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イギリスで学んだ新しい家族のあり方と、"Chosen Family"という考え方

ブライトンに来て最も感動したことの一つは、"Chosen Family"の考え方がしっかりと浸透していることです。日本のように、血統にこだわった保守的な核家族信仰が強くない。とはいえ伝統的なイギリスの価値観は極めて保守的で、家族を大切にすることが良しとされるので、ブライトンが少し特殊であるかもしれませんが。

家族というのは元来自分で選ぶことができません。家族を始めるにあたってはパートナーを選ぶことができますが、子供は親を選ぶことができない。私はたまたま運良く尊敬できる両親と妹に恵まれ、今後も大切にしていくけれど、結局それはただの運であって、他人に対して家族は未来永劫ともにいなければならないだとか、一生大切にしなければなどとは言いたくない。なぜなら親や兄弟との関係に苦労している友人を見てきているし、そういう人の前で「家族を大切に」という言葉を発することほど残酷で無知なことはないと思っているから。

さて、ここブライトンはゲイやレズビアンのコミュニティが浸透している都市であることは以前も伝えましたが、今日は私の知り合いの家族の話をしたいと思います。彼女はレズビアン同士で結婚し、子供をもうけたいと思い知り合いの男性に精子提供を頼むことも考えたけれど、生物学的な父がアノニマスでないことはゆくゆく問題にもなるだろうということで、精子バンクを利用することに。そうしてめでたく子供を授かり、パートナーと二人で大切に大切に育て上げます。しかし残念ながら何年か前にそのパートナーとはお別れし、新しいパートナーと出会い今に至ります。今、息子である青年は20歳。名門大学で数学を学んでいます。彼は大学の寮に住む前までは、知人の家と元パートナーの家を行き来しながら(ベースは知人の家)暮らしていたそうです。その息子さんが以前に食卓で「僕には四人のマムがいるんだ笑」と言っていたのですが、つまり私の知人である産みの親、そして元パートナー、そして元パートナーの現パートナー、そして知人の現パートナー、合計4名の母親がいるということなのです。

二人の食事に招かれたときに、知人の友人であるゲイのカップルも食卓に参加していて、彼らはその息子さんのことを本当の息子のように誇りに思い接していました。それを見て、「コミュニティで子供を育てる」が実現されているなと感じました。教育を母親だけの責任にせず、要は子育てが自然に分配されている。その息子さんは、優しい性格で差別的な意識がみじんも感じられないパーフェクトな大人へ成長していました。もちろん彼も親を選べたわけではないし、きっと悩んだこともあったでしょう。知人は「私はいつも、絶対に息子が自分のバックグラウンドを恥じることのないよう、初対面の人にはあえて堂々と状況を説明してきたの。こそこそ隠すと彼が、『恥ずかしいことなんだ』と思ってしまうじゃない」と言います。こういった家族のあり方は、ブライトンではまったく珍しくないのです。

またこんな話もあります。イギリス人の友人がオーストラリアの牧場でインターンをしていた時の話。その牧場は夫婦が営んでいたんですが、まず夫が妻と子供を授かります。しかしその後二人は別れ、夫がそこで別の女性と結婚し、子供を授かります。しかし最終的に今度はその元妻と妻が恋に落ち、今は二人がパートナーシップを結んでいるそうです。そしてゆるやかな家族として暮らしています。

子供にはヘテロセクシュアルの両親がいなければならない、と常識的に信仰されている定説が、ここブライトンに来てことごとく、いい形で否定されている例に出合ってきました。シェアハウスも当たり前で、ストレスも多いけれど、それは「Chosen Family」という言葉を体現しているように感じます。つまり家族だから血が繋がっていなければならない、みたいな信仰はないんです。プログレッシブな考え方の人は、「僕はこんなひどい未来に子供を産み落としたくない。もし欲しくなったら、すでに親がいなくて困っている子供たちが山ほどいるわけだから、アダプションすると思う」と言っていたりします。それに諸手を挙げて賛成するわけではありません。

もちろん、上記で例に挙げた家族にも、私の知り得ない問題はたくさんあると思いますし、その子供が必ず幸せという保証はありません。きっと彼ら彼女らにも「普通じゃない」バックグラウンドゆえの苦労はあったでしょう。でも、そんな「普通じゃない」を受け入れる土壌を育むことが未来のためにとても大切だと私は実感しています。「普通」を押し付け合う社会では誰も幸せにならないし、日本のようにセーフティネットを小さな核家族だけに押し付けるべきではないのです。多様な家族のあり方を社会が保証し、そこには国が担保するセーフティネットがあるべきだと思います。しかしそのためには税金を上げねばなりませんが……。

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