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受験は入口に過ぎない【中学受験】

中学受験で志望校に合格をいただいた後のお話。

「もう切り替えなさい」と、怒る低い声が聞こえた。

4月から通う中学の制服や備品購入のために学校に訪問していた時のことだった。

広い体育館には、サイズサンプルの体操着や靴、備品がブースごとに並べられていた。
サイズを確認する親子やどっちにするか相談をしている親子、同じ小学校の友達だろうか、仲良く話している親子連れ。

体育館の中は中学受験を戦い抜き、安堵した親子ばかりで開放感に包まれていた。

私もその一人。

体操着のサイズ選びも6年間を考えて少し大きめにしようとか何枚必要なのかとか、悩みながらもこの時間が迎えられていることに自然と笑みがこぼれる。

サイズ選びが終わると注文書を持って、会計の列に並ぶ。
その列が長くなり始めていた。

娘と一緒に列に並んでいると、隣の列の親子の声が聞こえてきたのだ。

「もう切り替えなさい」

「だって・・・」

口をとがらせたり頬を膨らませたり、暗い表情で下を向いている女の子の姿が見えた。
体中から”ここは私の居場所じゃない”という殺伐とした雰囲気が、小さい体から上り立っている。

一緒に来ていたのはお父さん。
「いいかげんにしろ」

喧嘩の様子から、この学校はその子の第一志望ではなかったのだなと察することができた。

私の横では、キラキラした目の娘がいた。
憧れの制服、鞄、ここでのこれからの6年間の学校生活。そして受験からの解放感、きょろきょろ周りを観察している姿は、ここでの未来を見ている。

中学受験は、チャンレンジ校、安全校も含めると何校か受ける人が多い。
我が家のように第一志望一択で、落ちたら公立に行こうと考える人の方が、少ないかもしれない。うちも結局、直前になって違う学校も受験した。

ここまで勉強したのだから、行きたい学校に落ちたとしても私立に行きたい、行かせたいと考えたからだった。
後から通塾している友達に聞くとかなりの数の受験を勧められたらしい。
塾の実績にもなるから、そうなるよね。


話を戻すと、第一志望じゃなかった子も入学するということだ。
つまりは、その学校に行きたくて合格した子と他の行きたい学校は残念ながら落ちてしまって仕方なくうちの学校に通うことになった子がいる。
温度差があるのは当然だ。

受験が終わって、その傷がいえぬまま仕方なく行くことになった学校の採寸に来ているのだからどうしても比べてしまうのだろう。
受け止めきれていないのだろう。

うちは受験の時に娘の前では「滑り止め」という言葉を使わないようにしていた。
ついつい夫との会話では、「滑り止め校、受けといた方がいいかな?」と言ってしまっていたのだが、娘の前では言わないように意識していた。

滑り止めって表現が、ちょっときついなと思ったのだ。

もし、その学校に通うことになったら「滑り止め校に通っている」ってずっと自分でラベルを付けてしまうことになる。後から「この学校も良い学校だよ」とか「ご縁があったんだから」と言っても無理な話だ。

たった12歳、小学校6年生に気持ちを切り替えてって言っても難しい。
強く憧れている学校があるほど尚更だ。
大人だって難しいと思う。

気を付けたいのは、第一志望校に合格できなかった後のこと。

志望校じゃなかった場合でも、その学校に入って良かったと思えるように導いていかないといけない。
中学受験の難しさの一つでもある。

中学受験はあくまでも入口。

実際に6年間通うことになるのは、子ども自身。親じゃない。

今となっては、採寸に来ていた親子がどの子だったのか、今も通えているのか確かめようがないが、入学式の写真に写っているのに一度も学校に来ていない子もクラスにいたのは事実だ。

色々なことを我慢して中学受験に臨むだけでもえらいと思う!
憧れの学校があるのは目標を持つには大切かもしれないけれど、その学校以外にも素敵な学校がたくさんあって、違う道だって楽しいことがあるよって親としては事前に伝えておきたい。

実際どんな理由で学校に来なかったのか分からないけれど、合格したのにその後に学校に通えなくなってしまったなんて、やっぱり胸が痛い。

入学した後に学校の校長先生からの話にも「実は一番気にしないといけないのは、わが校が希望校じゃなかった子ども達のことです」とあった。


中学受験は合格するまで親子で二人三脚で走るけれど、合格した後、繋げていた足の紐をほどいた後も大事だと思う。

合格して良かったね、それだけじゃない。

受験が終わった後もそれぞれにドラマがあって、心のケアも必要になる場合がある。

思い描いていた道とは違ったとしても進む道を希望の光で照らしてあげるのも親の大事な役割だとも思うのだ。




今年もまたこの日を思い出して過ごしたが、いよいよ大学受験。
今から気が重い。

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