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夜猫図書館

FMラジオ番組「ON THE PLANET」のコーナー「夜猫図書館」の内容をまとめています(2019年3月終了)
短いあいだでしたがいろいろな本を紹介できて楽しかったです。
機会があればまたやってみたい番組です。



▼03月27日 『虚数の情緒―中学生からの全方位独学法』吉田武(東海大学出版会)




【書評】
この本は数学書なんですよ。数学書っていうと読みたくなくなるかもしれませんが、実物をぜひ見てほしい!もっと読みたくなくなります(笑)
なぜなら1000ページくらいあって、4000円以上します。(辞書より分厚い!)

作者の吉田武さんは数学の教育時間から減ってしまっていることに対して、
危機感からこの本を書いてるんです。

僕がこの本と出会ったのは20代のときなんですが読むまで人間じゃなかった気がしますね(笑)
「今まで読んだ中でおすすめの本は何ですか?」って聞かれたときに
必ずこの本を挙げてます。

数学を何も知らない人に教えるときに何から教えるか・・・この本はまず、宇宙から教えるんですよ。
そこからビッグバンの話やピタゴラス、音楽、本居宣長の話などが出てきます。数学をやっているのにあらゆるジャンルに精通している本なんですよ。

吉田さんは本に、『世の中に正解はある』と書いています。この断言もすごい。
ぼくはミステリーが好きなんですけど、いいミステリーを読んでいるときロジカルハイの感じがこの本には3ページに1回あるんですよ。

▼03月20日  『うつくしい繭』櫻木みわ(講談社)


▼くわしい作品情報はこちらから♪
http://kodansha-novels.jp/1812/sakurakimiwa/

【海猫沢めろん 書評】
・講談社からSFのハードカバーが出るのは珍しい
・カテゴライズが難しい作品
・何も知らない人が読んだら幻想文学としてみるかも?

・読んだ率直な感想としては、デビュー作としては文章がきれい
  →よくあるデビュー作は文章がバラバラな傾向がある
・あまり読んだことないタイプで海外文学のような気がして新鮮だった

櫻木みわさんにはゲストとしてご出演していただきました!
【ダイアローグスペース】もあわせてご覧くださいね♪



▼03月06日 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』三宅陽一郎(ビー・エヌ・エヌ新社)

【書評】
人工知能本としては異色です。人工知能本って大まかに分けて3つあるんですが・・・
・実用、プログラミング入門
・解説、コンビニに置いてあるような本
・哲学につながる本
のうちの、哲学本の部類になります。

時間や意識って哲学においては広がりがあって面白いジャンルだと思っています。ゲンロンから出ている『新記号論』と一緒に読んでいて面白かったです。

ぼくら音楽聴くじゃないですか?
メロディは「ド・レ・ミ」っていう一音がつながっているんですが、
断片がかたまりとして記憶されているんですよ。これは時間が関係しているとフッサールは考えていたんです。
この本でも“有時”っていって道元が時間全部を存在としてとらえていてハイデガーの「存在と時間」の哲学に通底するものを感じます。

哲学に慣れていない人は読みづらいかもしれませんが、ぜひチャレンジしてほしいです。
人間の意識とか仏教のことに興味がある人にもおすすめです。

※著者の三宅陽一郎さんは【ダイアローグスペース】にもご出演しています!
ぜひチェックしてくださいね♪

▼三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)
https://book-smart.jp/19246/


▼02月27日 『自殺会議』末井昭(朝日出版社)



▼02月20日 『SPEED スピード』石丸元章(文春文庫)


【海猫沢めろん】
「夜猫図書館」で石丸さんの『SPEED スピード』(文春文庫)を紹介したのですが・・・
改めて読むとすごいですよね。自分で書かれた作品って読まれますか?

【石丸元章さん】
これって青春時代の話じゃない?
つまり20年前の自分が書いたものは読み返さないし、
自分が書いたんだけどそのころの自分はもう半分以上存在しないわけ。

今読み返したらどうなるんだろうな~。
覚えている部分もあると思うけど、どこか他人のような気がするんじゃないのかな。

【海猫沢めろん】
う~ん。

【石丸元章さん】
びっくりしたのがね、Amazonって中古も売ってるじゃない?
で、値段が1円で売られているのを見ると
“自分の青春時代が1円で売られている気持ち”・・・みなさん分かります?(笑)

【海猫沢めろん】
ハンター・トンプソンに影響を受けられたって聞いたんですけど、
文体とかはそうなんですか?

【石丸元章さん】
文体っていってもね~。英語だから。
トンプソンって実は文章はオーソドックスなんですよ。
で、自分は・・・根が前衛だから(笑)
ドラッグをやっているときの頭の中が散らかっている感じ、
これをどういう風に書くか、前衛的に表現しようと思っていた。

【海猫沢めろん】
体験ルポって体験自体は面白いんですけど、文体自体があるものって少ないんですよね。
そんな中で石丸さんの『SPEED』は文体があって、
非常に文学的なものだと思っていて、かなり影響が受けたところはありますよ(笑)

【石丸元章さん】
ありがと~う(笑)

【海猫沢めろん】
石丸さんって人面犬をつくった人なんですよね?
あれって本当なんですか?!

【石丸元章さん】
当時ってインターネットがなかったから、口コミで広がっていったわけ。
「口コミの正体は何なんだ?どうしてそんなものがうまれて広がっていったのか?」
というのが大きな社会の謎だったの。

そこで、都市伝説の正体を突き止めるには自分が都市伝説を流せばいいじゃないかと、
というような実験をやっていたわけ、雑誌とかラジオを使って。
そんな中で人面犬を膨らませていったというのはあるのよ。

【海猫沢めろん】
そんななかで・・・好きな街とかあります?

【石丸元章さん】
私が今暮らしている街は、暮らしたくて暮らしているわけじゃないの。
人生の要所をドラッグでしくじっているのよ。

25年前にしくじって、今まで住んでいた街に住めなくなって、今のところに住んでいるの。
嫌いではないんだけど、
「そういえばこの街に暮らしたくて住んでいるんじゃないんだよな」
っていう気持ちが常にあって、どうしても大好きにはなれないんだよね。
そういう街も悪くないかなって最近思っているんだ。

【海猫沢めろん】
昨年脳卒中で倒れてから奇跡の生還をなさったということですが・・・
脳卒中どうでしたか?(笑)

【石丸元章さん】
脳の血管が切れるのって痛くないんですよ。
だけど、「あれっ?腕がしびれてる!」って思っているうちにみるみるしびれてきて。
でも、「半身がしびれてきたら片足で立てばいいじゃん。」って思うでしょ?
バランスが取れなくなって、バタン!って倒れちゃうの。

【海猫沢めろん】
後遺症はどうですか?

【石丸元章さん】
いま話していて分からないと思うんですが・・・
右半身が動くけどしびれているんですよ。
それがね、ドラッグみたいなんです。

▼石丸元章『SPEED スピード』(文春文庫)






▼02月13日 『メロディ・リリック・アイドル・マジック』石川博品(ダッシュエックス文庫)

▼音声はコチラから!


今回紹介するのは、石川博品『メロディ・リリック・アイドル・マジック』(ダッシュエックス文庫)

【書評】
主人公が吉貞摩真という少年なんですね。
たぶん中野区が舞台なのですが、ここはインディーズのアイドルがたくさんいて、
主人公は商業的アンチです。
石川さんはライトノベルのなかでもとがったものを書く人で、
明らかに2000年代のグランジブームやブリットポップのマンチェスターやアメリカを
下地にしているんですよね。
『アイドルじゃないだろ!』って思うようなネタがいっぱい出てくるのが好きです(笑)

出版社のダッシュエックス文庫はかなりとがった作品を出すレーベルでもあるので、
ぜひ読んでみてください!

ほかにもアイドル小説で紹介しようと思って・・・
最近話題になっているのが、乃木坂46の高山一実さんが書いた『トラペジウム』。
現役アイドルが書くアイドル小説ということで、話題になっています。

そしてSF界で話題になっているのが
草野原々さんの『最初にして最後のアイドル』です。
これは最初ラブライブの2次創作だったのですが、
リライトして数々の賞を取ったという作品です。
アイドル小説なのですが、自ら
“実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF”と謳っています。

▼石川博品『メロディ・リリック・アイドル・マジック』(ダッシュエックス文庫)



▼高山一実『トラペジウム』(KADOKAWA)



▼草野原々『最初にして最後のアイドル』(早川書房)



▼02月06日 『ナイフ投げ師』スティーヴン・ミルハウザー(白水社)

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【書評】
この本は12本収められている短編集で、1本目が表題の『ナイフ投げ師』です。
現代の雰囲気ではないですね、100年とか昔の感じです。
謎めいたナイフ投げ師ですが、すごい技を持っています。
それをみんな見ているのですが、
だんだんエスカレートしていって的になるのが人間になっていって・・・どうなるのか。
というものです。

ミルハウザーは好きな作家で、最初に読んだのが10年前くらいですね。
デビュー作は長編ですが、主に短編を書かれていて構造が似ているんですよね。
日本にはあまりいないタイプの作家です。
存命の作家ですが、昔のゴシック小説みたいな趣きがあります。
アンティーク調のものが趣味の人におすすめです。

この人の作品で映画化されたものもありますよ。
エドワード・ノートン主演の『幻影師アイゼンハイム』です。
原作の雰囲気が映画にも出されていて、映画から入っていっても良いと思います。

デビュー作も面白いですよ。
『エドウィン・マルハウス―あるアメリカ作家の生と死』という作品で、
“子どもが子どもの伝記を書く”という内容です。
ただ、これ長編なんですよね。
ミルハウザーの長編は挫折する人が多いです(笑)
とても密度が濃い文章で、セリフを改行しないで進んでいくんですよね。

ぜひ短編から入ってみてくださいね。

▼スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』

▼01月30日 『ゲームの王国(上・下)』小川哲(早川書房)



▼01月23日 『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫)

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【海猫沢めろん 書評】
この本は、高野秀行さんの自伝的なものなんです。
話のつかみが良いんですよね。
高野さんにはお会いしたことがあるんですが、冒険家とは思えない内向的な性格なんですよ。
「第1回酒飲み書店大賞」というのを受賞しているんですけど、
この本を知ったのも書店員さんに勧められてなんですよね。
この本は誰もが通るモラトリアムの時期をうまく書いていて、最後の切ない感じも好きです。

▼高野秀行『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)


▼01月09日 『ファイトクラブ』チャック・パラニューク (ハヤカワ文庫NV)

紹介するのは、新版チャック・パラニューク「ファイトクラブ」 (ハヤカワ文庫NV)

▼音声はコチラから!

【書評】
いつ読んでも面白いです。
社会や常識、制度って誰かが決めたことじゃないですか。
「決められたことに踊らされるな!すべてをぶっ壊せ!」ということが
この本に書かれているので、10代のころに読むとより良いんじゃないですか?
映画も良いですが、本も読みやすいのでおすすめです。

▼新版チャック・パラニューク「ファイトクラブ」 (ハヤカワ文庫NV)


▼01月02日 『BL古典セレクション2 古事記』海猫沢めろん(左右社)



▼12月25日 「今年良かった本」




海猫沢めろんが、心に刺さった1冊を皆さんにご紹介する「夜猫図書館」。

1. 奥田亜希子著『青春のジョーカー』 (集英社)


   編集者が帯に「オススメです!」と書いているほど面白い作品。
   自分の青春をよみがえらせる内容になっている。

2. 藤田祥平著『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』 (早川書房)


   以前、この番組にもご出演していただきました!
   ゲームや文学が好きな人でなくても楽しめる作品。

3. 王谷昌著『完璧じゃない、あたしたち』 (ポプラ社)


   女の子同士の小説を更新したと思える作品。
   23編入っているので、読みやすい。

4. 浅原ナオト著『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』 (角川書店)

“今年っぽい”と感じた作品。


▼12月19日 『アメリカ死にかけ物語』リン・ディン(河出書房新社)


海猫沢めろんが、心に刺さった1冊を皆さんにご紹介する「夜猫図書館」。

▼音声はコチラから!

【海猫沢めろん】
あるアメリカの街の話なんですよね。これノンフィクションでこのリン・ディンさんって、今から3年前ぐらいにアメリカ旅行をしながら特にアメリカの低所得層とかちょっとあまりいけないタイプの人たちを取材して、話を描いているんです。
ホームレスとかコカイン中毒の人とかも描いていて、その人たちのリアルな声を記している本なんですよね。
こういうのはすごい貴重だと思うんですけど、読んでて日本もアメリカも変わんないなって思ったんですよね。
というのは、僕、10年前くらいに小説の取材のために大阪の西成に1か月ほど暮らしていたんですよ。
もともと大阪の出身で、別にお金持ちの家でもなく、学歴もないわけですよ。だから、あんまり違和感がなくてそこで住んでても(笑)。すごいところなんですよ? 西成って(笑)。
メディアで見れるかもしれないですけれども、日本で唯一暴動が起こる町ですよね。住んでる方はすでに高齢化が始まっていて、昔は労働者が多かったんですけど。
東京での出版の仕事ではみんな高所得で高学歴の人なんですよ。で、そのギャップと言うか「絶対に分かり合えない感じ」が凄いしていました。地方と都市の格差みたいなものが如実に感じていて、今回の『アメリカ死にかけ物語』も同じだなって思ったんですね。

トランプが大統領になった時に、みんな「おかしい」って話をしてたんだけど、僕はそうじゃなくて、「これが正しいんだ」って言ってる人の意見をもっと聴きたいと思ったんですね。
でもそういう人がアメリカの作家でいるかなと思ったらいなかったんですよ。
僕がすごいなと思ったのは、ここで出てくる“底辺の人”は問題がすごく分かっていて『政治が悪い』っていう話をすごいするんですよ。
それに結構驚いて、なかなか西成で住んでいるときにそういう話をするおじさんがいなかったんですよね。日本は文句言えなくさせているってのはあって、リンさんも日本にこの間までいたみたいで西成行ったみたいなんですよ。
聞くところによると日本っていうのは、「これをしなさい。あれをしなさい。」とか「道路のこっちを歩きなさい。駅に行ったらここに並びなさい。」とか、恐ろしい国だと思われたそうです(笑)。
僕らは暮らしているとわかんないけど、ディストピアですよね。
そんなに命令をしてみんながそれを守っている、ってなかなかないですよ。
この本は、本当にいろんなことを考えさせられるし、今読まれるべきものだと思います。



▼12月12日 『メルキオールの惨劇』平山夢明(ハルキ・ホラー文庫)


海猫沢めろんが、心に刺さった1冊を皆さんにご紹介する「夜猫図書館」。


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【海猫沢めろん】
僕は日本でリスペクトしている作家10人あげろって言われたら、平山さんが入るんですよ(笑)。
『メルキオールの惨劇』は平山さんの初期の作品なんですよ。これはホラーなんですけど、ホラーって皆さんイメージするのは、「ちょっと怖いもの」ってイメージですよね。ホラーって怖いっていうのも必須なんですけど、僕はキャラクターが重要だと思うんですよね。
例えば『13日の金曜日』ってジェイソンですし、『リング』だと貞子じゃないですか。で『呪怨』 は伽椰子で、『富江』は富江でしょ?
ホラーもので人気があるものってキャラが立っているんですよね。
『メルキオールの惨劇』のキャラは何なのかというと、メルキオールなんですよ(笑)。
どんなキャラかというと、とても頭の悪いスキンヘッドの筋肉男なんです。
このメルキオールって普段は「朔太郎」という名前なんですけど、実は天才の人格を持っている。
主人公は依頼をされて探偵みたいな感じで、人の不幸品や不幸な臭いがする商品を買取に行ってそこでメルキオールと出会って……という。

平山さんの作品は「自分もそっち側の人間なんじゃないか」って思うような内容で、狂気への距離感が他人事ではないんですよね。「自分がひどい人間である」ということを知っていることは重要だと僕は思っていて、平山さんの作品からも伝わってくるのが好きなんです。
平山さん最近、すごい長い間連載していた『ボリビアの猿』という小説が終わったそうで、来年出るんじゃないかと言われていて、僕もむちゃくちゃ期待しているんですね。
ぜひ、みなさん年末にかけて読んでほしいですね。




12月05日 『くるぐる使い』大槻ケンヂ(角川文庫)について滝本竜彦さんとトーク



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【海猫沢めろん】
この作品っていうのは94年に刊行された短編集なんですけどその中の一つが『くるぐる使い』で、作者は当時・筋肉少女帯のボーカリストとして当時超人気だった大槻ケンヂさんです。この後ゲストに来ていただく予定の滝本さんにここでもお話を聞こうと思います。よろしくお願いします。

【滝本竜彦さん】
よろしくお願いします。

【海猫沢めろん】
実は滝本さんも結構影響を受けているんですよね。「月刊カドカワ」っていう雑誌がありまして、編集長が現在幻冬舎にいる見城徹さんで、ミュージシャンに小説を書かせていたんですよね。 TM NETWORK の木根尚登さんや尾崎豊さんなどなど。『くるぐる使い』は今読んで面白いです。

【滝本竜彦さん】
僕は高校時代にその結果は本屋さんで立ち読みして、この小説に衝撃を受けてびっくりしました(笑)。

【海猫沢めろん】
その小説は何でした?

【滝本竜彦さん】
『グミ・チョコ』かな?

【海猫沢めろん】
『グミ・チョコレート・パイン』というのは大槻ケンヂさんの自伝的青春小説でね、フィクションとは違う感じなんですけど、終わったのかな?「グミ編」、「チョコレート編」、「パイン編」ってあったけど・・・。

【滝本竜彦さん】
終わって、僕が「パイン編」に解説が書きました。

【海猫沢めろん】
あぁ!そうか!!おれ最後読んでないかもしれないなあ・・・。
で、この『くるぐる使い』は短編集っていうことで5つ収録されているんですけど、すごくいいんですよね。どれが一番好きでした?

【滝本竜彦さん】
最後、影男が出てくるやつ。

【海猫沢めろん】
『春陽綺談』ですね。
ちなみに最初に出るのが『キラキラと輝くもの』っていうので、こ妹とお兄ちゃんの話です。妹が宇宙人にさらわれた主張し始めるんだけど、これも非常に良いんですよね。

【滝本竜彦さん】
どんな話でしたっけ?

【海猫沢めろん】
妹がおかしくなっちゃうんですよね。それで宇宙人にさらわれたって話をするんだけれどもお兄ちゃんは全然それを取り合わなくて、だけど実はなんかネタバレになるから言えないんだけど、結構精神的な話なんですよね。でもこれ読み直すと、滝本さんが昔、漫画の原作やったじゃないですか。UFOに連れていかれるやつ。『山田さんの夏』を思い出してハッ!となって。

【滝本竜彦さん】
知らず知らずのうちに影響を受けていたんですね。

【海猫沢めろん】
そして『くるぐる使い』というのは入院してるおじいちゃんの昔の話なんですね。神がかり的な力を持った少女が大道芸をやらされてたんですけど、その少女の悲しい恋の話なんですけどね。その話をおじいちゃんがどの病院で回顧しているって言う話ですけど、これは表題作だけあって、第25回星雲賞、しかも吉川英治文学新人賞の候補にもなっているという(笑)。すごいですよね。とって欲しかったですけど・・・。
『憑かれたな』っていうのがエクソシストとの戦いでこれもすごいいいんですね。エクソシストかと思ったら役者なんですねエクソシストが。いろんな演技をしながら戦うんだけどみたいな話で。
『春陽綺談』というのは、自分の世界に閉じこもった少年が毎日鉛筆の先を尖らせて暮らしていくっていう話なんですけど、ひきこもりの話を書いていた滝本さんに非常にシンクロしていますね。
最後が『のの子の復讐ジグジグ』といういじめられている女の子が逆転劇を測るみたいな話で、ポイントを読んでて思ったんですけど、電波とか狂気とも言うものがすごいテーマになってて、今でいう陰キャっていう存在にフォーカスしたもので、90年代っぽいですよね。この作品は1994年のものだけあって、その前後の世紀末感もちょっとあるし、やっぱりこれすごいいろんなところに影響を及ぼしていて、PC のアダルトゲームとかにも影響を与えててLeafの『雫』っていう伝説的な作品にもかなり影響を与えていますよね。江戸川乱歩とか昭和の時代エログロナンセンスとかアングラ感みたいなのを90年代的なサブカル感でアップデートした感がものすごいあって、読むとまだまだ読めて面白いですよね。

【滝本竜彦さん】
今のサブカルチャーの源流の一つで、ものすごく影響を受けましたね。特に大槻さんの描く女性キャラってなんかすごい魅力があって、影のある魅力みたいな。

【海猫沢めろん】
メンヘラ的魅力がありますよね。

【滝本竜彦さん】
メンヘラ的な魅力があって、愛情というかそういうものに影響を受けちゃいました(笑)。



▼11月21日 『ナウ・ローディング』詠坂雄二


あらすじ

主人公の柵馬は専門学校で講師をするゲームライター。
ある日、卒業生した生徒が10年後の自分達に向けて書いたタイムレターを処分していると、そのなかの一通が目にとまる。
「just one more turn(もう1ターンだけ)」
それはシヴィライゼーションというゲームに現れるキーワードだった……。
その言葉は彼自身の人生と重なり、くすぶっていた心を動かす。そして……。
第一話。「もう1ターンだけ」
第二話は「悟りの書をめくっても」ドラクエのRTAリアルタイムアタック、動画配信。
第三話「本作の登場人物はすべて」ダウンロード販売と同人アダルトゲーム
四話「すれちがう」3DS mii このあたりから変になってくる。よみさかという作者と少年たちの話。
最終話「ナウローディング」ここにきてもはやゲームが関係なくなってしまう。主人公はよみさか。かつて連続殺人鬼をつかまえた探偵が帰ってくる……。彼女と出会うことでまたなにかが始まる……。

ということで。この作品。世界観をともにする5つの短編が収録されています。
一応はゲームがテーマになっているんですが……ちょっとへんなんですよね。
ゲームライターのサクマが語り手なのは冒頭の一話目。次からは脇役。
最終話では作者のよみさかゆうじが語り手になる。
連載したものをまとめたのでこういうふうになってるけど、連載当時と順番も変わっていて、最終的には小説家自身の物語へ回帰していく構成になっている。

詠坂さんはミステリの賞である、メフィスト賞への投稿常連だったんですが、ミステリの定番として書き手と登場人物がイコールであるという設定がある。ホームズもワトソンの手記ですよね。エラリイクイーンも探偵と作者が同じ名前。日本では法月倫太郎が有名でしょう。

『ナウ・ローディング』は一応『インサート・コイン(ズ)』のつづき。

ゲームを題材にした作品、いとうせいこう「ノーライフキング」押切連介『ハイスコアガール』、ドラマ「ノーコンキッド」藤田くんの「手を伸ばせそしてコマンドを入力しろ」「電遊奇譚」、赤野工作「ビデオゲームウィズノーネーム」川上稔「連射王」大塚ギチ「東京ヘッド」

私小説になってる。ナウローディングの意味。>読み込み中

ゲームに限らず、文化を語ることには価値がない。しかしそれでも語らざるを得ない。

”ノスタルジーとは変わらないことの確認です。(略)変わるのは遊び方――遊ぶ側です”

と述べられているように、ゲームの楽しみ方は常に新しく更新されているのだ。その「今」が確認できる良作。


▼11月14日 『箱の中』木原音瀬(講談社文庫)


▼音声はコチラから!

<あらすじ>
主人公・堂野崇文は、ある日痴漢の冤罪で実刑判決を受け、刑務所に入れられてしまう。入れられた雑居房には殺人や詐欺を犯したというクセのある男たちがおり、善人の堂野にとって理解しがたい人間たちだった。堂野はその中で人間不信に陥るが、同じ部屋にいた喜多川という不思議な男の無垢な優しさに救われ、二人の関係が深まっていく。

(感想:歌人・枡野浩一さんより)
三浦しをんさんが雑誌『ダ・ヴィンチ』で『箱の中』を紹介していて読んだ。こんな流れなら男が男を愛すると思った。続編『檻の外』は翌朝、吉祥寺のパルコブックセンターに駆け込んで買った。書店の開店時刻を待つほど続きを読みたくなった小説は生まれて初めてだった。

めろん
「講談社文庫版を紹介しているのだけど、もともとそれぞれ別の出版社から『箱の中』と『檻の外』が出ていたのを1冊にまとめたという非常にお買い得な文庫です!」

「『ダ・ヴィンチ』という本を紹介する雑誌があるのですが、誌上で“BL界の芥川賞”と呼ばれたのですね。三浦しをんさん自身もBL作品が好きで、『箱の中』の解説をされています。

”本作は愛によって人間が変化していく様、真実の愛を知った人間が周囲の人間に影響を与えていく様を高い密度で表現している”

と書かれていて絶賛していて、この絶賛に負けないくらいの作品なんですよね。

BL(ボーイズラブ)と呼ばれるジャンルの作品で、「読まない!」という人もいるかもしれませんが、幅広い作風のものがあり、傑作もいっぱいあるので、BL作品をあまり読んだことない人も、この作品から入るというのも良いと思います。」

「純愛ものの話で、“たまたま出会ってたまたま深い関係を結んだ人が男だった”というだけの話なので、男女の恋愛と変わらないのでぜひ、読んでもらいたいですね!」




▼10月24日 『氷』アンナ・カヴァン(ちくま文庫版)



海猫沢めろんが紹介する今日の1冊は、アンナ・カヴァンの『氷』です。

☆音声はコチラから!

今日の1冊は、イギリスの作家、アンナ・カヴァンの「氷」(ちくま文庫版)。

どんな小説かというと「幻想的で暗い」。
日常でも暗闇を見つめていると、だんだんといろいろなものが見えてきますけど、暗さのなかにも豊かさがある作品です。

~物語のあらすじ~

異常な寒波のなか、私は少女の家へと車を走らせた。
地球規模の気候変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。
やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、要塞のような“高い館”で絶対的な力を振るう長官と対峙するが……。
迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで、世界中に冷たい熱狂を引き起こした伝説的名作。

この本が日本で発表されたのは1985年。ぼく(=海猫沢めろん)が初めて読んだのは2005年くらいだったと思います。

「氷」は日本では3種類存在します。最初のサンリオ、バジリコ、ちくま文庫版、ぼくはある編集者にすすめられサンリオSF文庫版を読んだんですけど、このサンリオってきいたことありませんか?

サンリオといえば……みなさんキティちゃんを思い出しますよね。
キティちゃんのサンリオは昔、SF文庫本をつくっていたんですね。

78年から87年にかけて刊行していた。わずか9年。このサンリオSF文庫はファンのあいだでは人気で、古本屋では常に高値がついてます。

カフカ的と言われるアンナ・カヴァンの作風ですが、とにかくエンターテイメントの逆で、何が起こっているのかわからないまま、悪夢のなかをずっとうろうろしている小説がけっこうあります。

眠れない夜とか、ものすごい憂鬱なときに「氷」を読むと、なぜかわからないけど安心するんです。明るい小説だけが人を救うわけではないということです。

この作品は日本ではいわゆる「セカイ系」といわれているものにかなり近いんです。
「セカイ系」というのはいろんな定義があるんですけど、ぼくは、主に思春期のすごく狭い自意識の世界を描いた、エヴァンゲリオンのような作品だと思っているんです。

アンナ・カヴァンは30代にヘレンファーガソン名義でロマンス小説を書いていて、40代くらいから筆名を変えてから作風が変わりました。
思春期特有の鋭い感性みたいなものを、晩年に手に入れたというのはすごく珍しいですね。作家のほとんどは40代あたりで丸くなっていきますからね。

作者は1968年、ロンドンで心臓発作により死亡。
ヘロインを常習していたことから作品とドラッグの影響を結びつける人が多いですが、そうではないと思っています。

これはヒッピームーブメントのときにいろいろな芸術家が言っていることで、まず精神から作品が生まれるのであって、ドラッグをやってもともとの精神が変化したり、作品が変化することはないと思います。


▼10月03日 『君の話』三秋縋(早川書房)


音声データはこちら。


今日紹介するのは今年の夏に発売されたばかりの新刊、三秋縋さん『君の話』です。
この本、ぼくは冒頭をネットで読んで発売日に買ったんですが、あっという間に人気作品になってしまって……。
番組ではなるべく埋もれた名作を紹介したいと思っているんですが、今回はちょっと特別ということで。
さっそくこの本のあらすじから。

▼あらすじ

薬を飲むことで、存在しない偽の記憶「義憶」を持つことができる近未来。
人々は、まるで映画や小説を読むように、義憶を作り出し、存在しない美しい記憶、楽しい記憶を自分に植え付けることを楽しんでいる。
主人公の孤独な青年、天谷千尋の両親もそのような義憶マニアだった。
嘘でつながった形だけの家庭に失望していた彼は、どんなに味気ない人生でも、虚飾に満ちた人生よりはずっとましだと考えるようになる。
彼はある日、どうせ味気ない人生ならすべて消してやろうと、クリニックへ行ってカウンセリングを受け、レーテという記憶を消す薬を買う。
ところがそれを飲んでしばらくすると、あるはずのない幼少期の記憶が蘇る。
それは、夏凪灯花(なつなぎ とうか)という少女との完璧な美しい思い出。
嘘だとわかっていても、その記憶は砂糖菓子のように甘美であまりにも魅力的だった。
そしてある夏の花火大会の夜。
千尋はいるはずのない幼馴染とすれ違う。
数日後、アパートの隣の部屋にその少女、夏凪灯花が暮らし始める……果たして彼女は本物か、偽物か。

というのが前半です。
後半、千尋のもとにあらわれた夏凪灯花の正体がわかり、この物語はガラリと視点を変えます。
一応ネタバレしてしまうかもしれないので、ここまでに。

▼ぼくが刺さった場所
ぶっちゃけこの本はあんまり人に紹介したくないタイプの本です。
好きすぎて紹介したくない。
この物語、素晴らしいところがいくつかあるのですが、まず言っておきたいのは。
これは君の話じゃない!俺の話なんだよ!っていうことです!

つまりどういうことかというと……

・ここで言われてる義憶が、ライトノベルやアニメなどを含むフィクションであることは明白。そうしたものへの批評になっている。
・主人公の親は、おとなになっても現実を見ずにフィクションに耽溺している……つまり俺です! そして、主人公はそんな大人を軽蔑している……これも俺なんだよ! そして最後には……まあネタバレなんで言いませんが、とにかくそれも俺なんですよ! 全部俺なんです!

まあそんなふうに感情的になってしまうんですが、この作品はただ読者をせつなくさせたり、泣かせたりするだけじゃないんですよ。

前半だけ読むとエロゲ的であるが、後半が面白い。エロゲ的なキャラクターにとって自分もまたエロゲ的キャラクターであるかもしれない、という、逆説的視点になっている。
ものすごく批評的というか、作品がどのレベルでどう読まれるかということに自覚的なんですね。無自覚に気持ち良い物語を書いているわけじゃない。それを示す一節、



”義憶技工士は比喩を用いない。小説の読者や映画の観客と違い、義憶の所有者はそこにあるものをそこにあるものとしてしか認識しない。
ここに描かれている情景はなんのメタファーなのか、ここで挟まれる挿話はなんのアレゴリーなのか、といったパズル的読解を行わない。
与えられた物語に過剰な意味を見出そうとはせず、人生を享受するように義憶を享受する。
だから私たちも芸術的野心など持たず、ただ心地よいエピソードを連ねることに終始する。
このため、物語を仕事にしている人々のあいだで、義憶技工士はファストフード店みたいな扱いを受けている。”

ある種の物語って、記号的な道具だけで泣けてしまうことがある。
だけど、慎重な作家ほど小説を書く時、そこになにを描くかをきっちり考えている。それはなにかの比喩だったり、なにかの象徴だったりしないと必然性がないんですよ。
この小説はここで「そのこと自体がすべて必然的なんだ」という説明がされている。

書き割りのはずのただの文字、それが異様な魅力を持ってしまうという小説というメディアの魔力を引き出している。
読んでいると、主人公の体験している偽の記憶の甘さが、そのまま読者の体験とイコールで重なる。
このあたりは素晴らしい。
おそらくこれは映像にすると半減する。

記憶とアイデンティティっていうのは海外だとPKD作品、最近だとブレードランナー2049などが扱ってるテーマで、とくにブレードランナーのほうでは記憶創造者っていう職業が出てくる。
だいたい着地点は似たものになるんですが、この作品はテーマが強固でありつつ、エピソードが美しい。

三秋さん
もともとは「げんふうけい」名義で、Web上に作品を発表していた。
寿命に最低価格の値がついた少年の余生を描く「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」(『三日間の幸福』に改題され書籍化)
時間を巻き戻したのに元の人生を再現しようとする「十年巻き戻って、十歳からやり直した感想」(『スターティング・オーヴァー』に改題され書籍化)

▼数珠つなぎ
PKD「記憶売ります」
村上春樹『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』は、1981年に発表された、村上春樹の短編小説。
「ブレードランナー2049との類似……と思ったらインタビューでPKディックの影響を話していた。

島田荘司「異邦の騎士」
イアン・マキューアン「贖罪」

BGM art-school「シャーロット」


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