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おんぶをしてみたかった人生から学ぶ、運命への対処法

 スーパーでレジ待ちをしていた時のこと。前に小学生と幼稚園児くらいの2人を連れたお母さんがいた。なんだかとても楽しそうで、母子3人でキャッキャしていた。
 買い物が終わり、ベビーカーに荷物を積んで、お店を出ようという頃。

「ママ、おんぶしてー!」

 小柄なお母さんだったが、いともたやすく1人をおんぶした。もう1人の子は歩き、お母さんは片手でベビーカーを押して前に進んで行った。

 どこにでもある、何も珍しくない光景。ところが、私はおんぶがとても羨ましかった。


 私は脊柱側彎症という背骨が曲がる病気で、高校一年生のときに大きな手術をした。

 背中には鉄筋とボルトがいっぱい入ってる、サイボーグ。入院は1ヶ月、手術は10時間かかった。術後は自分で動けなくなり、少し体位を変えたいだけでもナースコールを押さないといけない。燃えるように熱く、亀の甲羅のように重い背中。

 退院後も高校までかばんを持って歩いて行けないから、おじいちゃんがかばん持ちをしてくれた。自転車には乗れなくなり、体育は一切禁止。

 今は、ふつうの人とほぼ変わらず生活している。背中に圧力がかかることはできないが、リュックを背負えない、くらいしかできないことはない。別にリュック以外のかばんで事足りるので何も困ることはない。不満なく暮らしている。

 子どもをおんぶできない。
 これは産後に加わった、新たな「できないこと」だった。スーパーで前にいたお母さんを羨ましいなと思った。
 私自身、小さい時にたくさんおんぶしてもらった記憶がある。背中とお腹がくっつくぬくもりを、私もエン様(子どものあだ名)も感じることができない。実は一度チャレンジしてみたことがあるが、背中が痛くて無理だった。


 病気がわかった人は健康な人が羨ましくて、学生時代は頭良い人が羨ましくて、未婚のときは結婚してる人が羨ましくて、妊活前は子どもいる人が羨ましくて、不妊治療中は自然妊娠の人が羨ましくて、出産時は無痛分娩を選択できた人が羨ましくて、育児が始まると完母の人が羨ましくて、今はおんぶできる人が羨ましい。
 うらやましいうらやましいうらやましいの連続。


 なので、私はある時から「うらやましい」と思った時の対処法を身につけた。

 運命は様々な形で私たちの前に立ちはだかる。病気、天災、事故、大切な人を失う経験……。
 どれもが、必ず意味のあることだと信じること。悲しいことが起きた時は、受け入れられなくてもいい。どん底の気分に浸ってもいい。何ヶ月も何年も沈んでいていい。しんどいことはとりあえず横に置いておいて、いつか何かの意味を感じるかもしれないな、と頭の片隅で思っておく。

 こんな考え方をするようになったのは、病気のおかげだ。
 病気のせいで中高時代は心理的にかなりしんどかったし、生まれたままの身体では生きられなくなったし、手術はきつかったし、当時は悪い方にしか考えられなかった。
 でも、病気をしたから、ヒトの身体ができてくるプロセスに興味を持ち、大学院まで学び、就職後もいつかどこかで人を1mmくらい救うであろう仕事をしている。
 病気をしたから、病気の人の気持ちがわかる。
 病気をしたから、健康のありがたみがわかる。

 他のことにも同じことが言える。
 自然妊娠ができなかったから、不妊治療の難しさを体感できた。
 無痛分娩をできなくなった経緯から、病院のリスクアセスメントの体制や患者心理を学ぶことができた。
 早々に母乳を上げられなくなってしまったから、完母の人を尊敬している。
 

 うらやましいという気持ちが消えたわけではない。でも、それだけじゃない。
 これからエン様に「なんでママはおんぶしてくれないの?」と言われる日が来るかもしれない。直接言われなくても、私の病気について伝えるタイミングは来る(特発性脊柱側彎症は遺伝の要素があるので、エン様も発症する可能性がある)。それは間違いなくエン様にとって学びの機会になるだろう。

 私の体験なんて、あなたの絶望からしたら全然比べ物にならないくらい軽いものかもしれない。でもいつかその体験に意味を見出せる日が来るかもしれない。


 どう考えても、つらい体験に意味なんか見出せないかもしれない。その時は逃げていい。学校や仕事を無断欠勤してもいいし、引きこもってもいいし、ドロンしてもいい。どうか自ら命を終わらせる道だけは選ばないでほしい。それだけは、生物種のヒトとして間違っている。



 最近、病気とか障害とか死について考えるケースが相次いでいて、図らずも重い話になってしまった。
 伝えたかったのは、おんぶできることは当たり前じゃない、五体満足で生まれてくるのは当たり前じゃない、ということです。そう思うことができたら、日々の些細な不満とかグチとか、ほとんどなくなると思いますよ。

 運命を自分にとって意味あるものに変えられるのは自分だけ。



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≪終わり≫

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