これは実話である。

人知れずUOで演歌歌手ロールプレイをしていたMottieという人物を大衆が初めて「発見」したのは、Mizuhoシャード *1 最大のイベント「Mizuho bazaar」*2 のステージ上であった。

<1>

空白ステージの脇で支配人が狼狽している。
「なんということだ！ブッキングしたアイドルが遅れているなんて」
「支配人、あと30分くらいかかるそうです」
「クソツ！どうする！？オレがケツを出せば3分は稼げるだろうか *3」
「そんなのなんの役にも立ちませんよ！」
「どうしたら……」

「あのォ　ちょっといいですか？」

舞台袖に和服の女性が現れた。切りそろえられた前髪にハンドマイクを持っている。表情は困り顔のようにも見える。

「へへ　私ちょっと演歌が歌えるので」

女性ははにかみながらコブシを握ってみせる。

「よろしければ30分くらい稼ぎましょうか？」

「歌手か？ しかし、あンたが何者かも」

「このまま観客を放置して暴動させてもいいんですよ？」

「う……」

「支配人のケツよりマシです！出演してもらいましょう」

「わかった！頼む！」

彼女は笑ったような眼をさらに細めて頷いた。

「任されました。きっちり盛り上げさせていただきます」

彼女はMottie the bard。スキル構成[演奏][扇動][牧羊]のマスタリーである。ブリタニア世界は楽器演奏による情動操作が非常に大きなウェイトを占めているが自我を持つアバタール（プレイヤーに対して情動操作は通用しない。つまり、彼女がこれから発生する出来事は彼女の「歌唱力」のみで巻き起こした事件である。

＜つづく＞

註1 シャード：分割された破片（Shard）世界、複製世界が多数存在する。
註2 行商ギルドFFM-SHOPが開催する大規模バザーイベント。大道芸等の興業も売り物である。
註3 UO名物のホリデーアイテム雪玉は、雪玉を所持している相手に対して無限に投擲することができるジョークグッズだ。支配人は下半身を脱いでケツを観客に向けて非難の雪玉を受けようとしている。

▼アイドルグループＳＮＧが遅れているニュースがもたらされた場面（中央の布団の術をしているのがMottie氏）