本屋にて

本屋に来た

買いたい本は特にないが、タイトルに惹かれて購入を決めるのは僕の常だ

本屋の梯子をすることもよくある
一店目で見かけた気になる本が、二店目にも置いてあったら買うことにしよう、
そんなエンタメを日毎に組んでみるも、数分後には忘れてしまうなんてありがちだ

気になった上で、本当に欲しい物ならおぼえているものだろう、
とは友人の語り口だが、寄り添い離れぬ老いには無意味だ

サブカル書籍コーナーで窮屈そうなゴーリーの絵本を見て、なんとも言えぬ感情を抱く
隣に並んだ妖怪事典らしき本は、確か一店目では民俗学コーナーに置いてあったぞ
置き場所は店ごとの裁量に任せているということだろうか
潰れてしまった地元の本屋では、ゴーリーの絵本が美術書コーナーにあった
確かにジャンル分けがしにくい作品だもんな
作者が明言しなけりゃそれまでの話だ
かと言って、第三者の勝手なタグ付けというのもなんだかなと思ってしまう

向かい側の棚から、ホームズ用語辞典を手に取った
中をパラパラと捲って、あっさり購入を決意する
その隣の隣の棚にあった百合小説アンソロジーを手に取って、中を見るまでもなくお買い上げを宣言する
僕にとって本屋の楽しみ方とはこれだ
欲しい深い知識を得るために本を読むのではなく、
もっと浅く、眼前の興味欲を満たすためのもの
高尚な理由なんて後付でしかない

もう一つ理由があるとすれば、
たくさんの書籍に囲まれていると焦りが生まれるから
ああ、僕も何かを作らなきゃ
そんな気持ちになる
創作意欲が湧くのではなく、創作しなきゃいけない感覚に落とし込む
何もしてないことに罪悪感を与えてくれる
本屋とはそんな場所だ

レシピ本コーナーに行く
申し訳ないとは思っているが、レシピ本に関しては良さそうな本を見つけたら電子書籍で購入する
料理中は本を捲るよりスマホを弄る方が楽なんだ
その代わり数千円分他の本を買っていくから許してくれよと思う

レシピ本コーナーでは、白髪を蓄えたご年配の方が難しそうな顔をして立っていた
少し離れて僕も横に立つ
このご老人にもいろんな人生や事情があるんだろうなあ、と想像して
何か創作のヒントを探してしまうが、咄嗟に失礼だと、いや別に心の声が漏れるわけでもなしと考え直した

横目でどのレシピ本を手に取るのか追ってしまうが、彼はなかなか手を出さない
ふと、だいぶ昔にアダルトショップでDVDを見繕っていたとき、白髪で眼鏡のおじいちゃんに「この女優さん美人だよねえ」と話しかけられたことを思い出して
なんだか鼻から息が漏れた
状況はまったく違うってのに、記憶とは面白いものだ

ややあって、隣の男性を同じ歳くらいの女性が迎えに来た
二人は笑い、連れ合って店を出ていった

ああ、第三者の勝手なタグ付けとはこれか

小説のジャンル分けや楽曲のジャンル分け
きっと手に取った人の印象で様々なんだろう
僕がなんとも言えない気持ちを抱いたのだって、疑問符が浮かんだからに他ならない
結局僕も誰にとっても第三者だ
評価をする前に基準を設けて、
外れた存在に厳しい意見をぶつけているだけ

下の階のカルディに寄ろうか
カルディオリジナルのレンジで作るチャーシューの元が気になってたんだよな
でもあの店は混む上に、狭くて物を倒してしまいそうだからな
そう考えながら本をレジに通し、財布の中身を覗く
他に買い物する余裕はなさそうだ
じゃあ、また今度
次見かけたときにでも買うとしよう



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