Tシャツとデニム

ずっと夏が苦手だった。熱気が身体から離れてくれないあの煩わしさが。衣類を全て投げても、消えないあのうるささが。


夏を好きになりたての私は、夏の歌のプレイリストを毎日聞いてるし、「夏だからね」という言葉を全て手に入れられる魔法の言葉のように使う。実際、夏ならなんでも手に入ると思っている。
もう失ってしまったと思っていた全能感をまた取り戻せた気がしてとてもうれしい。



心に余裕が出てくると、恋愛したいと思うようになる。欲求は段階的にあらわれる。なのに、人を好きになることを面倒に感じてしまっていて、辟易した。インスタでDMのやり取りをしている男の子も、マッチングアプリでメッセージをしている男の子も、会う予定を先延ばしにしている。理由は、関係を1から始める気力がないこと。でも、テストが終わり夏休みも終わりに近づいた頃、わたしは彼らと会う予定を立てるだろう。そして、なんとなく関係を続けたり続けなかったりして夏を終える。


私は夏が大好きになったのではなくて、夏の思い出が好きなのだと気づいた。夏の思い出は、大嫌いな熱気も汗も、美しいものに変える。そしてこの夏の思い出は、私の記憶からなくなっても「私が好きな夏」として残る。