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人生おもんない

 朝は遅刻してばかりいます。
 朝というか、昼間でも夜でも、遅刻は多い。ひどい悪癖です。
 絶対直したほうがいいのに、直せない。でも、本当に直せないんでしょうか? 直す気がないんじゃなくて?

 例えば行きたい場所があるとして、着替えたり何やらしているうちに、気づくとギリギリになってる。
 ギリギリになってくると、最寄り駅まで疾走しなくちゃいけないこと、ずっと時計を見て行動しなくちゃいけないこと、満員になった会場にそろそろと遅れて入らなきゃいけないこと…とか考え始めて、何だかぜんぶ嫌になってきます。

 結果としてぼくは、部屋の椅子の上でうずくまり、黙ってイヤホンで音楽を聴くとか、何かそういうことをしながら無駄に時間をやり過ごす。本当に取り返しがつかなくなるまで待っているんですね。そういうのって、はっきり言って、惨めです。

 死にたい、とは毎日思います。べつにわざわざ口に出さないだけで。
 ありがたいことに、何かちょっとした縁とかで、文筆業の偉い人、雑誌の編集長だったりプロデビューした作家の方たちと、お会いできる機会がたまにあります。
 ただ、ぼくみたいな何の成果もキャリアもない、しょーもないものばっかり書いてる人間はマトモに相手されない。それはまあ、当然の流れだとは思うのですが、でも内心では自分が惨めでしょうがない。

 そういった偉い人たちに会うことができるのは、たいていの場合、飲み会とか懇親会とか、大人数が集まる会場です。しかしどういうわけか、誰とも目が合わない。
 理由ははっきりしています。
 話術もユーモアもない、積極性やコミュ力の類いも皆無で、おまけに人見知り、被害妄想が激しくて周囲の人間に笑われてる気がしている、ぼくがそういう人間だからです。本当に笑われているのかもしれない。小馬鹿にされているようで、だんだん世界中、敵に思えてきます。

 参加するたび、自分はこういう場所にまったく馴染めないという事実を突きつけられるようでつらい。
 お前はダメな人間なんだ、人間として終わってる、そんなふうに宣告されている気にもなってきます。

 それで、結局のところはひとりで、ぼーっと食事するのに終始することになります。皿にひたすらケータリングの料理を積み込み、席に戻って黙々と食べる。親睦を深める目的のパーティーで、誰とも関わらず、ひとりきりで腹を満たしてる奴というのは、おそらくだいぶ不気味でしょう。

 二次会とか、行ったためしがない。お開きになるまで居座っているということもなく、ぼくはいつもタイミングを見計らって、逃げるようにその場を離脱します。
 帰り道、電車に乗りながらスマホをいじり、「死にたい」とかぼんやり考えているうちに駅に着いてる。行きとは違ってダラダラと、歩きながら、ずいぶん遠回りして家に戻り、睡眠薬を飲んで、ベッドに入る。

 電気を消したあと、今日は何もできなかったな、ふと思います。本当に何もできなかったんだから仕方ない。
 こういう日はたいてい、決まって、悪い夢を見ます。


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