ある詩人のイディオレクト3―細川雄太郎異聞―
【南川里の夜】
「元気か」
数か月ぶりに会う関沢は痩せていた。丸顔に丸眼鏡がトレードマークだったのが、こけた頬の上に銀縁のフレームが乗っている。半面、レンズの奥の眼光は、一層鋭さを増した。配置先はそれほど過酷なのか。関沢は、南方配置の後、一度韓国に戻ってきていたので、時間をやりくりして会ったのだ。
南川里(ナンチョムリ)の町は、京城と釜山のちょうど間だった。田舎ではないが、それほど大きなビルはない。少し京都の東山に似ていると思った。
「膝が痛んだり、腹を下したり散々だ