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【ポンポコ製菓顛末記】                   #46 がんばらない、がまんしない


  世の中、黒か白か、イチかゼロか、良いか悪いかで決められるほど単純ではない。真相を見極めるセンスが肝心だ。
 センスを磨く「どれくらいか」の例を旬の話題の「賃金」でご紹介する。
 


業種別所得中央値


 
 日本の賃金が低いと昨今盛んに言われている。この30年間全く上がらないため他国に比べ差が開く一方だと言うのだ。実態はどれくらい低いのか? 

 国税庁と厚労省の統計データから日本の業種別の年収中央値と労働人口のマップで分析した。年収を比較する場合、平均値ではなく中央値でみないといけない。何故なら平均値は所謂平均のため、格差が大きいと数字が高く出る。だからボリューム層の値を見ないと判断を誤る。
 直近の日本の年収平均値は405万円、中央値は373万円である。他国の数値は様々なデータがあるが概算的に比べると主要国は400万~500万円以上で日本より20~50%高い。平均値となると金融やITが主要事業となっているアメリカや欧州はさらに差が開く。
 ただ良く記事となる年収の開きはこの平均値の差の話で、アメリカの高額所得者達と比較しても意味が無い。問題は中央値の低さである。特に飲食・サービス業が低いと言われるが、どれくらいか、という比較はなかなか見る機会が無いと思われる。そこで業種別の下記グラフを見てほしい。
 


 業種別の労働人口を横軸とバブルの大きさで表し、縦軸に各々の年収額でマップした。
 
 赤点線が全業種中央値の373万円のバーである。このバーを下回る業種は、卸・小売業、サービス業、飲食業等である。これらの中央値以下の業種で全労働人口の半分を占める。とりわけ労働人口の多い(バブルが大きい)小売、サービス業、そして年収が200万円と極端に低い飲食業が課題だ。それに準ずるのが医療・福祉、製造業である。
 一方でグラフ左上の業種、金融、情報通信、電力・ガス、そして公務員は500~700万円と先進国並みだ。

 もっとも物価水準がデフレの日本とインフレの他国ではまるで違うので、単純に年収の多寡では比較できない。従って他国の給料中央値は100万、200万円と高いが生活実感は日本の低所得層業種の苦しさとあまり変わらないのではないかと思う。逆に他国並みの高所得層業種は物価が安い分ゆとり感はあるのではないかと思う。
 
 さて、この所得ギャップが日本の特徴、特に海外から見て驚かれる不思議の国ニッポンを支えている。即ち何故あんなに品質の良い飲食や加工品が安いのか、何故公共施設、トイレや交通網のサービスが行き届いているのか、その割には何故お役所仕事は極めて非効率で前近代的なのか、そのカラクリが見えてくる。
 医療・福祉といったエッセンシャルワーカーが低賃金なのは西洋も日本も変わらない。富を生まない仕事は低賃金という愚かな思考だろう。むしろ日本の課題は正規と非正規の賃金差だ。
 
  西洋人は論理的で合理的だが極めて欲深く、個人の主張が強い、そして格差・差別はもともと前提である。一方日本人は真面目でコツコツ、感情や空気、集団を重んじる。ある意味我慢強い。西洋も日本もそれらが長所であり、度が過ぎると短所になる。
 従って西洋は基本的にあまり働かないし、イヤなことはしない、サボる、そして要求はしっかりする。だからフィーは取るし、割に合わない仕事はしない。公共のサービス、施設が劣るのはそのためであろう。そんな労働者・人間に頼るよりも機械化したほうがコストも仕事効率も上がるのでDXはサッサと進めた。特にお役所仕事は。
 一方日本は文句も言わず安い賃金で耐えてサービスを提供してきたので安いニッポンが成立した。マスコミも自分たちのことは棚に上げてその空気を煽った。製造業もそれに甘えてしまった。お役所仕事が前近代的ちっともDXが進まないのもそのせいだ。
 
 今、賃金アップを盛んに問題にしているが、いつもの日本の世論で一律に上げるのは問題だ。まず手を付けるべきはサービス、飲食等の低い業種、その中でもとりわけ若い世代。製造業やその他企業も同様だが若い世代を中心にすべきだ、そのうえで終身雇用を確保する代わりに年功序列は見直すべきだろう。
 少なくとも90年代以降大人しくなってしまったベースアップは見直すべきだ。私はポンポコ製菓で経理を担当していた90年代初頭、物価水準が上がらないこと理由にベースアップを止めた。それまで毎年組合と交渉していたベアを止めたのである。毎年大体2~3千円は平均して黙っていても給料水準を上げてきたので、そのまま継続していたら今5~6万円上がっていても良い筈だ。物価上昇が始まっているのでベアを再開しないと可処分所得は減る一方だ。
 但しグラフ左上の充分高い業種、情報通信・金融等はこの機に乗じて共に賃金アップしようとしていたら不要である。
 

がんばらない、がまんしない


 
 3.11の東日本大震災から今年で13年経った。今でも復旧はままならぬ状況という。先日の朝刊でお子さんを亡くされたご夫婦のインタビュー記事があった。その中で将来に向けて前向きに生きるために「がんばらない、がまんしない」というメッセージを東北から今年地震が起きた能登半島に送りたいとあった。
 
 この声は、そのまま低所得業種の労働者の方々に薦めたい。皆さんは充分頑張っている、我慢している、その声、気持ちをもう少し表現しても良いと思う。もちろん会社の上司、社長に上げてもどうにもならないと言われるだろう。であればサッサと見切りをつけることも手ではないか。昔に比べ転職市場はしやすくなった。体や精神を病んで迄我慢することは無い。何よりも若手の労働市場は慢性的に不足である。欧米の賃金が上がっているのはそうしないと労働者が働いてくれないからである。
 一方でグラフ左上の充分高い業種の方々、この人たちはもう少し「我慢して、頑張ってほしい」。欧米並みに欲の皮を突っ張って、モア、モアと要求するばかりでなく、もう少し「三方良し」の姿勢を持つべきであろう。
 
 直近では東証株価が4万円を超えてバブル以来最高と喜んでいるのか、不安視しているのか、騒がしい。しかしグローバルに目を向けるとニューヨークダウはこの間、14倍となった。ロンドンでも2倍だ。日本は30年間沈没していたのが元に戻っただけだ。これを企業、そして政府の不作と言わずして何であろうか。
 
 ということは「のりしろ」がタップリあるということだ。
 
 日本が世界に誇れる,あるいは、世界が認めている「価値」。アニメやゲームのソフトコンテンツ、伝統芸は海外では人気があるという。観光も然りだ。国内リゾートは西洋富裕層を呼び込むために1泊数十万、数百万円の部屋を用意し庶民との差別化を狙っている。富裕層にはマッチし新たな需要を生むがボリュームを稼げない スイスやイタリアの観光客が皆超高級ホテルに泊まっているとは思えない マスを呼び込む別の工夫が必要だろう。自然・食・伝統の観光の三大要素が揃っていて欧米に比べ観光客が劣後していることを意識しなければならない。
 
 ITや半導体等ハード産業はこの30年でグローバル的に相当劣後してしまった。自動車もEV競争の中で微妙である。ハード産業、金融の経済価値一辺倒でなくソフトを含めた強みの価値を見極めるべきだろう。
 
 より良い企画、改革は、新しいこと、古いものを適度に適確に見極め、判断してモデレートに進めていくのが結局近道になる。急激に全部取替は一見,
見た目がハデで良さそうだが、頓挫することが多い。
 
 フランスの哲学者、モンテーニュが述べている、
社会改革は伝統を踏まえながら、即ち古い価値観を持った人間の意見を「老害」と排除することなくしっかりと受け止めながらゆっくりと進めていく以外に道はない。
 
 この古い価値観が「老害」か否か判断するのもセンスだ。前回お話しした「直観」「感性」といったセンスを磨き、より良いマーケティングを始めることだ。
 
 しかし、グローバル基準で俯瞰すると日本は様々な課題、劣後している点は多々あるが、客観的にみて「良くはないが、悪くもない」国といえると私は見ている。何よりも治安は抜群、公共施設はお陰様で整っている、格差は進んでいるとはいえ、欧米に比べまだまだ平等な国で公益資本主義に最も近い国といえるのではないか。何よりも何もしない政府、(直観が鈍い 最たるもの)のおかげで、ある意味ロシアやアメリカのように危ないことはしない(筈だ)。

 だから多くは望まないけれどそこそこに暮らすなら生きやすい国だろう。もっと成果を上げたい、頑張りたいという意思を持っているならば昨今のアスリートのように海外に出たほうがチャンスを発揮できる。

 この辺りは生き様を決める、読者諸君次第だ。
 


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