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フランス人のパン屋さんへかける情熱について徹底解説

フランス人にとってのパンとは、私達日本人にとっての白いごはんのようなもの。パン屋さんは、パリ市内であれば徒歩圏内に2,3軒はあります。毎朝7時から開店し、朝ごはん用に焼きたてを買うこともできます。
日本でフランスパンと呼ばれているものを、フランスではバゲットといいます。バゲットは、フランス人にとって大切なライフラインの一部なので、1987年までは政府によって価格が決められていました。

フランスに到着した翌日、初めて買った焼きたてのバゲットを仮住まいのホテルの部屋に置いて、少し周囲を散策しに出かけました。戻ってきてドアを開けた瞬間に感じた、部屋に充満するパンの香ばしい匂いの衝撃。パンの国、フランスに来たのだなと強く思ったことは、今でも忘れられません。

フランスのパン屋さんに入ると、フランスパンみたいな長いパンが2種類あり、はじめは違いがわからず戸惑います。バゲットとバゲットトラディションです。トラディションとは「伝統」という意味。バゲットが2種類に分かれたのは、1993年のこと。当時、大量生産の低品質なバゲットが増えてきたことで、危機感をつのらせたフランス政府が、パン屋さんの地位と品質を守るために、バゲットに関する新しい基準を定めました。

トラディションは、小麦粉、水、塩、酵母と決まった材料で、長時間かけて発酵されたものでなくてはなりません。製造過程においても、冷凍してはならず、添加物も禁止です。大きさ、重さの基準もあります。一方で、ふつうのバゲットは、いわゆる量産品で、細かい規定はありません。添加物を加えたり、発酵時間も短くても良いので、低価格で日本円で100円前後。トラディションは130円前後といった感じです。

見た目と質感の差としては、バゲットは両端が丸く、キメが細かく詰まっていて柔らかめで、味もクセがありません。トラディションは両端が尖っていて、皮がパリパリ、中身は気泡が大きく、小麦の風味を感じます。
バゲットとトラディションの使い分け方をフランス人に聞いてみたところ、朝ごはんとサンドイッチはバゲット、肉魚などの食事と共に食べるならトラディションが良いそうです。
フランス人の朝ごはんといえば、クロワッサンに並び定番なのが、tartineタルティーヌ。オシャレな名前から何かと期待すると、バゲットを縦に切ったものにバターとジャムを塗っただけものです。

毎年パリでは、バゲットの大会が開かれるのですが、そこで審査されるものはトラディションです。1等賞のバゲットは、その年1年間、大統領官邸エリゼ宮に納める栄誉が与えられます。大統領と同じパンが食べてみたければ、ふつうの人でもお店にいけば買えるのです。粋な副賞ですよね。今は、トラディションのユネスコの世界文化遺産入りを目指しているそうです。

さて、こちらの動画をご覧ください。フランスに住むイギリス人コメディアン、ポール・テイラーが「What the Fuck France」という決め台詞と共に、フランスのありとあらゆることについて不平不満をいい続ける、フランスのテレビ局制作の人気シリーズです。そのパン屋編です。

以下、意訳—————

フランスで理解できないもの、それはパン屋。
もし、フランスで100%完璧なものがあるとしたら、それはパン!
コカインよりも魅力的!
ただし、パンを買う場所自体は悪夢…

なぜ、パン屋が悪夢か、3つの理由があります。

1つ目、行列。
フランスにおいて、パンは信仰よりも大切なので、日曜でも教会には誰もいません。その代わりに、たくさんの人が地元のパン屋で列をなしています。

そして、並ぶよりも先に、自分が何を買うかを決めておかなければなりません。列は意外と早く進むのです。
たとえたったの数秒間でも躊躇してしまうと、周囲の視線が刺さります。
読込が遅いYoutubeの画面を見つめるような目で…。

クロワッサンひとつと…、えーっと…
(後で並んでいるお兄さん)「クソッ、イラつかせるなぁ…おい!これから仕事で時間ない人もいるんだぞ!おーい、いそげ〜!」
クロワッサンとパン・オ・ショコラをひとつずつください!
(店員)「他には?」

2つ目。
なんですか、このロボットのような店員達は!?
いつも全く同じことをいうために、同じ工場で製造されたようじゃないか!
「他には?」「他には?」「他には?」「他には?」「他には?」
もし、他に何か欲しかったら、もう頼んでます!でも頼んでないから!!
「以上ですか?」

パン屋とは、この上ない非常に強い愛着を持つもの。それはまるで結婚した間柄のようなもの。もし、あなたがいつものパン屋に、他のパン屋の袋を持っていったとしたら、彼女はブチ切れるでしょう。
「これはどこからきたの?」「他のパン屋に浮気して!」「もう離婚よ!!」

3つ目。
バゲット、それはフランスのパンにおける頂点!グルテンアレルギーにとっては耐えられないけど。そして、買うのには、細かなしきたりがあり、たくさんの重要な決断事項がある。

バゲットにするべきか…、半バゲットにするべきか…それが問題だ。
でも、本当はわかってる。半分を選ぶということは、負けを意味している。半分だけ注がれたワイン、半分だけのテーブル、半分だけの椅子、半分だけのクマちゃんに話しかける…

そして、焼き加減を決めなければなりません。
よく焼けてるもの?焼きすぎてないもの?
(パン生地が投げつけられる)
僕はパンを頼んだつもりだったけど?クソッ!

無事にバゲットを手に入れたら、家につく前までにパンの端にかじりつきましょう。なぜなら、パンの端っこには妖精がいるから!———————————————

やや誇張されている箇所もありますが、だいたいこんな感じです。
1つ目事例、行列の憂鬱と列後方からの圧は、本当によくあります。
特にお昼どきに、サンドイッチの種類が豊富なパン屋さんでは緊張感が走ります。formuleという飲み物とデザートのセットがあったりすると、もう頭は大混乱です。飲み物は何にしよう…、デザートをつけるべきか否か…。

2つ目の事例、avec ceux-ci ?(他には?)攻撃には、c’est tout ! セットゥ!(以上です)と回答しましょう。

3つ目の事例は、実用的ですね。
そう、バゲットは半分でも買えるのです。一人暮らしだったり、一本では多いなと思うときは、demi-baguette ドゥミ=バゲットといえば、切ってもらえます。
焼き加減は、焦げ目がついたよく焼けたものをbien cuite ビヤンキュイット、白っぽいものをpas trop cuite パートーキュイットといいます。我が家はよく焼き派です。

最後に出てきた、パンの端っこをかじるのは、御作法なんじゃないかと思うほど、みんなお店を出るとかじっています。包装も紙を巻いただけで、パンがほぼむき出し状態なので、焼き立てだったりすると、もうガマンできない気持ちもわかります。

パンの端っこは赤ちゃんの歯がため代わりにあげることも。道端で落ちてることも多く、それをみると、赤ちゃんが落としちゃったのかなぁ、とホッコリした気持ちに。うちの娘も赤ちゃんの頃から、バゲット買うと、必ずその場で端っこ食べてます。

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ここまで、フランスのパン屋さんの話ばかりで、日本にお住まいの方には少々つまらなかったかもしれませんが、なんと朗報です!
日本でも自宅で、フランスのパンを味わえるようになりました!フランスの冷凍食品専門店のPicardが日本に進出したのです。Picardはフランス全土に1000店舗ほど展開しており、パリの街角のいたるところにあります。もはや、Picardの冷凍食品はフランス人の生活の一部なのです。

Picardの人気定番商品に、クロワッサンとバゲットがあるのです。成形された焼く前の状態のパン生地が冷凍されていて、予熱したオーブンに放り込むだけで、自宅で焼きたてのパンが食べられるのです。焼いた後はわりとすぐに固くなってしまうのですが、焼き立てのアツアツは絶品です。クロワッサンはサックサク、バゲットは外カリ中フワ。
日本では都内のオシャレタウンを中心に20店舗弱あり、ネット通販も行っているようです。

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我が家ではじめて焼いた時の、クロワッサンとパン・オ・ショコラ。まだ、オーブンを使いこなしきれず、焼きムラが起こってしまいました…。それでも、味はフランスのパン屋さんに負けない美味しさでした。

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