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夜記・ムクドリ

もう日暮れが近いのか、少し薄暗くなってきた。
歩道もガードレールも無い細い道だったが車はひっきりなしに通る。
どこかの大きな道路からの抜け道になっているらしい。
道なりに歩いていると左手に空き地があった。
家一軒分くらいの空き地。
この道は何度も歩いているがこの空き地には気が付かなかった。
こげ茶色の土の空き地で、まだ雑草もちらほらとしか生えていないので更地になってからそれほど経っていないようだ。だが以前どんな家が建っていたのかは思い出せない。
ふとその空き地に何か動いているのに気が付いて目を凝らすと一羽のムクドリが土の上を歩き回っていた。
ムクドリの体の色と土の色が似ていたし、あたりも暗くなってきたのでわからなかったのだった。
そのムクドリを目で追っていると、近くにもう一羽ムクドリがいるのに気が付いた。
二羽いるんだ、と思って見ると他にもいる。
そう気づいてからよく見ると、この空き地にはたくさんのムクドリが歩き回っていた。
空き地の隅から隅までムクドリが歩き回っている。
どこかの街でムクドリの大群に悩まされている、というニュースを見たことがあるのを思い出した。
これもずいぶんな群れだな、と思う。
本当に押し合いへし合い、という感じで、さっきよりも数が多くなっているような気がする。
もうムクドリとムクドリの間に少し土が見える、という感じだ。
いや、そうじゃない。
ムクドリとムクドリの間に見えている土だと思っていたのは、また別のムクドリだった。
空き地全体がざわざわと動いている。
空き地ではないのかも知れなかった。
ムクドリの群れだ。
ムクドリが幾重にも幾重にも重なってうごめいている。
何処を見てもざわざわと動いているので気分が悪くなって目を閉じた時、背後で大きなクラクションの音がした。
大きなトラックが後ろを通り過ぎた。
そのクラクションに驚いて、ムクドリたちが飛び立った。
積み重なってうごめいていた数えきれないムクドリが一斉に飛び立って、羽ばたきの音が響き渡った。
バサバサという音があたり一面、足元から頭の先まで、前も後ろも、何もかもがその羽ばたきの音に包み込まれた。

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