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「純粋に勝負したい」電撃退団!元ヴォレアス古田史郎 北海道からビーチバレー挑戦の真相(廣岡俊光)

■ クラブからの退団発表

バレーボール V.LEAGUE ディヴィジョン2(V2)ヴォレアス北海道は、5月27日「選手退団のお知らせ」をリリースし、7選手の退団を発表した。

 退団する選手達のメンバーの中に「古田史郎」の名前があったことに、驚いたファンは少なくなかったはずだ。

 地元・北海道出身の古田史郎選手は、法政大学在学中に日本代表に選出。その後、東レアローズに入団、ジェイテクトSTINGSを経て、2017年、ヴォレアス北海道のチーム創設初年度に移籍。そこから4シーズン、初代キャプテンとしてチームをけん引してきた、文字通り「チームの顔」といえる選手だ。

 今シーズンは開幕前とシーズン終盤、二度にわたる大きなケガに苦しんだが、大分三好ヴァイセアドラーとの、V1・V2入替戦に出場。第1戦は両チーム最多の18得点をたたき出すと、第2戦もあと一歩のところまで迫りながら、おしくも昇格には届かなかった。

 チームの悲願である「V1昇格」を果たさぬまま、チームを去る決意を固めたのはなぜか。今後はどんな活動をしていく予定なのか。5月31日をもってヴォレアス北海道を契約満了となった、古田史郎選手に話を聞いた。(聞き手/文:廣岡 俊光)

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■ 2年半前から考えていた退団

――ヴォレアス北海道退団という発表には正直なところ驚きました。まずは、ここに至るまでの経緯を教えて下さい。

 はい。実は、退団自体は2年半前くらい前から考えていました。ただ昨シーズン、入替戦自体がなくなり、その前の最後のホームゲームもなくなってしまいました。それまでともに挑戦して下さったファンやサポーターの皆さんの前で、元気な姿をお届けできず、V1昇格も果たせませんでした。だから今シーズンはチームに残りました。全力でV1昇格に向かって戦っていくということで、今年は挑んでいたんです。

 今回退団することは、ともに戦ってくれた、ともに退団するメンバーの中では決まっていた、決めていたことでしたので、自分の心の準備はできていました。でも退団の発表後、本当にたくさんの方に問い合わせをいただいて・・・そんなにも色々と感じて下さっていたんだなと。そこはまだ受け止め切れていないところがあります。ただやめるということに関しては、決めていたことでした。

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■ 新たな挑戦へ

――2年半前から考えて決まっていたという今回の退団ですが、そこにはどんな理由があったのでしょうか?

 ビーチバレーをやりたい、ビーチバレーに転向したいという思いがずっとあったんです。そのタイミングがいつなのかを、自分の中で整理していました。こういった情勢になってすごく悩みました。越川さんのような(インドアとビーチの)二刀流も含めて、色々と考えたんですけど・・・ビーチバレー一本でやっていこうと決めました。

 理由としては、ヴォレアス北海道はひとつの形として成立したのかなと思ったからです。

 『目標』としてV1があって、『目的』としてV1にいく過程やV1にいったときに、よりたくさんの方に知っていただいて、何かが届けばいい。それぞれがそういうものを持ってこれまで挑んできました。その一方で、個人としてはもう少しこういった方向でやりたいなという思いがあったし、純粋にもっともっと「勝負したいな」と。V1という目標があって、そこから日本一になってという、形が見えてしまったというか。もちろん達成はできなかったですけど、それは達成できるものだなと感じたんです。

 そこに挑戦し続けるのもひとつなんでしょうけど・・・見えないものに挑戦する、まさにこの世の中のように本当に見えない中に挑んでいく、新しいことに挑戦していく、同じようだけど同じじゃない新しいことに挑戦していく中で届けられるもののほうが大きいんだろうなという思いが、自分の中で大きくなってしまって。最近は、そこの葛藤がありました。

――新しい挑戦の舞台として、ビーチバレーを選んだのはどんな理由からですか?

 ビーチバレーはこれまで、正直遊びという感覚でしかやったことがなかったです。本格的に挑戦したことはありません。ただ、そういった中で楽しかった。競技自体の魅力もそうですし、そこに関わる方もそう。ビーチバレーを取り巻く環境に魅力を感じていました。

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 ぼくらはスポーツを通して自分達の人間を形成してきたので、やるとか見るとか支えるだけではない、スポーツの魅力を示していきたいなという思いが強くあります。ぼくらの想像するビーチバレーの面白さと、ぼくがいま思っているビーチバレーの面白さをマッチングさせてやっていきたいと思ったのが、最後の決め手でした。

 これからの未来を想像した時に、ある程度の形が見えていたとしても、そこに挑戦する面白さも絶対にあると思います。V1、日本一を目指すインドアの面白さもあると思います。でも、あえてそこを行かないという一つの挑戦というか。やっぱり挑戦したくなっちゃうんですよね(笑)。うまく答えになってなくてすいません。

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■ 止められなくなったビーチへの興味

――古田選手はヴォレアスの立ち上げからのメンバーであり、このチームのために地元・北海道に帰ってきた、まさにヴォレアスの象徴です。ヴォレアスでの活動とビーチバレーでの活動を、並行して続けることも不可能ではない。それでもビーチ一本に絞ったのはなぜですか?

 ヴォレアスとの関係を整理しないといけないなと思いました。ヴォレアスに対して中途半端になってしまうことも良くないですし、向き合うこと自体が中途半端になってしまうのはよくないなと。あとは本格的にビーチバレーに挑戦していく上で、やっぱりひとつのことに集中したい、集中するべきだなというのが強くありました。

 ぼくがヴォレアスの象徴だったと思っていただけるのは、すごく光栄なことですし、ぼく自身うれしいことです。でもそうして下さったのは、支えて下さっている地域の方、メディアの皆さん、そして何よりチームメイトがそうしてくれていたんだなって思います。そういったメンバーとともに戦い続けられたから、結果そうなった。

 ぼくはヴォレアス北海道に、チームをV1に昇格させることをミッションとして来ました。そのミッションを達成した時に、こういう社会になっていればいいなという理想を掲げて、それを発信して、共感してもらえて、地域の方やメディアも取り上げてくれました。

 その中で、なによりチームメイトがそれぞれ事情を抱えながら、ともに戦ってくれて成立していたんだなと、あらためて気づかされたんです。だからこそですよね。だからこそ新しい挑戦をして、そういったみんなの思いを背負いながらこれから頑張っていきたい。自分のなかでそれがどんどん大きくなってしまって。

 じゃあ、それはヴォレアスにいてもできるんじゃないかという考え方も、もちろんありますよね。でも、ぼく自身はプレーヤー、アスリートとしてまだまだ成長段階です。いい年齢にはなってきているんですけど、衰えを実感する場面も少ない。そんな中で、2年半くらい前からそういうことを考えていたのがどんどん膨らんで、こうやったら面白いだろうなとワクワクしだしちゃって。そうしたら、もう止められなくなっていました(笑)

――ビーチバレーに挑戦することについては、ビーチ経験もある越川優選手やチームメイトの皆さんに、相談はされたんですか?

 (越川)優さんにはチラっと相談しました。ただ、相談したのは優さんがチームに来た当初で、それ以降はビーチバレーの話は全くしていなかったですね。だから報道を見てつい何日か前に「ビーチに行くんだ?」って言われたくらい(笑)。

古田選手は今後「A-bank旭川」の設立メンバーで、同じくヴォレアス北海道を退団した辰巳遼選手、白石啓丈選手とともに、ビーチバレーの練習に取り組むことを明らかにしている。

 これから一緒に組む辰巳遼選手とは色々な話をしました。その時も、まず僕らは今シーズンV1に上がることを目指そうと。試合で元気な姿を見てもらう機会が少ないシーズンになってしまったけれど、前見た時よりも成長したよね、楽しそうにバレーしてるね、あしたから頑張ろう、と思ってもらえるようなプレーをしようと。ぼくらが今までどおり追求してきたものを表現し続けて、この先に向かっていこうと話しながら、今シーズンを戦い続けてきました。今後は、それがそのままビーチにスライドするということになります。

 きょう初めて自分の口でビーチに向かっていくということが言えたので、やっと次のステップに進めるなと思っています。

――言ったら落ち着きました?

 落ち着きましたね(笑)。一部報道でビーチに行くと出て、やっぱり自分の口から伝えたかったので。

 北海道で、好きなことを好きなように続けさせてもらって、育ててもらった。北海道に対してぼくたちができることをやっていきたい。それがやりたいことの一番前に来ちゃって、だからこその挑戦、だからこそのビーチバレーにいくっていうことなんです。まだうまく説明できないですけど・・・そういう理由で決断しました。

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■ これからも北海道のために

――今後ビーチバレーの拠点など、どういった体制で挑戦することになりますか?

 いま言えるのは、旭川を拠点にしてやっていきます。元・北海道コンサドーレ札幌の曽田雄志さんにご指導をいただきながら、昨年度、自分たちで社団法人A-bank旭川を設立させてもらって、スポーツを通した社会貢献を考えさせてもらっています。そしてこれを活用しながら、ビーチバレーボールのチームを設立しようかなと思っています。スポーツと社会をうまくリンクさせながら、たくさんの方にいろんなものを届けていきたいですね。

――今後も北海道を拠点に活動していくということですね?

 今まで以上に「北海道が大好きだ!」というのを前面に出して活動していきたいと思っています。今までもこれからも、そこは変わりないですけど、より北海道の魅力をぼく達らしく表現しながら、挑戦し続けることがベースになってくるのかなと思っています。

――Vリーグのチームに所属しているからこそ、できること・できないこと。一方で、これからより小さな単位になるからこそ、できること・できないことがあると思います。それらを含めて、これから先への希望はどうですか?

 めちゃくちゃありますね。日本バレーボールリーグ機構(Vリーグ機構)に対して個人的に思うこともあります。コロナ禍で入替戦の問題もありました。選手として思うこともあったし、そこに関わる人達の声も少なからず目にもしました。ぼくらがその当事者になったことで、そこにたくさんの声をいただいて、それがぼくらが活動するエネルギーになりました。だからこそ・・・だからこそ新しいことに挑戦していきたいんです。

 ヴォレアス北海道が目指しているものと、ぼくらが目指しているものは一緒なんだろうなと思っています。そのうえで、ビーチバレーを通してより切り込んで、北海道に対して貢献していきたいですし、あとはもうほんと、勝負していきたい(笑)。

 Vリーグにいたからこそできること、こういう立場になったからできることは色々あるんでしょうけど、変わらないと思うのは、全力で人と向き合うこと。ここは変わらないと思っています。だから、できることを続けていく。こういうことができたら面白いなということをやっていく。より動きやすくなったと思っています。だから、できない理由を考えるのではなくて、どうやったらできて、どうやったらそれをたくさんの人に役立ててもらえるのかを考えていきたい。

 最終的にはスポーツを「みる」「やる」「支える」だけではなく、生活の一部に必要なものとして、スポーツの影響が入りこんでいけるような未来をつくりたい。それをこの北海道で全力でぼくらは表現していきたいと思っています。

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■ 「目標は達成できなかったけど、目的は達成できた」

――すこし意地の悪い質問をさせて下さい。ずっとヴォレアスの古田史郎を応援してきたファンの中には、「V1にチームを昇格させてからいってほしかった」と思っている人もいるかもしれません。そういう声にはどう応えますか?

 V1に昇格させるのがミッションで、それを達成できなかったのは僕自身ふがいなさもありますし、やりきれなかった部分として悔いはあります。そこを達成してくれよという気持ちも分かりますし、ぼくもできるのであればそうしたかった。

 でも、それがぼくが人生をかけて追及してきたこと。いちプレーヤ―としてもそうですし、ヴォレアス北海道やバレーボールを通して表現したかったものの、ひとつのゴールなんです。

 ヴォレアス北海道としてのゴール、バレーボール選手としてのゴールを達成せずに、到達せずに、自分の人生のゴールという方向に進んだことに対しては申し訳なさはあります。だからこそ、これからより勝負していけるかなと。そこを証明するためにともっと頑張らなきゃいけないですし、もっともっと成長しなければいけない。そこにこそ本当にぼくがヴォレアス北海道、バレーボールを通して表現したかったものがあるんだと、ぼくはそういう風に思ってしまった。自分自身に素直でいたいというのがまさった部分が強くありました。

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■ 「ヴォレアスは今後V1に昇格する」

 あとは、ヴォレアス北海道はV1に昇格するということを確信した。それが見えてしまったというのがぼくにとっては大きかったです。もちろん自分のチカラで成し遂げたかったというのはありましたけど。

 今回やっと入替戦を経験できて、V1との差をみんなが分かって。でもV1との差はこういうところだよねというのは、実は4年前にこのチームに来た時からずっと言っていた部分でした。チームが成長して、いざそのときを迎えるにあたって、やっとそれを全員が実感した。V1の舞台を知らないメンバーが多くいて、だからこういうことが必要なんだ、こういうことをスタンダードにしていかなきゃいけないんだと、4年前から言い続けてきました。

 ヴォレアスに移籍して最初の1~2年は、ぼくにとって我慢の時期でした。もっと自分自身のパフォーマンスにフォーカスしてやればこうなるというのはあったけど、どこかで我慢しなければいけない部分がすごくありました。でも、たくさんのひとにサポートしていただいて、みんなで頑張っていこうと思えた。それでたどりついたのが、先日の入替戦だったんです。

 だから目標は達成できなかったけど、目的がある程度達成できてしまったのが、すごく大きくて。だから自分のこれからの人生の意義を見出させてもらって、ありがとうございますという部分と、でもちょっともやもやっとした部分もあるからごめんなさいという部分と。それらを含めて、これから僕たちのビーチバレーの活動もそうですし、社会にできることを通して証明していきたいと思ってますね。

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■ 世界を視野に入れたビーチバレーでの活動

――ビーチバレーの具体的な目標は?

 やったこともないくせによく言うよなと思われるかもしれないですけど、世界を獲りにいくつもりで活動しようと思っています。そのために何が必要なのか。世界を視野に入れながら、そのために何をするかというところで、環境整備として、昼夜問わず天候に左右されず、室内でフットワークできるような砂場のトレーニング場を作らせてもらいました。旭川を拠点にトレーニングを積みます。

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 あとは北海道にも何か所かビーチのコートがあるので、そこで練習させてもらって、北海道の競技のレベルを肌で感じながら、どうやってビーチバレーを認知してもらえるかも考えながら活動していきたい。そういうことを北海道ベースで考えています。

――「世界を獲る」というのは、例えば今後のオリンピックなども視野に入れた活動になるんでしょうか?

そうですね。次のパリ五輪、その次のロサンゼルス五輪を目標にやっていきたいです。そして、いかに上に食い込んでいけるか。やったこともないのに何言ってるんだと思われるかもしれないですけど(笑)。それを達成することによって、どういう世界になっているかなということにワクワクする。そうして突き進んでいきたいです。

――ファンの皆さんに向けて伝えたいこと、最後にお願いします。

 自分は誰よりも子供なんだなと、今回の件であらためて思いました。というのも、やっぱり純粋にワクワクしていたい、もっともっと夢中になって、こういう世界になってればいいな、そのためにできることはなんだろうなって思ってしまう。

 自分自身がいまこうしていられるのは、まずはこの北海道の方たちや、ぼくに関わって下さった方がいたからこそ。ぼくはひとりじゃなにもできません。何もできないからこそ、みんなでそういったものを達成していきたいという思いが強くあります。

 これからも変わらず応援していただけたら嬉しいです。そしてヴォレアス北海道も、変わらず応援していただけたら嬉しいです。

 この北海道でスポーツの価値をより高められるように、ぼくは頑張っていきたいと思っています。気づいたら生活の一部にスポーツの何かが活かされてるな、スポーツ役に立ってるなと思っていただけるような未来を想像しています。ぼくのことを応援していただけなかったとしても、そうやって感じていただける未来を作れるように。

 今後はビーチバレーの活動について、皆さんに正式な報告ができる日をお待ちいただければと思います。

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■ 取材後記

 圧倒的な跳躍力、迫力のあるスパイク、味方を鼓舞する雄叫び。古田選手の躍動が、コート上さらには会場の空気さえも一気に変えてしまう瞬間を、これまで何度も目撃してきた。プレー面でもコード外でも、大黒柱が古田選手であることは明らかだった。

 一方で、今回のインタビューでも吐露してくれたように、ヴォレアスに加入してから、自分が求めているもの、チームの成長のために必要だと信じているものを、周囲となかなか共有できないことに悩む時間も長かった。

 これまでのインタビューでも常に言葉があふれた。聞き手に「自分のことば、ちゃんと伝わっていますか?」と気にかける姿勢も、ずっと変わらない。バレーボール選手としてという枠組みを超え、ひとりのアスリートとしてこの社会にどんな影響を与えることができるのだろうかということを、常に意識している存在だ。だから聞き手も、目の前の事実(試合結果やプレー内容など)だけではなく、彼のアスリートとしての「芯」の部分を理解し、ことばを読み解く。プロ同士の対峙。大変だけれど、とても楽しい時間だ。

 いつだって純粋な勝負を追い求めてきた。これからの活動の拠点を北海道においてくれることは何よりうれしい。心強い仲間たちと一緒に、そして北海道の人たちと一緒に。古田史郎選手の門出に大きなエールを送りたい。

※UHB「みんテレ」6/1(火)放送の動画です(VTR2分40秒)