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改憲とは〜緊急事態条項の論点整理

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改憲に関するイメージは大きく二分されている。
一つは戦争が再びできる国になるから改憲してはならないと言うもの。
もう一つは今の軍隊のない国から一人前の国にすると言うもの。

戦後行われてきた憲法論争はここに集約されると言っても過言ではないだろう。
しかし、これはどちらも極めて感情的で稚拙な議論でしかなかった。

それを述べるだけでも論点はいくつかある。
整理すると、このようになるだろう。

憲法があるから戦争が起きない論

まず、戦後ずっと所謂左翼が唱えてきた論であり、現在の反コロ界隈でも改憲阻止を唱える者の実質的に支えとなっていると考えられる論がこれである。
しかしこれにはいくつかの間違いがある。
その1つ目は、戦争は自分がしないと決めても相手が侵略してくるケースを無視している、と言うものだ。
直近の話題で言うならウクライナに憲法9条があればロシアの侵略を防げたか、と言う議論だ。
これは詳述するまでもなく事実が示してくれているからこれ以上は特に言う必要はないだろう。
しかしそうは言っても戦後日本は戦争を直接することはなかった。
換言すれば、近隣の北朝鮮、中国、ロシアからの侵略を防げたのだが、これは何故かと言えば、
彼等が「日本は憲法9条を持っているから攻撃できない」と思っているが故ではなく、
日米安全保障条約(以下安保条約)により米軍が各地に駐留し、いざと言う時には彼等が核の報復を含め反撃する」と考えているから(これは安保条約に明記されている)に他ならない。
日本国民以外殆どの国ではそのような実際的なシミュレーション可能なリスクを回避すべく考えているのだ。
改めて、憲法が戦争を抑止しているのではなく、米軍が、安保条約が他国からの侵略を、即ち戦争を抑止している。これが現実であると言うことは押さえられたかと思う。

自衛隊違憲論に対抗すべく自衛隊を憲法に明記すべき論

一方、近年安倍晋三が唱えだした論がこれだ(自衛隊と言う文言を憲法に加えればいいじゃない、と言う所謂加憲論)。
しかしこれにも大きな問題がある。
まず、「自衛隊違憲論」そのものの実情から見てみよう。
これは簡単な国語の問題である。中学生くらいの知能があれば解ける問題である。

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

憲法9条

これを読んで以下の問に答えよ。
問「日本国は軍隊を持ってよいか、憲法の記載に基づき答えよ」

答えは勿論、「自衛隊は陸海空及びその他の戦力である為、持ってはいけない」
である。
しかし日本がそのような状況で困ると考えたのがアメリカであり、日本に軍事力を持つように要請してきた。都合のいい話でしかないが、戦力不保持を押し付けたアメリカは、直後に戦力を持つよう要請してきたのだ。
これはアメリカが極東での影響力を保持し、中露の東進を防ぐ為の戦略なのだ。
そうやって警察予備体等を経て自衛隊を持つに至った。当初から自民党はこれを「戦力ではない」と言う詭弁を用いて改憲を経ずに保持してきた為、野党であった社会党その他は違憲であると唱えてきた。
しかし近年、そのような平和主義が空想的であるとの理解が広まり、政党としては日本共産党ですら、「現実的に与党になれば速やかに自衛隊を解散せよとは言わない」と明言するほどである。
結局、自衛隊を違憲とする勢力と言うのは事実上存在しない。
そしてもっと問題なのは、
「自衛隊と書きました」と言っても「では自衛隊とはどんな組織なのか」が憲法に明記されないのだ。
実はこれこそが恐ろしいのだ。これは後ほど詳述する。

軍隊を持って一人前の国家にすべき論

ある意味本来の改憲論がこれだ。
世界には200程の大小様々な国家が存在するが軍隊のない国はない(コスタリカには常備軍はないが、有事の際に招集する)。
勿論そこには自衛隊も含まれている。日本人は日本人に向けてのみ「自衛隊(self defense force)」と言うが、そもそも汎ゆる軍隊こそ「自ら(の国)を守る為の力」であるし、また世界は自衛隊を自衛隊ではなく、「force」と呼ぶ。

この議論は正しく、よく以前から保守派と称されるグループでは正論と持て囃されてきた。
しかし、その議論はずっとこの辺りで止まっていた。
その先がないのだ。
その先とは日米安保体制(地位協定)の見直しと、国内法(主に軍事裁判所)の整備だ。
これ等を簡単に述べると、前者はアメリカと日本の「軍事同盟(安保条約とは軍事同盟)」のあり方の見直しであり、後者は一般的な法体系に向けての整備である。
日米安保体制とは、日本に何かあればアメリカが対応すると言う所謂偏務条約だが、アメリカが常に日本の為に全力で対応する保証はない。この関係性を見直さないと、中露朝の侵略にまともに対応ができないと言う問題に直面する(繰り返すが9条でこれは防げない)。
この安保見直しとはそのような関係性の改善により東シナ海近辺の有事に備えようと言う話である。
蛇足ながら触れると、見直しとは直ちにアメリカと袂を分かつと言う話ではない。その任務、負担等の見直しを行い、正常化を図り、より機能的にしようと言う話である。

また、続いて軍事裁判所については、まず一般に馴染みがないとは思う。これは、軍人が一般人の国民と同じ法体系で裁かれるようになった場合に生じ得る不具合(殺傷や道交法その他の法律との関係性)を解消すべく、一般的に軍人として許されること、或いは逆に厳しく問われること(敵前逃亡や軍紀を乱す等)を整理し、軍隊の規律を守る為の法体系が軍法であり、それに基づいて法的判断を行うのが軍事裁判所なのだが、これ等を整備して初めてまともな、一人前の軍隊になるの言えるだろう。

少し長く難解にはなったが、改憲論そのものに関する簡単な整理を行えばこのようになるかと思う。

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