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青と白の間。|オンライン個展



序章

【クロシロの国】

ぼくの故郷はここ、クロシロの国。国土のちょうど真ん中でクロ町とシロ町という2つの街に区別されている不思議な国。

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クロ町の人はシロ町の人を嫌い、シロ町の人はクロ町の人を嫌う。理由もいつからかも分からないけど、じぃちゃんのじぃちゃんのじぃちゃんが生きてた頃くらいから嫌い合ってるらしい。

クロシロの国では、12歳の誕生日に「クロ町」か「シロ町」のどちらに住むかを選ばないといけない。そして、生涯、選んだ町を守るために反対の町を否定しながら生きていくことになる。それがこの国の当たり前の常識、しきたり。

でも、ぼくはそれがイヤだった。クロもシロもどちらも選びたくなかった。間で生きていけるならそうしたかった。

明日は、ぼくの12歳の誕生日・・・。


【青と白の間】

夜、眠れなかったぼくは図書館に忍び込んだ。昔から本を読むのが好きだった。この国には無いハッピーが本の中にはあるから。

ふと「青と白の間」という古い本に目がとまった。初めて見る本。タウ爺(たうじい)という旅人が書いた旅日記のようだ。ページをめくった。

19××年 6月30日

このクロシロの国が嫌だと腐りかけていた私に通りすがりのおじいさんが語りかけてきた。

「黒か白のどちらかで選ぼうとするから苦しくなるんだろう?青と白の間ならもっと綺麗なグラデーションなのに。そんなに苦しいならアオシロの国に行ってごらん。青と白の絵の具が入国証の代わりになるから持って行きなさい。」

私は青と白の絵の具を持って旅に出ることにした。

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第一章 【アオシロの国】

【青】

この日記の旅人もクロシロの国に住んでたんだ。そして、この人もぼくと一緒で、黒と白の間で苦しんでた。アオシロの国ってどんなところなんだろう。旅日記を読み進めた。

19××年 7月1日

クロシロの国を出た。しかし困った。アオシロの国の場所を聞くのを忘れてしまった。まぁいいや、青の綺麗な方へ向かえばいつかは辿り着くだろう。

そういえば、黒と白と聞いてイメージする色は大体みんな同じだけど、青はどうだろう。青と聞いてイメージするのは、海の青、空の青、信号の青…きっと頭に浮かぶ青はみんな違う。それだけで心が少し自由になった気がした。

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【揺蕩う】

19××年 7月2日

どれくらい歩いただろう。だんだんと青が深くなってきた。大陸の端っこから見える海の青があまりにも綺麗だったので、身を任せてぷかぷかと揺蕩うことにした。

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最近覚えた好きな言葉だからここにも記しておこう。

たゆたう【揺蕩う・猶予う】
1.ゆらゆらと漂っている。止まらずにずっと揺れ動いている。
2.心があれこれと迷う。気持ちを決めかねる。

うん、まさにこんな状態。

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【くじらの背中に乗った日】

水面に揺蕩ううちに眠ってしまったらしい。目を覚ますと青と白の絵の具がない。しまった、海の底に落としたのかもしれない。

その時、衝撃が走った。真下から大きなくじらが飛び跳ね現れたのだ。驚く私にくじらは「さぁ、アオシロの国へ行こう」そう言って私を背中に乗せて海の中を泳ぎ始めた。ギュッと目を瞑り、振り落とされないように必死でつかまっていた。

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目を開けて見ると、周りにはくじらの大群が一緒に泳いでいた。暗く小さな国で生きてきた私にとってあまりにも美しく壮大なその光景に、涙が溢れてきた。

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【アオシロの国】

くじらの背中に乗って何回目かの夜明け。「着いたよ。あそこがアオシロの国だよ」くじらが言った。そこには、青と白の間に佇む国があった。

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第二章 【蒼】

【よそ者と少年】

アオシロの国の港に着いた。建物も道も何もかもが青と白を混ぜたような綺麗な色をしている。初めての外国。こんなよそ者を受け入れてくれるだろうか。不安な思考が頭を巡っていた。

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そんな私に、一人の少年が話しかけてきた。「ねぇねぇ、おじさん、なんでそんなに怖い顔してるの?お腹痛いの?だいじょうぶ?」
くもった表情の自分の顔が映る水面と少年の澄んだ瞳は、不安をかき消すほどに綺麗だった。

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99個の好意の中でさえ1個の敵意を見つけるとまわりのみんなが敵に見えてしまうことがある。でも、ほんとは分かってるんだ。その敵は自分の頭の中にしかいないってこと。そもそも、敵も味方もない、人は人なんだ。

私は、この少年にこの街を案内してもらうことにした。


【交差】

少年は、蒼(そう)という名前らしい。手を繋ぐと蒼は嬉しそうに「これで、ぼくの線もおじさんの線も濃くなったね。」と言った。
どういう意味か尋ねると、「よーく見ててね」そう言って白い紙に青い線を描き始めた。

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「ほら、線と線が交差するところは色が混ざったり濃くなったりしてるでしょ?これを出会いって言うんだって。だから、たくさんの人と出会いなさい、そして一人一人と優しく真剣に関わりなさいってお母さんが教えてくれたんだ。」

私との出会いを喜ぶ蒼を見て、私も嬉しくなった。優しく真剣に向き合おうと思った。


【空】

アオシロの国について2日目。今日も蒼と一緒に散歩をした。丘の上で蒼がこんなことを聞いてきた。

「ねぇねぇ、空ってどこからが空か知ってる?」

正直考えたことがなかったなぁ、雲が浮かんでるところからかな?と答えると、嬉しそうに「ちがうよ、地面から少しでも離れればそこは空なんだよ。だから、おじさんもぼくも空を飛べるんだよ!」とジャンプしていた。

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蒼は本当に面白い子だ。しばらく2人で空を眺めていた。

空には綺麗な飛行機雲が伸びていた。

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「何言ってんの、おじさん!飛行機雲じゃないよ!よーく見て!」蒼が言う。

どこから見ても飛行機雲じゃないか。

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「もーーっとよく見て!あれはくじら雲だよ!」

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驚いた。飛行機かと思ったあれは、空飛ぶくじらだった。
「時々現れて、ああやって空にただ線を一本引いて帰っていくんだ。みんなは空くじらって呼んでるよ。」と蒼が教えてくれた。

何の為に線を引いてるの?そう尋ねたが、理由は誰にも分からないらしい。ただ、空くじらが空に線を引きはじめてから、街の人たちが上を向く事が増えたんだとさ。理由なんかいらないのかもしれないな。

私たち大人は、いつから理由がないと納得できなくなってしまったんだろう。


【らしさ】

街で見かける人たちの服装や髪型が独特だ。男性が女らしい格好をしていたり、女性が男らしい格好をしているのをよく見かける。そのことを蒼に言ったら蒼は不思議そうに「男らしさとか女らしさって誰が決めるの?みんなそんなことより自分らしさを大事にしてるんじゃない?」と笑っていた。

自分らしさ、私はまだ持っているだろうか。

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【ゾウさん】

蒼からゾウの絵を描いてと言われたので描いてみた。

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ごめんね、こんな下手な絵しか描けなくて。そう伝えると、蒼は少しムッとして「ぼくはこのゾウさん好きだよ!くりくりした目も、いろんな青が混ざった色も、丸い体と耳と足も、とても好きだよ。ねぇ、おじさん、絵って上手いとか下手とかがそんなに大事なことなの?この絵を好きなぼくがいるってだけじゃ足りないの?」と言った。

その通りだね。子どもの頃はただ楽しいだけで描いていたはずなのに、いつの間にか上手い下手で絵を見たり描いたりするようになってたんだな。


第三章 【正義の味方】

【正義の味方】

もう日付の感覚がなくなった。7月何日くらいだったかな。今日は蒼が家族の話をしてくれた。

「ぼくのお父さんはね、ぼくが小さいときに死んじゃったんだ。ある日、大きな怪獣が街に現れて暴れたんだ。その時正義のヒーローが戦ってやっつけてくれたんだけど、ぼくのお父さんはヒーローが壊した建物の中に居たんだ。

この街を守ったのはヒーローだけど、ぼくのお父さんを殺したのもヒーローなんだ。周りの人達からみんなの為に必要な犠牲だったって言われたけど、ぼくにとってたった一人のお父さんだったんだよ。仕方なかったのかな。

あとね、ぼく、怪獣が泣いてるのを見たんだ。本当は戦いたくなかったんじゃないかなって。何か理由があって街に現れたんじゃないかなって。

正義って偉いの?正義って誰を傷つけてもいいの?正義って何なんだろう。」
蒼は初めて悲しそうな表情で語っていた。

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【家族】

そうか、だからお母さんと二人暮らしなのか…可哀想に。と心で思う私を見透かしたように蒼は続けて言った。

「あっ、今、僕のこと可哀想って思ったでしょ?悲しいけど、今、幸せじゃないなんて言ってないからね!ぼくにはお母さんがいる。毎日幸せだよ!家族のカタチも幸せのカタチもみんな違うんだから周りの人が勝手に決めちゃいけないんだからね。ぼくたちの家族の幸せのカタチを決めていいのはぼくとお母さんだけだ!」

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【いい天気】

雨が降ってきた。アオシロの国の人たちはこんな天気の悪い日にもニコニコしている。不思議になって、蒼に何でそんなにご機嫌なのか聞いてみた。

「だって、今日はいい天気じゃん。傘を鳴らせるのは雨の日だけなんだからさ。」そう嬉しそうに言っていた。

雨の日はわるい天気だと、みんなも同じ感覚だと自分の中で勝手に決めつけていたんだな。雨の日が少し好きになった気がした。

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【雨の工場】

雨降りの空を見上げると雲の上に大きな建物があった。蒼が言うには、雨の工場らしい。地上から蒸発した水蒸気を集めて新しい雨を作ってるそうだ。

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地上から蒸発した水分の量と降る雨の量が一緒みたいな話を昔聞いたことがある。もしも、悲しみの涙を元に新しい悲しみが作られていて地球に流れる悲しみの涙の量が決まっているとしたら、自分が悲しんでいる分だけ誰かの悲しみが減ってるのかもしれないな。
そう思えたら、涙は我慢しなくていいのかもね。


【余白(青)】

アオシロの国には夜になると青白く光る不思議な木がある。この国に来てからというもの、その木をぼんやりと眺めるのが好きになっていた。

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その木の下に一人の女性がいた。蒼は「あっ、お姉ちゃん!」と駆け寄っていった。どうやら蒼の家の隣に住んでいる女性で、小さな頃から弟のように可愛がってくれているらしい。

会話をしているうちにあることに気付いた。女性の耳には補聴器がついていた。

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女性と別れた後の帰り道、蒼は嬉しそうにお隣のお姉さんのことを話してくれた。大好きなようだ。

会話の中で、何の気無しに、お隣のお姉さんって耳が悪いんだね。と蒼に言った。すると、蒼の表情が一変して「お姉ちゃんは耳が悪いんじゃない!聴こえにくいだけ!おじさん意地悪言わないで!」と激怒した。

後にも先にも蒼が怒ったのはその一度だけだった。

確かに悪気がなかったとしても、耳が悪い聴こえにくいでは言葉の温度が違うような気がする。相手に対して思いやりを持って言葉を選べば、言葉の温度は変わるのかもしれないな。

また一つ大切なことを蒼に教わったな。


終章【正しさ】

【正しさ】

クロシロの国を出てアオシロの国で生活してきて「正しさ」について考えることが多くなった。

やはり決められた二択の中で生きるのは苦しいことだ。
白と黒、正義と悪、好きと嫌い、味方と敵、自分と相手をどちらかに当てはめようとするから苦しむんだろう。その間はもっと無数のグラデーションでいいはず。

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そして、自分の正しさと人の正しさは違う。きっと、正しさはぶつけ合うものではなく自分自身を支えるものなんだろうと思う。

誰にも区別されない、誰のことも傷つけない、ただ自分の中で自分のことを支え続ける正しさのことを信念と呼ぶのだろう。

もしも、いつか私と同じように、黒と白の間で苦しむ人が現れた時のために、この日記を書き残しておく。

19××年 3月21日 
タウ爺


ぼくはタウ爺の旅日記を本棚に戻した。

うん、クロでもシロでもない、ぼくはぼくだ。
過去でも未来でもない今この瞬間を自分らしく生きていく。

ありがとう、タウ爺。


「青と白の間。」

ー 完 ー


あとがき

オンライン個展「青と白の間。」を最後までご覧いただき誠にありがとうございました。このテーマを決めた当初は、ただ単純に青と白だけを使った作品を描こうくらいとしか考えていませんでした。

でも、よくよく考えると、今の社会、二択の中で選んだり決めたりしないといけなくて苦しんでる人って多いんじゃないかなと思いました。選択肢が少ないから、自分と違う考えや選択を否定してしまうんじゃないかなと。

だから、今回のオンライン個展では、選択は二択じゃなくていいと言うこと、正しさが人を傷つけるものであってほしくないと言う気持ちを込めて作りました。

もしも、皆さんの周りに、このクロシロの国のぼくのように黒と白の間で苦しんでいる友達や家族がいたとしたら、この記事が少しでも力になれれば幸いです。本当にありがとうございました。

2020年6月30日 詩太(うーた)


大事なお知らせ

最後に大事なお知らせがあります!

個展開催が決まりました!
7月〜11月にかけて東京・福岡・大分の三県を巡ります。
個展でお会いできるのを楽しみにしています!

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