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『砕け散るところを見せてあげる』(2021年の映画)

前回の予告通り、竹宮ゆゆこ原作・SABU監督の実写映画『砕け散るところを見せてあげる』を鑑賞してきました。

今度こそゆゆことの決着をつけてやる。そう意気込んで土俵入りしたものの、何やら雲行きは怪しく、最終的にLDHに幻術を仕掛けられたのではないか? そのような感想となり勝負は水入りとなりました。果たして『砕け散るところを見せてあげる』は傑作か怪作なのか。そのことを語るためには、まずLDH picturesのことを語る必要があるだろう。

怪奇! LDH pictures

LDH pictures。Exileとかの映像作品や映画の買い付けを行う映画会社だ。取り扱っているラインナップを見ると……劇場公開時にどこに需要があるんだ?無から沸いてきたのか? 的な作品が多くラインナップしており、今までの疑問が一本の線につながった形だ。なるほど! この鉱脈か!

ラインナップの中で視聴したことがある作品は『三人の信長』『小説の神様 君としか描けない物語』そして『砕け散るところを見せてあげる』の三作品。 『三人の信長』のことはまあいいとして、まず『小説の神様』の話をしておこうと思う。

『小説の神様 君としか描けない物語』

ミステリー作家の相沢沙呼の小説を映画化した作品。非常に評価に困る作品である。作品のテーマや題材は満点に近いが、観客を舐めた手垢のついたのコストの低い演出をしている、という感想になった。

《Filmarksのレビュー》
恋愛映画たみいにパッケージングされていますが、恋愛要素ゼロ・創作論と意義・痛み・苦味について向き合う作品であり、主役二名以外の第三者からの視点も豊富で多層的にテーマが掘り下げられていく味わいのある作品。創作者であれば共感を抱くシーンも多いと思う。たとえ売れなかった本であっても、それは世界を揺るがす力を持つ、というテーマは力強いものだ。
反面、大切な執筆シーンが主題歌のPVとして流され、手垢のついた青春表現(クライマックスで走るやつ)で雑に処理されてしまうのが非常に残念。スポンサーや客層に向けてのアレだと思いますが、あまり観客をナメず、本格的な小説映画として仕上げてくれれば、と悔しい思いをしている。
(Amazon Prime Video Prime特典で鑑賞可能)

つまり『尖った原作を見つける能力は高いが演出や志が追い付いていない』という印象である。ならば、観客を舐めずに志の高い原作を映画化をすれば期待できる。そういった伏線を持った状態での『砕け散るところを見せてあげる』の鑑賞となったのだ。

『砕け散るところを見せてあげる』

『とらドラ!』でおなじみの竹宮ゆゆこ先生がライトノベル・レーベルを脱して世間に投げつけた衝撃作を原作としている。(小説版は未読なので読みます)

欠落を抱えた高校生同士のボーイミーツガールという、ライトノベルや青春モノのテンプレートをなぞりながら、自由闊達なゆゆこ節が炸裂するのが見どころであり、突拍子もないキャラクター・ユーモラスな会話・暗喩を用いた高度なレトリック・現実に対してできることは何もないという消耗感・数段ぬかしで転げ落ちる絶望感・光と闇のダブルバインドといった、『とらドラ!』(特に原作小説)でもおなじみの要素が散りばめられている。

とはいえ、竹宮ゆゆことSABU監督はこの物語がライトな青春物語であることを許さない。これは人類の前に普遍的に立ち塞がる理不尽へ立ち向かうための動機や希望や破れかぶれや、とにかくそういうエネルギーを得ることができる、至ってシリアスな志の高い作品なのだ。

物語の前半と後半とクライマックスのトーンは、それぞれが別の作品のように隔てられており、鑑賞者を困惑させる。さらに1シーンが長く、途切れない会話の文章量が多いので鑑賞カロリーを要求される不親切な作品だ。(隣のおじさんは鑑賞中に寝てた)

だけど、無駄なセリフはほとんど存在せず、独特の間は登場人物の距離感を描くために必要なものであり、観客に甘えを許さない。

観客を舐めずに志の高い原作を映画化をすれば期待できる。

LDH Pictures……やればできるじゃねーか!!

やがて物語は、堤真一という転機を迎え、ヒーローたちは想像を超えた壮絶な理不尽に立ち向かうことになる。それでも、例え抗うことすら不可能な地球絶対破壊侵略ドリルのような巨大な理不尽の壁に対してであっても、それでも前を向いて不敵にヒーローらしくファックサインを掲げてやるぜ!という心意気のある作品である。

『砕け散るところを見せてあげる』
割と積極的に意図を汲み取る必要があるけれど、唯一無二の作品であることは間違いない。とにかく歯ごたえがあるので、鑑賞後に感想戦とかをすると良いと思う。

なお、小説版未読なのでゆゆことの決着はついていません。買って読みます。SABU監督、この調子で『殺戮にいたる病』の映像化しませんか。

ロケーションマニア大喜び

なお、本作の決定的な良さは撮影ロケーションにある。
印象的な「みつまたばし」

箱庭的に見渡せる内階段

印象的な長い渡り廊下

見晴らしのよい昇降口

諏訪最高!! 

未来へ

結果的にLDH Picturesは信用を取り戻した。ゆゆことの決着は、小説版に持ち越された。闘いは続く。

以上です。

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