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伝記(偉人)の取り扱い方

本シリーズでは、道徳科の授業において、どの学年でも出てくるけど、「なんか上手く取り扱えない」という声が多い伝記(偉人)教材について、私なりに迫ってみたいと思います。これは、完全に私独自の考え方なので、共感できないかもしれませんが、シリーズの最後までお読みいただき、少しでもお役に立てば幸いです。

1 伝記(偉人)教材はなぜ難しいのか

教科書には、杉原千畝、野口英世、マザーテレサといった先人から、現在活躍しているアスリートや各界の一流と呼ばれる様々な人が、伝記(偉人)教材として掲載されています。
しかし・・・
「伝記(偉人)教材だと、子どもが意欲的にならない」
「どこか、他人事」
「抽象的でありきたりの振り返りになってしまう」
など、他の教材と比べると、取り扱うことが難しいと感じる先生方も多いのではないでしょうか。
その1番の問題は・・・
時代背景や、その人物が置かれた状況が、現代の子どもと違いすぎたり、あまりにもスケールが大きすぎたりしてしまい、その結果、
「すごい・・けど・・自分には無理・・」
「時代や状況が違うから、私には関係ない話だな・・」
と、子どもと偉人の距離が遠くなってしまい、自分との関わりの中で価値理解を深めることが難しくなってしまうことです。

2 取扱い注意

上記のことを踏まえると、取り扱う時に特に注意しなければならないのは、「偉人の生き方(行為)」を学ばせるような授業展開することです。
例えば・・
【ネルソン・マンデラさんの教材を取り扱った場合】

【内容項目】寛容、相互理解
【主なあらすじ】
南アフリカのアパルトヘイトに毅然として立ち向かい差別と戦い続けたネルソン・マンデラの伝記的作品である。黒人弁護士というだけで、27年間も刑務所に送られます。その後、反アパルトヘイト運動が行われることで、マンデラさんも釈放された。そして、黒人大統領にまで上り詰める。
大統領になったマンデラさんは、弱体化した南アのラグビー・チーム「スプリングボクス」の強化に取り組んだ。しかし、当時のラグビーといえば白人中心のスポーツだったため、黒人からは強い反対を受けた。それでもマンデラ大統領は国民の黒人と白人が一つになることを呼びかけ続けた。そして、ついにラグビー・チーム「スプリングボクス」がワールドカップで優勝した際には、黒人からも白人からも大歓声を浴びる。

この教材で「差別を乗り越えるためには、自分を見下したり貶したりした人でも許してあげよう。そうすることで、よりよい関係づくりにつながる」マンデラ大統領の行為だけに着目した着地点(ねらい)にすることは、あまり良くないと思われる。
なぜなら・・・
「許すこと」の必要性は子どもはすでに知っています。
しかし、自分をいじめたり、貶されたりした人を「許せない」というのが実際の感情です。
であるにもかかわらず上記のような着地点(ねらい)を設定した場合、子どもが「相手を許すことが大切だと思いました」と発言しても、寛容に接する価値を深く理解することはできていないと思われるからです。

3 新しい視点からのアプローチ

では、この教材では、どのような視点で授業展開をしたらいいのでしょうか。
(新たな視点)
・ネルソン大統領は、ずっと白人の行為を許し(寛容)に理解し続けた。
・すると、長年かけて国民が理解してくれた。
・結果、みんなが1つになった。というハッピーエンドになっている。
しかし、教材のように、必ず寛容に接すればよい結果になるわけではない(それは、子どもも実感している)。
・だからといって、私たち人間は、このような話を聞いた時「キレイゴト」だとは思わない。
・むしろ「このような世の中であって欲しい」と願っている。
・差別を受けた人の、「恨み」や「痛み」は理解できるが、それを仕返す人にはなって欲しくないと願っている。
○つまり、このことが「ネルソン・マンデラ伝記」を取り扱う際のポイントになる。

ということは・・・

この教材を活かした視点は、やはり、ネルソン大統領の視点で考えさせることである。
・私たち教師は、子どもの友達同士のトラブルの時に、よくネルソン大統領と同じ立場に立つことがある。
・例えば、「友人に裏切られた」と主張する子どもに、「あなたの気持ちもわかるが、憎しみでいっぱいのあなたをみたくない」と説得する。
・そして、時間がかかっても「この子どもの気持ちを変えたい」「その方がクラスのため」だと強く思う。
・このように、教師はネルソン大統領の立場をよく理解している。
・しかし、実生活では、子どもは黒人や白人の立場に立つことが多い。
・そのような子どもに、教師の視点で考えさせたり、寛容に接することで得られる世界を見せてあげることは、大きな意味がある。
以上のことを踏まえると、次のようなねらいになる。
(ねらい)
ネルソン大統領の考えを通して、人間だからこそ恨んだり、憎んだりする感情をコントロールする難しさもあるが、その姿は悲しい姿であることに気づき、それを乗り越え寛容な気持ちでありたいという心情を育てる。

4 新たなアプローチからの発問

上記のことを踏まえ、黒人の立場に寄り添いながらも、ネルソン大統領の視点から考えさせる発問は次のようになる。
○差別を受け続けた黒人の気持ちをネルソン大統領は、何も理解していないのではないか。
○ユニフォームを変えようとしないネルソン大統領は、白人の味方になってしまったのではないか。

すると子どもは・・・
「そうではない。黒人と白人を1つにしようとしている」
「黒人の気持ちがわかるからこそ、自分が見本になろうとしている」
と発言することが予想される。
そこで・・・
○黒人が白人を許すことは、黒人にとって損することが多いのではないですか。黒人の大統領が誕生した今だからこそ、今度は、白人を見下しやり返すべきではないか。
○ネルソン大統領がそれをしないのは、なぜか、ネルソン大統領が描いている世界とはどんな世界なのか。

このように、偉人の生き方(行為)のみに着目するのではなく、その人の考え方や葛藤などにも目を向けることが大切です。また、それだけでなく、立場や視点を変えて考えさせることがポイントです。

次回は立場や視点を変えて「伝記(偉人)の取り扱い方」のポイントについて述べていきます。
*私のnoteでは、2週間に一度、「道徳科の授業づくり」について書いております。興味のある方はフォローして頂けると幸いです。

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