猫背の友人

映画、音楽、本などを中心に、最近気になったことについて感想やらなにやら

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最近の記事

「訂正可能性の哲学」を読みながら、「シン・仮面ライダー」について考える

 1999年はノストラダムスの大予言の年であり、映画「マトリックス」が劇場公開された年でもあった。この映画のバレットタイムに代表される革新的な映像表現は当時の観客たちの度肝を抜いた。また、機械との戦争に敗れた人間が幸福な仮想現実を見させられながら機械の動力源となっているというビックリな設定も目を引いた。それは人間と機械との関係が反転するという恐怖であったが、果たしてその恐怖を現実的なものとして受け止めていた人はどれくらいいたのだろうか。少なくとも当時小学生だった私は全く本気で

    • 最近、なに聴いてるの? 第3回 SAGOSAID『Tough Love Therapy』

      SAGOSAID『Tough Love Therapy』 90’sオルタナティブロックを彷彿とさせるローファイなサウンドと、やや気だるげなボーカル、そして暴れん坊なギターが掻き鳴らされる楽曲たちは聴いてる人間を狭っ苦しくて、酒で床がベタつくライブハウスへといざなってくれる。 まず、今どきこんなにギターを前面に出すミックスある?っていう驚きとともに、めちゃくちゃギターの演奏がカッコよくて痺れる。ギターリフをとても大事にしてることが分かるし、きちんと耳に残るフレーズを作り上げて

      • 最近、なに聴いてるの? 第2回 ラッキーセベン『Welcome to our 1st EP』

        ラッキーセベン『Welcome to our 1st EP』 少しさびれた商店街を酔っ払ってとぼとぼ歩いてると、夜の涼しい風に誘われて前を向く。すると視界の隅で赤ちょうちんがゆらゆら揺れている。この大阪で結成された6人組バンドのEPを聴いていると、ふとそんな情景が浮かんでくる。彼らの音楽は楽しく浮かれた気分と寂しい気分が6:4の比率で割られた下町のナポレオンならぬ、下町のソウルミュージックなのだ。 特筆したいのはコーラスワークに重点が置かれているところだ。複雑で圧倒される

        • 最近、なに聴いてるの? 第1回 RHYMESTER『Open The Window』

          RHYMESTER『Open The Window』 前作『ダンサブル』から6年を経て発表された日本ラップ界の重鎮グループによる最新アルバム。まさかの全11曲のうち8曲が既発曲という編成は情報解禁時からファンに驚愕をもたらし、また盛大にズッコケさせもした。 ただ、いざフラットな気持ちで聴いてみるとアルバムとして筋がきれいに通ってることに気がつく。「窓を開ける」というテーマを置くことで、まるで外気を取り込むようなフューチャリング曲や番組タイアップ曲などがポジティブに意味付けさ

        「訂正可能性の哲学」を読みながら、「シン・仮面ライダー」について考える

          あなたが名盤じゃなくっても

          自分は好きなんだけど、あまり他人からは共感されないものがある。自分の好きなものなら胸を張って言うべきかもしれないが、いざ言った時の盛り上がらない空気感が簡単に想像出来てしまう。下手をすれば「あえて好きなんでしょ?」と思われる可能性だってある。 まぁ、そこまでではないにしろ、誰でも他人はあまり褒めないけど自分はめっちゃ好きだというものが一つくらいはあるはず。私の場合だと、スマッシングパンプキンズ(以下はスマパンと表記)の『Adore』というアルバムがまさにそれなのだ。 この

          あなたが名盤じゃなくっても

          浮かぶ雲、下から見るか?上から見るか?

          おそらく1966年のある日、飛行機に乗っていた彼女は22歳で、ソール・ベローの小説「雨の王 ヘンダーソン」を読んでいた。ちょうど小説の中でも主人公が飛行機に乗っていて、そこにはこんなことが書かれていた。 読みかけの小説を閉じ、何気なく窓へ視線を移すと、そこには小説と同じように雲が静かに漂っていた。 それから彼女はすぐに曲を書き始める。この時はまだ何者でもなかった彼女の名前はジョニ・ミッチェル。そして、その曲はのちに「Both Sides Now」というタイトルでポップ音楽史

          浮かぶ雲、下から見るか?上から見るか?

          2022年 邦楽ベストアルバム

          10位. さらさ - Inner Ocean 少ない音数でも確実に印象が残るのは彼女の歌によるところが大きいと思う。90’s R&Bを想起させる複雑なメロディーなのにほとんど日本語で構成された歌詞は非常に洗練された印象を与える。特に『太陽が昇るまで』ではその能力の高さを証明している。 『退屈』では「生活の柄」という歌詞が出てきて、もしや高田渡リスペクトなのかと想像してみたり、まだまだ彼女の全貌は見えてこない。 9位. KANDYTOWN - LAST ALBUM KANDY

          2022年 邦楽ベストアルバム

          ビートルズがゲットバックするヤァ!ヤァ!ヤァ!

          ビートルズのゲットバック・セッションで残された大量の音源と映像が再編集されて映画になるらしいという噂を耳にしてからだいぶ時が経ち、やや忘れかけていた2021年11月末。当初の予定とは多少違えど約8時間におよぶドキュメンタリー作品として「ザ・ビートルズ:ゲットバック」が無事に公開された。 そもそもゲットバック・セッションとは1969年1月に新しいアルバムの制作とTV番組の撮影を同時に進行するために企画されたもので、セッションの最後にはライブをする計画も組まれていた。この時期はバ

          ビートルズがゲットバックするヤァ!ヤァ!ヤァ!

          2021年 邦楽ベストアルバム

          10位 Ooveen - UCHU YUEI きちんと大事な部分は踏み外さない器用さと時おり顔を出すエキゾチックなフレーズ。それに加えて、全体的にリズムが力強い作品に仕上がっているところが好き。 「アイラブユー」からそのまま「憂うつな空気」に繋げるなど上手い言い回しもありつつ、等身大すぎる内容の歌詞も聴き逃せない。 9位 笹倉慎介 - Embankment 日本語の響きを濁さないでメロディに乗せる教科書のような一枚。巻き舌っぽい発声や、空気を多く含んで輪郭をボカしたりせず、

          2021年 邦楽ベストアルバム

          空気を読むことを超えてゆく

          1941年12月7日、日本軍がアメリカのハワイ真珠湾を攻撃した。それにより太平洋戦争が始まる。戦争の序盤は日本が有利な戦況だったこともあり、アメリカでは日本人への恐怖や怒りを煽る報道が連日繰り返されていた。それに伴いアメリカ国内で日系アメリカ人への態度が急速に硬化し、遂には彼らを「敵性外国人」として隔離するまでに事態は進行していく。 そのような状況の中で、日系人を擁護し続けた人物がいた。当時のコロラド州(※1)知事、ラルフ・ローレンス・カーである。日系人を一貫して擁護する彼に

          空気を読むことを超えてゆく

          いつもポケットにいつか使いたい言葉を

          教科書に必ず載っている古典的名著なのに全く読んだことのない本が恐ろしいほどたくさんある。それは音楽に例えると、ロック好きなのにビートルズを聴いたことがない、みたいな感じだろうか。 しかし音楽とは違い、そういう古典的名著を読むには超えねばならぬハードルも存在する。それは言葉がよく分からないということだ。例え日本語で書かれていたとしても難しい言葉が多かったり、古い言い回しが多いと、だんだん内容についていけなくなり、文字を追うだけでも精一杯になってしまう。だが、そんな私でも読みやす

          いつもポケットにいつか使いたい言葉を

          誰のため、何のために歌うのか

          別に決めているわけではないが、最近は週末に映画館へ行くことが多くなった。家で予約をして、昼過ぎくらいに池袋で映画を観る。その後はジュンク堂とディスクユニオン(もしくはココナッツディスク)に寄ってから暗くなる前に帰るというのが定番のコースになりつつある。 そんな中、アレサ・フランクリンの『アメイジング・グレイス』をシネ・リーブル池袋で観賞した。正直に言うと前情報をほぼ調べていなくて、アレサの人生を追ったドキュメンタリー映画だとばかり思い込んでいたのだ。上映直前になって、ようや

          誰のため、何のために歌うのか

          そのうっかりがいつか大きな財産になる、かもね。

          2021年3月某日、『あの頃。』という映画を観に行ってきた。 それは、こんな内容の映画である。 大学院受験に落ち、恋人もおらず、金もない劔(松坂桃李)。どん底の生活を送る中、松浦亜弥の「桃色片想い」のミュージックビデオを目にしたのがきっかけで、ハロー!プロジェクトのアイドルたちの熱狂的なファンになりオタ活に没頭する。藤本美貴推しで、プライドが高くてひねくれたコズミン(仲野太賀)をはじめとするオタク仲間と「恋愛研究会。」を結成し、トークイベントやライブの開催、学園祭でのアイド

          そのうっかりがいつか大きな財産になる、かもね。

          さようなら猫町

          2020年の暮れ、8年間暮らした賃貸から引っ越しをした。と言っても徒歩20分しか離れてないし、そこも賃貸なのだけど。ちなみに最寄駅すら変わらない。しかし新居の居住空間は広いし、陽当たりはかなり改善された。正直言って、引っ越しをして本当に良かったと思っている。 しかし、1つだけ不満なところもある。それは近所に野良猫が全然いない、ということだ。前の家の周辺には車がギリギリ通れるくらいの狭い路地や、微妙なサイズの空き地が多かった。そこは猫たちにとって大変過ごしやすいらしく、しょっ

          さようなら猫町

          もしかして、おれのこと好きだったのかも

          あなたは映画『佐々木、イン、マイマイン』をご存知だろうか?昨年の暮れ頃から劇場公開されたこの映画は上映館数が少ないにも関わらず、心をグサグサ刺された人々の山が築かれたと言われている青春映画だ。 ちなみに話の内容はこちら。 【ストーリー】 石井悠二は、俳優になるために上京したものの、鳴かず飛ばずの日々を送っていた。 別れた彼女のユキとの同棲生活も未だに続き、彼女との終わりも受け入れられない。 そんなある日、高校の同級生・多田と再会した悠二 は、高校時代に絶対的な存在だった

          もしかして、おれのこと好きだったのかも

          殴る方だって痛いんだぞ!(ほんの少し)

          「殴る方だって痛い」という言葉を実際に言われた人は少ないかもしれないけれど、聞いたことがある人は多いと思う。しかし、結論から言えば殴られる方が圧倒的に痛い。そんなことは自明の理なのだ。例えば、指導という言葉を履き違えた身体的暴力は大半の人が駄目だと思っているだろう。むしろ、それを大丈夫だと思っている人がいたら即座に見直すことをお勧めしたい。 対して身体的な暴力ではなく言動の場合はどうだろうか。ことの大小はあれど、それは意外と頻繁に起きていると思う。例えば、あなたが恋人や友人

          殴る方だって痛いんだぞ!(ほんの少し)