競争心がエンジンをかける
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平日の朝、7時半。
「ママ、時間だよ~!」
と娘の声が、聞こえてきた。
私は、食べ終わったばかりの朝食の食器を片付けながら
「はい」と返事をする。
濡れた手を拭きながらリビングへ行くと
娘は、リビング横の自分の机に座っている。
夫はダイニングテーブルのいつもの席に、
私は慌てて夫とは対角線上に座った。
目の前には白いプリント1枚。
そして鉛筆と消しゴム。
「よーい、スタート!」
夫の声と共にプリントをひっくり返して、一斉に問題を解き始めた。
これは、娘が中学受験を控えた小学6年生の冬、ちょうど12月頃の話だ。
毎朝、算数の問題プリントを1枚やってから学校へ行く。
そんな習慣になったのは、夏休み明けだったと記憶している。
問題は10問。
問1から問5までは、計算問題や1行問題が並んでいる。
裏は文章問題や図形など少し時間がかかる問題が続いていた。
小学校は近かったが、8時には家を出ていた。
7時半から開始して、タイムリミットは30分。
小学生が解く算数の計算問題だから、四則演算が中心で簡単かと思いきや
計算の順番を間違えると、全く違う答えとなる。
同じ式に小数点と分数が混ざっている計算問題もあったりして、少し厄介。
うっかりミスもしやすい。
まともに掛け算から解いていると数が大きくなり、凡ミスをしやすい。
ちょっとしたコツが必要になる。
ピラッ
遠くから紙を裏返す音が、聞こえた。
(早いっ)
私がやっと裏にひっくり返して、問6の文章を理解しようとした時
「終わった!」と娘の声。
さっと支度し、「行って来ます~!」と家を出ようとして
慌てて「行ってらっしゃい」と玄関から送り出す。
夫はその前に終わっていたようだが、私はタイムアウト・・・。
最初にこのプリント問題を始めた頃は、1枚をやるのに1時間以上かかっていた娘。
分からない、分からないと泣きながら言っていたのも事実。
それが、12月にはかなりのスピードで問題が解けるようになっていた。
プリント問題は100枚あった。
100枚あった問題は全て解き終えて、解きなおしを終え、この頃は確か二巡目であったと思う。
一度解いているので、答えを暗記しないように問題はランダムに当日選ぶ。
1時間以上かかっていた問題を冬には10分もかからずに解けるようになっていたのは、心底驚いた。
毎日継続することで、こんなにも成果が見えるのは、確実に自信につながっていたし、算数が楽しいという気持ちへ変化していったようだ。
塾に行かずに家庭学習で中学受験を目指していた我が家。
最初は娘一人が、問題を解き、親が勉強を見るという形。
小学校の算数は普通に出来ていたものの、中学受験算数は全くの別物だった。
算数でつまずく子も多いと聞く。
実際、うちも算数が足を引っ張っていたのだ。
苦手意識から、嫌いな教科ほどなかなかエンジンがかからなかった。
そんな中、夫と同じ問題を解いて点数を競争するようになった。
数学が得意な夫には、なかなか勝てずに悔しい思いをしていた娘は、
私を加えることを思いついたようだ。
私は算数が苦手なので、家事があるから朝は忙しいと最初は拒んでいた。
塾と違って家庭学習では競争する相手がいない。
競争相手に勝つという気持ちも受験には必要なのでは、と考えた夫も家族みんなで問題をやろうと言い出した。
私が入ったことで、娘は「ママにだけは負けたくない」と火が付き、
エンジンが掛かりだしたと思う。
同点になったのは数回で、私を抜かしていく感覚はきっと爽快だったに違いない。
毎朝ドヤ顔で登校していった。
問題を解くスピードも圧巻で、私も素直にすごいと絶賛した。
何日も続けると私が娘に勝てることはほぼ無くなり、夫のことも程なくして抜かしていった。
同じ満点だとしても、はるかに問題を解くスピードが早かった。
中学受験は、長い期間勉強して受験日は数日、そして小6の一度だけ。
小学生の幼い子が、何年も掛けて勉強していく根気は計り知れない。
途中で受験を諦めた子もいた。
エンジンをゆっくりゆっくり温めていき、トラブルが無いようにチェックし受験日当日に照準を合わせて思い切りエンジンを掛けて走り抜くのだ。
言葉でいうのは簡単だが、それがなかなか難しい。
わずか12才の子どもには、「今」は分かっても「その先」の未来を予測するのは困難だ。
小学生の小さいエンジンが壊れないように、親は自分の熱くなるエンジンを抑えて、サポートし続ける。
それが中学受験には必要不可欠なのだと思う。
これから受験の皆様、応援しています。
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