できない僕が嫌になって
こんな思いになって尚 “なんとか”を保てるのは
嘘みたいな理想の何処かあなたがいるから、超越してよ

「叫ぶ声」のところがちょっと"escape"にも聞こえて、嘘みたいな理想にすがる僕を助けてよっていうダブルミーニングにも見えるんだ、こういう詞の裏にも隙が無いと思う。

こっからスティールパンのソロが入るんだけれど、このサウンドが結構曲のアイデンティティだなって感じがする。この不穏さというか揺らぎがすごくいいし、なによりもエレクトロニックなポップサウンドに南国っぽいこの音を合わせてくるあたりがものすごいセンス。そっからのこの歌詞

五線譜の上のさばる本音 折れそうな僕は神頼みだ
本当は何も願っていない うつった癖が直らない
芸術(アート)なんて音楽なんて
歌をうたったからなんだって
絵を描いたって足しにならないから辞めちまえば

芸術なんて音楽なんて音楽なんて
音楽なんて音楽なんて音楽なんて もうくたばれ
芸術なんて音楽なんて何もなくっていなくなって
価値をつけて選ばれなくて
憧れだけ

"404 not found"の歌詞について以前書いたのだけれど、ここと少しリンクしてくるところがあるよね、「僕の音楽なんてこの世になくたっていい」「歌を歌ったからなんだって」「音楽なんてもうくたばれ」。世間から見た音楽なんてそんなもんだっていう劣等感や厭世観がここに詰められている。音楽なんて音楽なんて…繰り返すだけの皮肉とパラドックス。息が詰まるような歌詞なんだけれど、この辛さこそが、この曲のイデオロギーたる部分であると思う。


とまあ、音楽を文字で解説することほどナンセンスなことはないのだけれど、どうしても曲を聴いてもらいたかったから鼻息荒く力説してしまった。

もちろんリリックの限らず氏の音楽は、インストゥルメンタルの面から見ても令和を代表するサウンドとして誇れると思う。この十数年で構築されてきたEDMという土壌にしっかり乗っかっていながらも、さらに前衛的なサウンドをクリエイトしていく。こういう姿勢がシーンを作るんだ。

Reol、まだまだこれから注目してもらいたいアーティストだから、是非聴いてほしいです。

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