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年度末のおとなの春休みの話  後編 江之浦測候所と昼ごはんのための冒険

心身ともに疲れ切った3月の年度末に、
有休をとって小田原市の江之浦測候所に行ったり海鮮丼食べたりする話のつづき。
完全に前編と後編の分量を間違えた。


↓前半はこちら

午前中 江之浦測候所へ

気合いを入れて江之浦測候所の午前中の回の見学を予約してしまった私は、有休にもかかわらず普段の平日よりちょっと早い時間に飛び起きて、普段とは逆方向の電車に乗り込み、JRに揺られて根府川駅を目指した。

根府川駅が近づくと車窓からも海が見えて来る。
天気予報のとおりこの日は薄曇りで、海の色もぼんやり眠たげなグレイッシュブルーという感じだった。晴れた日のきらきら青い海も好きだけど、こういう海も見ていて落ち着くから好きだな。

根府川駅(の向こうに海)


根府川駅を降りて予約の回のシャトルバスに乗り込み、道中の斜面地に満開の桜が点在する風景を見ていると、ものの10分ほどで到着した。

駐車場の端にある入り口から園路が延びる木立の中に入ると、もう既に異世界が始まっていた。
園路の脇にはおそらく杉本氏が集めた古美術のカエルや人の顔の石像などが転々と据えられていて、まるで千と千尋の冒頭みたいな、あやしげで神聖な世界にいざなわれているような…

入り口
高校の時の情報Cの先生に似ていた謎の石像
かえる

でも、スケールは比較にならないけど昔からおもしろ雑貨とかが好きな私としては、このちょっとおもしろ古美術品を集めたくなる気持ち、わかるよ!と勝手に共感してしまった。(謎の上から目線)

その木立を抜けると視界が開けて、その先に薄い水色の海が広がった。
今思うと、この視界の強弱というか対比みたいな体験をさせることをかなり意識して建物もランドスケープもつくられていたような気がする。

移築された室町時代の門を横目に中に入ると、中で50m走くらいならできそうな細長いギャラリーがあり、展示された写真を見ながら進んでいくとその先に海が見えたし、その建物と交差するように地中に埋まっている、鉄板で天井も壁も作られた細い通路の先も海だった。

通路の先

園路を進んでいくと、園路脇の緑の生い茂った常緑樹の間に横道への小さな入り口があって、その木陰による暗がりを抜けると一気に視界が開けた。
目の前には一面の菜の花と桜、その向こうに海という、春を煮詰めて凝縮したような、天国みたいな光景が広がっていた。

春の凝縮

なんかこの瞬間で、今年だけじゃなくて来年分の春も摂取してしまったんじゃないかな。



そして園内に敷かれた園路の石も、杉本氏の本(江之浦奇譚)にも書いてあったけど、ものすごくこだわって配置されたことがわかる、他ではなかなか見られないもので面白かった。


他にも、園内にはアート作品や屋外舞台、茶室に神社と盛りだくさんで、それらが起伏の激しい敷地の、今も収穫されている蜜柑畑や竹林などの中に、まるでそこに元々あったみたいにおさまっていて、杉本さんの審美眼や配置のセンスに感動しっぱなしだった。

私は前にスリランカに旅行に行った時に訪れた、スリランカの建築家、ジェフリー・バワが長い年月をかけて作り上げたルヌガンガという庭園が大好きで、それよりは規模が小さいけどなんだか近いものを感じた。
建築家や芸術家が長い年月をかけて自分の理想の庭園をつくるってロマンだよね。


園内の隅々まで鑑賞した後は入り口の方にある完全屋外のカフェで、園内の蜜柑畑でとれたつぶつぶで濃密な蜜柑ジュースを飲んで休憩した。

ちなみに江之浦測候所を訪れるなら、土の林道や起伏のある石畳などを歩くことになるので健脚とスニーカーは必須。
江之浦奇譚にはこの敷地全体の激しい地形のコンタ模型をつくってものの配置などを検討したと書いてあった気がするけど、模型つくった人、ほんとうに大変だっただろうな…

敷地内の蜜柑畑
竹林


たぬきさま うちに持って帰りたかった


昼ごはんのための冒険

さぁ帰りはどうするかというと、もちろん帰りも根府川駅行きのシャトルバスがある。
でも事前にGoogleマップで江之浦測候所から徒歩で15分くらいの海沿いに海鮮の美味しそうなお店があるのを見つけていた私は、まぁ15分くらいなら歩いてもいいかと思って安易にそこを目指すことにした。

その結果、あんなスリルを味わうことになってしまうとは思わなかった。

徒歩15分といっても、都内などで歩くのとは訳が違った。

海に向かってかなり急な斜面になっているので、ちょっとでも転んだらそのまま転がり落ちそうな蜜柑畑脇の下り坂をひたすら下り、本当にこんなところ入ってもいいのかと思う両脇草ぼーぼーの細道を進むと、線路と小さな踏切が現れる。きっとこの踏切を通る人は3日に5人も居ないだろうなという感じの、人の使っている気配が感じられないような雰囲気だった。

ここまで誰にもすれ違わず、そういえば根府川駅に猿注意の看板があったなと思い出した。

こんなところで1人で猿に襲われたらまじで洒落にならない。有休になにやってんだろ私。

そんな思いを抱えながら踏切を渡ると古いコンクリート階段が続き、そこを降りきるとやっと目の前に車がビュンビュン通る国道が現れた。
これで猿の心配はなくなったけど、私の方が初めて人間社会に降りてきた野生の猿みたいな気持ちになった。

まぁ人が使うように思えない階段から私が降りてきて、国道を走る車に乗っていた人たちの方がよっぽどびびっただろうけどね。

この辺りは完全に車で走ることを前提に道が作られていてぜんぜん歩行者フレンドリーじゃないので、容赦なく車が行き交う国道の、かろうじて人1人分通れる幅の歩道(というかほぼ路肩)をおそるおそる歩いてやっと目的のお店にたどり着いた時にはちょっと泣きそうだった。


そのお店は海に面した開放的なつくりで、座敷に上がって新鮮な刺身がてんこ盛りになった海鮮丼を心から堪能した。

てんこ盛り

その後はまた、上から流れてくる湧水と落ち葉でところどころぬかるんだ、崖下の国道沿いの歩道をさらに15分くらい歩いて駅に戻り、疲れを洗い流すために電車で湯河原まで行って日帰り温泉に入ってから家に帰った。

感覚としてはかなり疲れたけど、感動とちょっとしたスリルを味わえたし、春休みの1日としては私的には成功だった。

来年はどこで何をしようかな。


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