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経験に無駄はない


某日、母を連れてバスで外出した時のことです。

この日は、あるイベントにより普段は空いているバスが満員でびっくりしました。

でも、予定は変えたくないのでそのままバスに乗ると、そこには母を含めてお年寄りもたくさん乗っていました。

当然かなり多くの人が立ったまま乗っていたし、子供連れのお父さんたちは騒ぐ子供達にも何も言えず、子供の元気な声が響く中、あまりクーラーが効いていない
車内で、大人たちはひたすら目的地に到着するのを、辛抱強く待っている
感じでした。

私も母に何度か「大丈夫?」と声をかけていました。

すると、後ろから「きゃー」という声が聞こえ、男性が「運転手さん、車止めて」というではないですか!

え、と振り返ってみるとバスの通路にうずくまっている女性の姿が見えました。

ただ、私は人がぎゅうぎゅう状態のため、身動きができません。

でも、バスの運転士さんには聞こえていないようだったので、私は大きな声で

「人が倒れましたー」と叫びました。

幸い、大きな私の声はちゃんと届き、すぐに運転士さんはバスを止め、
通路の人混みをかき分けて、後ろまでやってきました。

他の乗客の人たちが「熱中症、熱中症」と叫び始め、それを聞いて、
見た運転士さんは「すぐに救急車呼びます」と言って電話をかけ始めました。

私は、動けないながらも
「誰がペットボトル持っていませんか?首を冷やすといいと思います」
と大きな声で言うと、すぐ近くの女性が「はい、これ」と言って
お茶のペットボトルを差し出したので、「ありがとうございます」と言って、
「これで冷やしてあげてください」と、倒れた女性の近くにいる人に
リレーのように渡しました。

そのうち、当初意識不明だった老婦人の意識が戻り、
一生懸命立ちあがろうとしています。

「いや、動かないほうがいいですよ」

とまた声をかけ、そのうちに運転士とは別の職員の人が
「私が車を持ってきたので、その中で救急車が車で待ちましょう」と
声をかけます。

するとその老婦人は「いや、救急車とか大袈裟なのは・・・」と、
自分は大丈夫アピールをするのですが、私は
「いや、涼しい車に行ったほうがいいですよ」と声をかけ、
付き添いの女性に抱えられながらなんとかバスを降りて行きました。

お借りしたペットボトルもお返しし、他の乗客の人も心配そうに見守っている、
という空気でした。

お互い全く知らない同士の乗客でしたが、不思議な一体感がありましたし、
みんな親切で優しい人ばかりでした。

「ああ、いいな」と思うのは、こんな時です。

みんな早く目的地に到着したいし、あまりクーラーがきいていない車内で、
急病人が出てもみんなちゃんと心配し、ちゃんと気遣い、自分にできることを
する。

そんな人たちがこんなにたくさんいるんだ、と思うと「いいなあ」と思うのです。

付き添いの女性が座っていた席が空いたので、周囲を見渡しおそらく私の母が一番高齢層に見えたので、「あなた座ったほうがいいいよ」と言って、座らせました。

ほんの少しづつの思いやりが、こんな時にちゃんと協力体制を作り、多くを
語らなくても問題解決ができるのは、どこでもあることなんだろうか?
とちょっと嬉しい疑問が湧きました。

落ち着いた段階で運転士が乗降口のドアを開けて、新しいお客さんが乗って
きましたが、そのお客さんたちも一部始終を見ていたのか、一切文句を言わず、
静かにバスが再び目的地に向かい始めました。

「ご協力いただきありがとうございました」

と2回ほど、運転士さんがマイクでお礼を言ってくださいました。

「あなたが大きい声で言ったから、よかったんよ」

と私は母に褒められましたが、これはまさに客室乗務員時代の救急看護と、
緊急時対応の訓練のおかげです。

わかりやすい言葉で、大きな声を出す。
たったこれだけが、案外できないものです。
気が動転していればなおさらです。

でも、周囲の人たちがあっという間に協力体制を作ってくれたからこそ、
です。

私はただ、自分ができることをしただけですが、
「経験に無駄なことは何もない」と思いました。


余計なことですが、あの座り込んだお客さんはきっと熱中症ではなく、
立ちくらみだったのではないか、と私は思っています。

その老婦人が降りていく時に顔色を見ていましたが、赤くなっていなかったし、
呼吸も普通にしていたので、多分慣れない人混みの中で立ちっぱなしだったので
貧血になってしまったのではないか、と思いました。

本当のところはわかりませんが、そんなこともちゃんと見ている自分に、
「やっぱり経験は無駄ではないな」と思い、驚きました。
どうぞご無事でありますように。


きっとあなたにもいざという時に役立つ経験があると思います。
例えそれがずいぶん前の経験であっても、
普段使うことがなくても、ふとした時に役立つ経験が・・・

なんでも経験しておくって、大事です。


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