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SCENE11:賭け【智孝】

 これは賭けだ。せっかく向こうから舞台を用意してくれたんだ。のってみようじゃないか。
 二日前に仲間から得た情報を元に、智孝は次の依頼内容を話した。補佐や調査を主に担う『影クラス』に向けて話す表向きの内容ではない。今後チームとして動く際に、知っておかなければならない『敵』を調べるためのものだった。

「今回、任務としては『資産家、佐久間氏の護衛』だ。佐久間氏のコレクションである芸術品の中に朧があり、それを狙っている組織の強襲により、ボディガードが1ヶ月以内に5人も亡くなっている。そのため受け渡したいということと、身内に相手への協力者がいるかどうかの調査と特定をする。朧の受け渡しは俺と里紗で行い、調査チームを当日開かれるパーティーの外部と内部からと分けて行う。招待客として数名の影クラスと共に外部から調査するチームをAとし、そのリーダーを野田に。こちらも同様の人数でスタッフとして内部から入るチームをBとし、リーダーを晟に。……とまあ、ここまでが表向きの説明だ」

 こくりと頷き、その場にいた全員が了解の意を表した。続けて。

「ハルからの報告によると、この佐久間はどうやら『流天』という組織に属していて、依頼自体が字守をおびき寄せるための罠らしい」
「ハルちゃんの情報だったら、確実だね」

 弾んだ声で有羽は言った。
 ハルという人物は、単独での調査を最も得意とし、その正確さでは群を抜いて信頼できる字守──久慈(くじ)晴臣(はるおみ)のことだ。このメンバーでは晟だけが面識がないので有羽が同じような説明をする。

「字守をおびき出そうとする目的は何でしょうか?もしかして、この流天という組織……」

 そう聞いてきたのは野田実春だった。途中で『答え』をのみ込んだが、彼はそれを他の者に委ねたのだろう。
 きっと野田は気付いている。俺が言わんとしていることに。

「ああ。俺も神谷の話を聞くまでは『もしかすると』と考えていたんだが、あれを聞いたらほぼ『それ』だよな」
「?どゆこと?」

 きょとんとした顔で里紗が聞く。

「晟、お前は今回チームリーダーだから、答えてみろ」

 突然の名指しに、一瞬ぎょっとした顔をするも、晟は既に自分の中で出ていた答えを口にした。

「聖が言ってた『リーズのコアを作るには朧が必要』ってことから考えると、流天が字守を狙う目的は『リーズを作るため』が一番妥当。つまり、流天はリーズを作っている組織の可能性が極めて高い」
「だな」
「なるほど」

 明日香の件があってからというもの、字守としての活動にブランクのあった晟だが、全く問題はなさそうだと改めて思った。

「神谷は先日の事件で犠牲者へのリーズの投与の可能性は低いと言っていたが、流天の技術が臍央(せいおう)よりも進んでいればその問題はクリアしている。発動したリーズを制御することもそうだ。リーズであった可能性が一番高い『イグリ スミコ』は、晟の名前を聞いてから発動した。ということは、キーワードによって動きを変えられるかもしれないってことだ」
「まだ、コア自体を見たことがないから可能性でしか話ができないけどな」と付け足した。
 キーワードによって動きが変えられるとすれば、制御自体も何かしらで出来るだろう。大体、人形に埋め込むとしても、頭部に埋め込むんだ。コアであるということも視野に入れれば、コア自体が司令塔となってもおかしくはない。

「依頼自体は罠なんだが、一つ気になる点がある。それは、佐久間自身も本当に流天に狙われているってことなんだ」
「仲間割れってことですか?」

 そう彩が問う。智孝は軽く頷き
「それに近いが、流天そのものがあまり結束された組織ではないんだ。長命になれるというので、鬼や朧を狙っているそれぞれの組織(チーム)の集合体って感じだな。佐久間は資金面で携わっていたんだが、色々と折り合いがつかなくなったんだろう。流天内での別のチームに狙われていると思われる。ただ集合体といっても、それを統率する人物と柱となるチームはあるはずだ。字守を捉えたいのは、そこに貢ぐためか、あるいは自分で折り合いをつけるためかな」
と説明する。
 折り合いと言ったが、字守である自分達にとっては良くない、相手の都合であることは簡単に予想できた。流天がリーズを作っている可能性が高い今、自分の手元に置くリーズを欲しがったか、技術を手に入れたいと思ったか……とにかく、自分のためであることは間違いないだろう。

「今回の任務は、明らかに俺たちが狙いだ。どう出てくるかはわからないが、気をつけろよ。そして、流天とリーズの関係性とリーズそのものの調査も出来る限り行うように」
「了解です」

 以前から鬼や朧を狙っていた流天だ。もしかすると、その時から既にリーズの開発をしていたのかもしれない。
 三年前に起きた『鬼狩り』では、生物兵器『エンジェル』の存在があったのだから──

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