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冬の旅

2019年に亡くなったアニエスヴァルダの「冬の旅」を見た。

2018年だったかな?「顔たちところどころ」という映画を見て
映画に出演、撮影、監督、を手掛けた、小さな、カラフルで、かわいらしい
妖精みたいなおばあちゃん「アニエスヴァルダ」が大好きになった。

存在を知ってすぐに、彼女は天に召されてしまったけれど、そのおかげで…という言葉じゃ悪い気がするけど…追悼特集という形で代表的な作品が上映されたので何本か見ることができた。

1950年にはじまったフランスの新しい映画運動ヌーヴェルヴォーグ、
女性であり、写真家であったアニエスの目線で撮られた作品は、独特の世界観がある。

処女作の「ラ・ポワント・クールト」の一場面。
この陰陽、太陽と月、みたいな男女の顔がとても好き。映画だけど、そのシーンを切り抜いて焼き付けたみたいな、こういうところに「写真家」の目線を感じる。

ラ・ポワント・クールトより

いろいろ書きたくなってしまうのですが、「冬の旅」のこと。

18歳の女の子が死体で見つかった
彼女が死ぬまでの数週間の足取りをたどる


ということ以外、前知識もなく、アニエスの作品だから…というだけで映画を見た。

他の映画と比べると「たいした映画じゃないな~」と思いながら見ていたのが、不思議なことに、映画を見終わった後、実に、じわじわくる。

日本でのタイトルは「冬の旅」だけど
原題は『Sans Toit Ni Loi(屋根も法もない)』
住所不定無職、その日暮らしといった感じらしい

「冬の旅」も決して映画のイメージから離れてはいないけど
「屋根も法もない」のほうが、映画の内容そのまんまだと思う。でも、それでは日本人の心には響きにくいし、想像できないんだろうな…

主人公のモナは、寝袋とリュックを背負い、野宿をしながら徒歩とヒッチハイクで旅をする。とにかく愛想が悪い。
「大学を出て秘書をしてたけど、人に使われるのはまっぴら」と言うシーンがあったけど、男どもは口々に「顔は良いけど最悪だ」と言う。なかなか日本にはいない強情で自由奔放で怠け者な女性。


今から40年近く前、1985年の映画。ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞、世界的に高い評価を得た作品なのに、日本人ではまったく評価されなかったらしい。

当時の日本はちょうどバブルの時代だろうか…24時間働けますかの男性社会全盛期だろうし、その頃の日本の様子を思い浮かべたら、こんな汚い家出娘の死とその旅路がテーマの暗い映画から良いところ見出すなんてできなかっただろう。(調べてみたら、バックトゥーザフューチャーとかネバーエンディングストーリーとかターミネーターが流行ったようだ)

女性の生きづらさとか、自由とはなにか、を考えることができないと、この映画を見ても何も感じないだろう。
なんと言ってもフランスは、自由、平等、博愛の国だ。そのへんの考え方は進んでいる。

今になってようやく映画への評価が上がり上映されたようだ。

というわけで、暗いし、単調だし、すべての人たちにおすすめできるような映画じゃないけど

・女性がつくった作品
・元写真家ならではの視点
・自由とは何か
・女性の生きづらさ
・1985年の頃のフランス
・映画にはうつっていないけど1985年の頃の日本の様子との比較


そんなところに興味が持てる人なら、見た後「こころにとげ」がひっかっかたみたいな、なんだか、忘れられない気持ちになると思う。



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