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「音楽と芸術が人々の心を彩るものであってほしい」クラシック音楽×『ぞうのババ―ルと仲間たち』音楽劇開催までの物語 ピアニスト金子渚

2023年11月23日(木・祝)桜が丘区民センター別館桜丘ホールにて、童話『ぞうのババ―ルとなかまたち」の音楽劇が開催されます。


国内外で活躍するアーティスト四名による、音楽と言葉とダンスの魔法。ババールと彼の友達たちの冒険、友情、そして成長の物語を通じて笑顔と感動を届けます。

数々のコンクールで入賞しているピアニスト金子渚(かねこなぎさ)さんがクラシック音楽を極める中でたどり着いた『届けたい音楽』とは。

幼少期から打ち込んできたピアノ人生から見える、『ぞうのババ―ルとなかまたち』開催への想いを聞きました。


一日14時間ピアノに向かう日々

桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻を卒業後、これまで国内の様々な音楽コンクールで入賞を果たしてきた渚さん。読売日本交響楽団のメンバーとの共演や、フランス最大級のクラシック音楽の祭典である「ラ・フォル・ジュルネ」への出演、イタリア国立タルティーニ音楽院にて、オペラ伴奏シルヴァーノ・ザペオ氏に師事するなどの経験をもちます。

音楽と共に人生を歩んできた渚さんが、ピアノを始めたきっかけは幼稚園のころにあると語ります。

「幼い頃から音楽が好きで、幼稚園の先生が弾くのを耳コピして家で真似して弾いたりしていました。私が習いたいと言ってきかないので、幼稚園年長さんの終わりごろから近所音楽教室に通わせてもらえることになり、私のピアノ人生がスタートしました。通うことになった河合音楽教室は一階が焼き鳥さんで、香ばしい匂いに包まれながら楽しくレッスンを受けていた思い出があります。」

ピアノを習い始めてから、漠然と『ピアニストになりたい』という気持ちがあったという彼女。高校で進路を決める時期に差し掛かった時、音楽大学への進学を決意したと言います。

「よりピアノを深めたいという気持ちから、音楽大学の名門である桐朋学園大学に入りたいと思っていました。でも、当時の担任の先生から『今のあなたのレベルじゃ、桐朋学園大学に入るのは絶対に無理。その下の音楽学校に受かることもできないだろう。』と言われてしまって。

その言葉で一気に心に火が付きました。無理だと言われたことが悔しくて。ひたすら、めちゃくちゃ練習しました。桐朋学園大学に入る夢を叶えたいというよりも、目標を達成できない自分が凄く嫌で……。」

自分に負けたくないという気持ちから、毎日必死に練習に打ち込むようになった渚さん。
朝起きてから寝るまで、ご飯とトイレ以外のすべての時間をピアノの練習にあて、自分を磨いたそうです。

しかし、受験1週間前、彼女に悲劇が襲います。

「起きてから寝るまで、一日14時間くらい毎日練習しました。でも、そのせいでひどい腱鞘炎になってしまって……。受験の1週間前に、全く弾けなくなってしまったんです。本当に、人生終わったと思いました。でも、もうなるようにしかならないな、と。その1週間があったことで、今まではりつめていたものから解放された感じがありました。」

その後、努力が功を奏し、桐朋学園大学に合格。

「合格の文字を見た時は、思っていたよりも驚きとか感極まった感じはなかったです。必死に目の前のことに打ち込んでいたら、気づいたら超えていたという感覚でした。」


音楽家としての理想と現実。大切なのは、「どれだけ心をこめたか。」

「高校3年間精神的に不安定なところがあった私にとって、24時間すべてを音楽に費やせる大学は幸せな環境でした。始発に乗って大学に来て、5時から朝練して、夜は22時まで。それが当たり前の環境ですごく楽しかった。大学にいる間は、ライバルもいて、定期的に試験やコンクールがあって……と、毎回何か目標が設けられていました。

でも、大学を卒業したからって何か資格が取れるわけでもないし、オーケストラに入れるわけでもないんですよ、ピアノ科って。

急に社会の中に放り出されて、「さあ、どうやって生きていく?」を考えるんです。

卒業してからはとりあえず生きていかなきゃと思って、はじめは音楽と関係ないアルバイトを朝から夕方まで週7でやったりしていました。その合間に合唱の伴奏のお仕事など、音楽に関わる機会を作って。少しずつ少しずつ経験を積んで、音楽に関わることの比重がふえていきました。」

「現場に出るようになり、ありがたいことにたくさんの演奏の機会がいただけるようになりました。上手く弾くことができないせいで、罵声を浴びせられたり、ゴミを投げられたりした時もあった時を思うと、お仕事が出来ることは本当に幸せな事だと思っています。

でも、それをやっている自分に違和感を覚えはじめました。私の演奏は、ある一部の層の人にしか届いていない気がしたんです。その多くは、”シニア”で”富裕層”の方たち。届ける内容は「清教徒革命」や「宗教戦争」など。『クラシック音楽は格式の高いもの』という位置づけにあることが、どうにも腑に落ちなくて。
今は世の中にたくさんの面白いエンタメがあるのに、私がやっていることは今の時代ととてもかけ離れたものを提供しているんじゃないかって……。」

自分の届けたい音楽について悩んでいた時、マザーテレサのある言葉を思い出したと言います。

「”どれだけ沢山の事をしたかよりも、どれだけ心をこめたか。

この言葉を思い出し、『常日頃自分はどれだけ心をこめて音楽と向き合っているかしら』と思いました。本当は音楽って、もっと暮らしの中にあって、その人の心を豊かにするもので。でも、私は今その豊かさをほんの一部の方にしか届けられていない。目の前にいる人に届いていない感じがしていたんです。

私にできることってなんだろうとか、自分の存在意義とか働く意義を考えた時、きらびやかな世界で弾いている時よりも、何でもない日常の中でたった今この瞬間のリアルの感情や演奏を届けられたときのほうが喜びを感じる事に気づきました。
私みたいな音楽家が、別に自分一人が音楽を辞めたって誰も迷惑しないし、変わりはいくらでもいる……なんて考えてしまうのだけれど、そうではなくて。

”私だからできること”をしたい。

自分だからこそ手が届く場所があるのかもしれないな、と。」

「目の前にいる人に音楽を届けたい」”ぞうのババ―ルとなかまたち”開催への想い

「働く若い世代や子育て中の方たちから、『音楽をもっと聞いてみたいけど、行きづらい』『子どもに聞かせたいけど、なかなかそういう機会がない』という声をたくさん聞きました。そこに、需要と供給のバランスの悪さというか、自分がやっていることと届けたい音楽とにミスマッチがある気がしたんです。

そこで、子ども向けの音楽劇をやろうと思い立ちました。
ピアノと朗読だけでなく、マイムやダンスで表現したら子どもたちの想像力がより養われるんじゃないかと思い、その空間を一緒につくってくれるアーティストを募りました。」


「『ゾウのババ―ル』の見どころは、なんといってもまず『音楽』が素晴らしいところです。プーランクというフランスの作曲家がつくった作品で、色彩豊かな音色が物語を彩ってくれています。そして、『ダンス』。「人間の身体二つだけで、こんなにもいろんなことを表現できるんだ」「想像するって楽しい!」ということをぜひ肌で感じていただけたらと思います。

今回は130人入るホールで二公演を予定しています。グランドピアノの生の演奏が聞こえて、ダンサーの飛び散る汗が見えるくらいの距離で、ぜひそのエネルギーを体感してもらいたいです。

公演後は、一緒にリトミックのような音楽体験コーナーを実施する予定です。
言葉の力、音楽の力、ダンスの力で0歳の赤ちゃんからおばあちゃんおじいちゃんまで広い世代に楽しんでいただける作品になっています。」

「今までに開催した四公演がすごく好評で、来場してくださった保護者の方からも『ぜひ次も』と言っていただいたのですが……。継続という観点でみると、正直、経営面で苦しい部分があります。素晴らしい才能をもったメンバー達と良い時間をつくることが出来たけれど、これを継続していくにはどうしたらいいのかなと悩んでいるところです。

 自分達がアーティスト、演者として作品をつくりながら、お金やイベントの計画なども並行するのはなかなか体力的にも精神的にも厳しいところがあって。 経営面から支えてくれる協力者やスポンサー、イベンターのような人にチームに入っていただけたらなと思っています。 私たちは、音楽が多くの人々の生活に豊かさをもたらす力を信じています。実際に作品を見ていただき、同じ気持ちで動いてくれる仲間と出会えたら嬉しいです。

「やっぱり私は、音楽や芸術が一部の人にとっての娯楽ではなく、より暮らしや日常にある世界をつくりたい。
今回の音楽劇が、多くの人々に音楽の魅力を届け、音楽が日常を彩る素敵なきっかけとなれることを願っています。」

《応援コメント》

江口ますみさん
「ぞうのババール」今年も公演!昨年、拝見させて頂いて、本当に、びっくり!したんです。

この公演、大きな舞台装置も、ゾウのコスチュームも無い、音楽とただ4人の人が、全身で作り上げる舞台に、子供達は目を輝かせて入り込んできます。

与えられた情報ではなく、自分の五感をフルに使って、想像力を使って、感じ取る事
が、少なくなってしまった昨今ですが、この舞台では、そんな感性を大いに刺激させられるのです。

この度は、そんな親子さん達にも勿論観て頂きたいですが、是非、幼児教育や音楽教育関係、その他興味を持たれた方々にも観て頂きたいと思って、

私は公演には何の関わりも無いのですが、
ただの私的応援団として、皆さまにお知らせさせていただきます。
よらしければ是非、シェアお願いします。」

編集後記
渚さんのピアノを聞いたとき、その技術と音色に驚きました。奏でられるメロディからは、その曲がつくられた当時の景色が見えます。渚さんの心が私の中に優しく入ってくるような。音楽人生の中で感じた「違和感」を、そのままにせず、”自分が本当にしたいこと”を体現しているお姿、本当にかっこいいです。クラシック音楽を突き詰めた渚さんだからこそ奏でられる「日常を彩る音楽」が、たくさんの人の心を癒す未来を心より願っております。
渚さん、素敵なインタビューをありがとうございました。
(インタビュー・編集 By Umi)

音楽劇『ぞうのババ―ルとなかまたち」
2023年11月23日(木・祝)桜が丘区民センター別館桜丘ホール


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