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日本の伝統と、すてきな着付師さん

次女の振袖撮影の日

その日は桜が満開のお花見日和でした。

次女の振袖撮影に合わせて、
長女も帰省し、
夫も休みを取り、
家族写真を一緒に撮影していただきました。

朝いちばんからの撮影で、
今日の主役、次女の支度をしていただいている間に
長女とわたしの着付けをしていただいたのが
同じ着付師さんでした。

年齢は、わたしと変わらないくらいの、
着付師さんの中ではお若い感じの方でした。
(だいたいおばあちゃんが多いです)

とてもサバサバとした印象で、
手早く準備をしてくださり、
先に長女が着付けをしていただき、
そのあとわたしが呼ばれました。

わたしが今日着せていただく着物は、
嫁入りの際に祖母が仕立ててくれたもの。

以前noteに書きましたが、
祖母は商売人の妻として祖父を支え、
昭和の女性を絵に描いたような人でした。

わたしの嫁入りが決まった際に
留袖、喪服と一緒に
色無地と訪問着を
仕立ててくれました。

嫁入り当時、わたしは23歳で、
着物には全く縁のない世界にいました。

わたしの地元では、成人式には振袖を着ない決まりになっています。
(田舎ゆえ、家庭の貧富の差が出ることを懸念した配慮だと思われます)
それでも祖母は振袖を仕立ててくれるつもりだったようですが、
着る機会もないし、
それなのに高価だし、
保管も大変だし!
って思ったわたしは
振袖をレンタルして写真だけ残し、
その代わりに
成人式に着るため、
GUCCIのスーツを買ってもらいました。
わたしには、その方が魅力的で、
着る機会も断然多いし、
その方が価値があると思いました。

GUCCIのスーツは大切に保管していて、
20年以上経った今でも少しも痛まずに、
当時のカッコ良さがそのままそこにあります。
わたしが体型維持にこだわるのは、
このスーツをまたいつでも着られるように、
との意味が込められています。

振袖を断ったわたしは、
そのままそんなことは忘れていましたが、
いざ嫁入りの際に、
たくさんの箱を持たされ、
とにかく驚きました。
祖母が仕立ててくれた着物たちでした。

わたしたちの新居は
大阪の小さな賃貸アパートで、
そんなに収納スペースもなく、
感謝の気持ちよりも先に、
戸惑いの方が大きかったのを覚えています。

狭い押し入れが、着物の箱で埋め尽くされました。

着る機会もないのに!
と、半分怒っていましたが、
なんとそれから1年経たないうちに、
夫のお兄さん(義兄)が結婚することになり、
わたしは23歳の若さで、
祖母が仕立ててくれた留袖を着て
結婚式に参列することになったのでした。

そして、
自分に子どもが生まれ、
お宮参りには訪問着を、
入学式や卒業式には色無地を、
せっかく仕立ててくれたのだから、と
なるべく着物を着るようにしました。

それをきっかけに、
着物に興味を持ち、
自分で着物を着たいと思うようになり、
当時お稽古に通っていた茶道の先生から着付けを習い、お稽古の時に着物を着て行くようになりました。
礼儀作法やお手前も、
着物を着て行うと、気持ちがピシッとなり、
所作も美しくなるので、
その雰囲気がわたしはだいすきでした。

フルタイムで仕事を始めてからは
自分の時間がとれなくなり、
茶道のお稽古には行けなくなってしまいましたが、
今こうしてまた着物を着る機会を得て、
着付師さんと向かい合っています。

「お嬢さんがね、好みの着物を着られてよかった〜って喜んでらっしゃいましたよ〜」

第一声は、こんな会話から始まりました。

長女には振袖を購入せず、
写真だけ残しましたので、
この度は急遽家族撮影を決めた流れで、
またレンタルをしたのですが、
長女が着るその着物を選んだのは、次女でした。

長女の好みを理解し、選んだものを
長女が気に入って着てくれたことに、
言いようのないしあわせを感じました。

そして、そんな長女の気持ちを喜んで下さる着付師さんに、急に親近感が湧きました。

着付けをしている間、
手際よく動く傍ら、
色々なお話をしてくださいました。

昨日ねー、素敵な姉妹の着付けに行ったのよー。
お姉さんが障害をお持ちでね、
背が伸びない病気もあるから、小さいの。
妹さんと一緒に着物着たいからね、
おばあちゃんの昔の着物がちょうどいいサイズでね、着せてあげたの。
帯が短かったからね、2本の帯を繋いで結んであげたの。わたしがその案を考えたのよ。
お姉さんはね、施設に通ってて、
そこで作ってる飾りを
妹さんのために作って、
それを妹さんに付けてあげたの。
ふたりともニコニコしてね、
桜の下で写真を撮ってあげたのよー。

そう言いながら、
姉妹が笑顔で睦まじく写った写真を見せてくださいました。

その写真は、
互いを想うしあわせな笑顔が、
桜の下で寄り添い、咲き誇っていて、
わたしは思わず涙ぐんでしまいました。

この方は、なんて素敵なお仕事をされているんだろう。
たくさんの笑顔を創り出す、
素晴らしいお仕事。
昔と今をつなぐ、伝統の伝道師。

今日のあなたたちを見ていたら、
みんなキレイでしあわせそうで、
わたしもまたしあわせな気持ちになったわー。
と。

何度も、何度も、
あー、キレイねー✨
と言ってくださいました。

あまりにも何度も褒めてくださるので、
わたしが謙遜すると、
「わたしね、着付けのお仕事代だけもらってるの。お世辞代は入ってないから。わたしが思うからそう言ってるだけ。思わなかったら言わないから。」
とダメ押しの言葉をくださいました。

わたしはその言葉をありがたく頂戴し、
今日のこのご縁に心から感謝しました。

そして、
亡き祖母を想いながら、
着物を着せていただき、
この着物の由来をお伝えしたとき、
「だからわたしも着物が好きなの。着物はただの着物じゃなくて、想いを引き継いでいるからねー。」

同じ気持ちを共有できて、
心からしあわせを感じました。

おばあちゃん、
おばあちゃんの気持ちをわかってくださる方に
着付けしてもらえたよ。
キレイだね、って何度も褒めてもらったよ。
素敵な着物を、たくさんありがとうね。
大切に、引き継いでいきます。
その想いとともに。

着付師さんは帰り際に、
「お写真撮らせてもらってもいい?」
と、声をかけてくださいました。
わたしと長女は、
最高の笑顔で写真に納まり、
その着付師さんは丁寧にお辞儀をして去っていきました。

日本の伝統。
それは相手を尊重し、敬意を払い、礼を尽くすこと。
後世を想い、伝統を継承する、
なんて素敵な連鎖。

わたしもその連鎖に関わっていきたい。
日本人に生まれて良かった。

満開の桜の下、
わたしたちは伝統を身にまとい、
笑顔の花をたくさん咲かせた。

春の風が
優しく頬を撫でてくれた。









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